賢人たちの会議
午人たちの議会場――その内部は、想像以上に広かった。
中央の広間を囲むように、円形の席が幾重にも連なっている。段差に沿って配置されたその席には、午人たちが間を開けずに座っていた。見渡す限り、ざっと五百はいる。
議論は活発に行われていた。誰かが口を開けば、間を置かず別の声が重なる。
「仮に大魔王を受け入れるとするなら、まずその責任者を決めねばならん。大魔王が何か問題を起こした際に責任を負う者だな」
「では受け入れないとする場合はどうなる? 拒絶された魔王によって被害が出た場合、その責任は誰が負う?」
「待て。大魔王はアースガルドの元首でもある。大国との関係悪化の責任も考慮すべきだ」
「では、その責任の所在をどう決める?」
「責任者を選定する責任者を決めなければなるまいな」
「その役を誰が担うのだ?」
「ではそれを任命する特別委員会を設置するのはどうだろうか」
「委員の選出は?」
「それはなかなか難しい議題だ。明日決めるのはどうだろう」
――話は何一つ進んでいなかった。
賢人の森。そう呼ばれる場所で、こんな無意味な会議が行われているのか。
「では本日の議論はここまでとする。最後に発言はあるか」
会議が締められそうになったところで、
「悪いが、一言いいか」
俺は声を張った。
ざわめきが止まり、視線が一斉に上を向く。
俺は天井から中央へ降り立った。
「何者であるか?」
「俺は、リバティ・クロキ・フリーダム。アースガルドの元首だ」
「件の……大魔王か」
場はどよめき、空気が張り詰めた。
「なぜここに? まだ滞在許可は出ておらん。この街を歩くことは認められていないはずだ」
午人の一人が声を張り上げた。
「ああ。だから歩かずに、飛行して来た」
「……詭弁だな」
「いや、俺は街を歩いてはいけない、としか言われてないからな」
ここはもう言い切るしかない。
「規則違反に該当するかどうか、議論が必要だ」
「早速、特別委員会を設けよう!」
「いや、そこじゃないだろ」
議論がまたあらぬ方向に行こうとしている。
「頼む」
俺は頭を下げた。
「俺たちはどうしても原理の大図書館に入りたい。ムスペルの巨神に関する情報が必要なんだ。聖女を救うために……時間が、ないんだ」
回りくどいことをしている余裕はない。俺は本題をそのままぶつけた。
「確かに、原理の大図書館の知は共有されるべきものだ」
「だが、大魔王を受け入れてよいのか」
「一国の元首であることも事実だ」
「大魔王など信用できん。そもそも、正しき志を持つ者が魔王になるのか? 聖王や神を目指すものではないのか」
様々な意見が飛び交う。
ちなみに俺が魔王になったのは、追い込まれた末の選択だった――そんな言い訳を並べる気はないが。
「静まりなさい」
低く、よく通る声が中央から響いた。
ざわめきが一瞬で収まる。
そこにいたのは、ひときわ年長の午人だった。歳を重ねた証の真っ白な髪と髭、そして毛並み。穏やかそうに見えるが、場の空気を支配するだけの影響力がある。
「……ケイローン」
誰かが小さく名を呼んだ。
「仮にも一国の元首に対し、礼を欠く発言は慎むべきぞ」
場を見渡し、諭すように言う。
彼はゆっくりと前へ進み、俺に向き直った。
「申し訳ない、アースガルド元首リバティ殿。見苦しいところをお見せした」
そう言って、静かに頭を下げた。
この男が、賢人の森の長老、ケイローンか。
「そして――」
顔を上げ、言葉を続ける。
「ムスペルの巨神を抑えるため、聖女がその身を捧げることになったという話――その話は、すでにこちらにも届いているぞ」
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