スレイプの試練
俺を値踏みする目、疑う目、興味深く見守る目。五百近い午人たちの視線がこちらへ向けられている。
俺は中央へ歩いた。
「あれ、魔道具だったのか。ずっと飾りだと思ってた」
「議会場ができた頃から置かれてるって話だぞ」
感覚を研ぎ澄ませば、午人の一人一人の囁きも聞き取れる。だがスレイプの言ったとおり、この魔道具について知っているものはいなさそうだ。
俺は装置の前に立った。
長い年月を経て黒ずんだ、石造りの筐体。
だが、表面には精密な魔法陣が刻まれ、ただ古いだけの代物ではないことが分かる。
俺は冷たいそれに指先を触れ、魔力を流し込む。
――反応はない。
壊れているからなのか、あるいは、使い方が違うのか。
「スレイプよ」
ケイローンが少し慌てた様子で口を開く。
「午人の歴史に関わるものを、リバティ殿に問うてしまってよいのか? これは長く伏せられてきた歴史ぞ。知っているのは長老と、一部の者のみであろう」
だが、スレイプは眉一つ動かさなかった。
「案ずる必要はありますまい、ケイローン。並の魔道具師では、これを見ても何も分からぬ。同じものは存在せず、作られたのは遥か古代。用いられている技術体系も今とは異なるものです。この賢人の森にも魔道具師はおりますが、誰一人として解析できていない」
そしてその鋭い視線を俺へ向ける。
確かに、これは俺の見たことのない構造だ。
だが、一つ分かったことがある。
この装置は、ここにある筐体だけで完結していない。
魔力の流れがどこか別の場所へ繋がる前提で作られている。
「もし答えられたなら、大魔王などという肩書きは関係なく、本当に優れた魔道具師ということになる。もっとも、子人――ドワーフならともかく、申人の魔道具師に理解できるとは思えませんが」
スレイプが嘲るように言うと、周囲からも声が上がった。
「この問題は、さすがに難しすぎるんじゃないか?」
「相手は初見だろう? 午人の文化にも詳しくないはずだ」
俺を擁護する声まで混じっている。
するとスレイプが再び語り始めた。
「よろしい。では、少し昔の話をしよう。はるか昔――この賢人の森に、王がいた。その王は、民を支配し、意思を統一するためにこの魔道具を用意した」
そこでスレイプは小さく首を振った。
「だが、この魔道具の力は強すぎた。それぞれの民の意思は完全に無視され、強制的に従わざるを得なくなってしまったのだ」
議会場にざわめきが走る。
「そんな危険なものだったのか……」
「壊れていてよかったな」
「もし今も動いていたら……」
スレイプは構わず続ける。
「結果、民の多くは王に反旗を翻した。王に従うものと、反抗するもの。賢人の森は分裂し、争い合い、多くの血が流れた」
黒い瞳が、まっすぐ俺を射抜く。
「そして最後には、王は追放され、民の手でこの魔道具は破壊された。
――これが、午人の悲劇だ」
静かな口調だった。
だが、議会場に、重い空気が広がる。
「いったい、どんな恐ろしい魔法が込められていたんだ……」
「まるで古代の禁呪ではないか」
先ほどのスレイプの話では、この魔道具によって無理やり支配されそうになった午人たちが暴動を起こし、森全体を巻き込む惨事に発展した、ということになる。
だが――俺には、この魔道具がそこまで邪悪な代物には思えなかった。
「この魔道具は、危険なものじゃない。むしろ、かなり便利なものだ」
俺は静かに口を開いた。
スレイプが目を細める。
「ほう? 元首殿は、先ほどの私の話をちゃんと聞いておられましたかな?」
わずかに挑発が混じる声だった。
俺は気にせずに答える。
「ああ、聞いていた。スレイプ、お前が嘘を言ってるとは思わない。だが、この魔道具は、少なくとも悪意を持って作られたものじゃない」
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