魔道具の正体
ざわつく議会場で、俺は説明を続けた。
「この装置は、中央の筐体だけで完結していない。床下を通して、会議場全体と接続されている。つまり、この議会場そのものが一つの魔道具みたいなものだ」
俺は床を軽く鳴らした。
「この会場が全部魔道具って……まさか、洗脳装置!?」
「従わない者を処分するような魔法が仕込まれていたのでは――」
不穏な声が広がる。
俺は首を振った。
「違う。会議の参加者に対して影響を与えるものじゃない。魔力の流れる向きは逆なんだ」
俺は装置の魔法陣を指でなぞる。
「技術体系は古いが、魔道具の原理は同じだ。幾つか未知の魔法陣もあるが、配置から見て補助機能。流れる魔力量の制限、といったところだろう」
床下の導線を追いながら続ける。
「それらを除けば、この魔道具がやっていることは比較的単純だ。簡単に言えば、会議の参加者の席に微弱な魔力を流すと、それらを集めた結果をここへ表示する。それだけだ」
「えっ……それだけ?」
「そんなもの、何の役に立つんだ?」
午人たちが困惑する中、スレイプが口を開いた。
「ほう。では聞こう。これは何をする魔道具だ?」
俺は断言した。
「これは――投票装置だ」
議場が揺れた。
「投票……?」
「それが午人の秘密だって?」
スレイプの視線が鋭くなり、厳しい口調に変わる。
「午人に悲劇をもたらした魔道具が、ただの投票装置だと言うのだな。本当に、その結論で良いのか?」
俺はすぐには答えず、魔力の流れに意識を向けた。
先ほどの俺の言葉で、何人かが、半信半疑のまま座席へ魔力を流し始めていた。それらが中央まで流れているのがわかる。
だが、流れは途中で切れていた。
「……ここか」
筐体の側面。構造の一部が崩れ、導線が断たれていた。これでは集計結果が表示されない。
俺は破損箇所に手を当てる。
『生成行列!』
圧縮された光が空中で形を持った。
欠損部分と同じ構造を持つ部品を生成し、そのまま筐体へ埋め込んだ。
すると、流れ込んだ魔力が中央へ集まり、沈黙していた装置の表面に、淡い光の数字が浮かび上がった。
「……これで動く」
スレイプが目を見開く。
俺は議場を見回してこう言った。
「ここにいる皆に聞く。俺の滞在に反対する者は、自分の席へ魔力を流してくれ」
やがて、装置の数字がゆっくり変化し始めた。
三十……五十……八十。
やがて、数字は百で止まった。
「つまり、この場に百人、俺の滞在に反対する者がいるわけだ。誰が反対しているかは分からないがな」
会議場にどよめきが広がる。
「おお……本当に集計されている……」
俺は装置に軽く手を置いた。
「これが古代の投票装置だ。匿名のまま、全体の意思を可視化できる」
スレイプがゆっくり口を開く。
「……まさか、答えるだけでなく修復までしてしまうとは……元首殿、どうやら貴殿の魔道具師としての腕は本物らしい」
俺は大きな疑問をスレイプに投げかけた。
「だが、分からないことがある。どうしてこんな便利な魔道具が、午人たちを争わせることになったんだ?」
スレイプはすぐには答えず、確認するようにケイローンを見る。
ケイローンは小さく息を吐き、静かに頷いた。
「……古代の午人の王は、物事を迅速に決めるため、この装置を用いて採決を行った」
スレイプは厳かに語り始めた。
「多数決。過半数を得た案は、そのまま決定事項となった。だが中には、半数近くが反対する決定、というものも存在する」
周囲の午人たちも静まり、その話に耳を傾けている。
「最も象徴的だったのが、魔法管理法案だ。古の王は、街の安全を理由に、魔法使用者を厳しく管理する法を提案した。魔法の利用目的は制限され、登録が必要になった。当然、反対意見も多かった。
……採決の結果、わずかな差で賛成が上回り、法案は施行された。
だが、反対派は、その結果を受け入れられなかった。半分近くが望まぬ決定を、強制されたからだ。
やがて森は二つに割れ、争いが起きた。
……それが、午人の悲劇だ」
しばしの重い沈黙。
ケイローンが口を開き、続きを補足した。
「それ以降、この街では多数決による採決は禁止された。議論は、全員が納得するまで続ける。それが賢人の森の掟となった」
なるほど。
だから、この森では結論の出ない話し合いを延々と続けているのだ。
決めることより、誰も切り捨てないことを優先している。
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