森の番人
午人の一人は、ふわりとした金髪の少女。まだあどけなさが残る。大きな瞳で、こちらを真っ直ぐ見つめている。
その後ろに立つのは、白銀の髪を持つ女。視線は鋭く、明らかにこちらを警戒している。
「ヒッポ、少し下がれ」
制したのは、後ろに立つ銀髪の女だった。
彼女は弓に矢を番え、前に出る。
「ここから先は、悪意なき者のみが進める」
女は俺たちを見据えて宣言した。
「シルヴァ、この人たちから、悪意は感じないよ。でも何か焦ってるね……」
ヒッポと呼ばれた金髪の少女がポツリと漏らす。
だが、シルヴァと呼ばれた女は、弓を構えた手を緩めることはなかった。
「お前の感覚は参考にする。だが、それだけで通すわけにはいかない。あたしにもわかる。この魔力……ヒトの域を遥かに超えている……」
張り詰めた空気の中、俺は一歩、前に出る。
「俺は、リバティ・クロキ・フリーダム。魔道具師だ」
「魔道具師だって?」
シルヴァの目がさらに鋭くなる。
「そんな桁外れの魔力を持つ魔道具師がいるものか。魔王……いや、それ以上……」
「ああ、クラスは大魔王だ」
俺が答えると、その場の空気が固まった。
「だ……大魔王ッ! 最大危険因子だ。通すわけにはいかんが……かと言って勝ち目も……これをどう解く……」
慌てるシルヴァ。ヒッポも顔色を変える。
「シルヴァ、どうする? 死んだふりとか?」
「それは却下だ」
「……終わったね。短い人生だったよ」
ヒッポは目を潤ませながら、シルヴァの背後に隠れた。
「安心せい」
そこでエルマが前に出た。
「こやつはアースガルドの元首じゃ。無闇に力を振りかざす輩ではない」
するとヒッポが少し顔を出す。
「あ、それ聞いたことある。最近元首になった大魔王……評判いいって……貫禄以外は……」
なんか余計な一言が……
「大魔王など、あちこちにいるはずがない。ならばやはり、この男が元首……となれば、軽々しく武器は向けられない」
シルヴァが疲れ切った表情で弓を下ろし、こう呟いた。
「フ……もはや、大魔王とかけて大地震と解く、と言わざるを得ないな」
「その心は?」
「どちらも、周囲を震え上がらせる」
「ウマい!」
ヒッポだけが満足げに頷いた。
いや、ウマい……のか?
「では残りの娘たちは? 一人は……こちらも並ではない魔力を感じるな」
「儂はエルマ・フェンリル。仙人格の賢者じゃ。ここに来るのは八十年ぶりかの」
エルマが名乗るとヒッポが目を丸くした。
「え、八十年ぶりって……一体何歳? 見た目私と同じくらいなのに」
「小娘と同じにするでない」
その横で、シルヴァの視線がヴォイドへ移る。
「で……そこの娘は?」
「ロイナ・ヴォイド。AIロボティクスエージェントだよ」
「え、なにそれ?」
当人があっさり名乗るが、皆ぽかんとした顔だ。
「こいつはただの子供だ。勉強したくてついてきただけだ」
俺は慌てて誤魔化しのフォローを入れる。
シルヴァは答えず、じっとヴォイドを見据えていた。
「妙だな……まるで魔力が感じられない。完全に空だ。魔力欠陥か、それとも――」
「欠陥って、ひどくない?」
ヴォイドが軽く言い返す。
「私も、この子の中に何の感情も感じないよ。不思議」
ヒッポも近づいてきて、首を傾げた。
「でもさ、もう通すしかないよね。もし本当にアースガルドの元首だったら、ここで追い返したら国家間の問題になりそうだし」
シルヴァも諦めたように息を吐いた。
「……通そう。ただし、最終判断は上だ。ついてこい」
牛人の二人が先に立ち、導かれるまま、俺たちは森の奥へ進む。
しばらくすると森の景観が変わった。
大木が道を空けるように両側に揃い、枝は頭上で重なり、日差しを遮る。
足元の苔も手入れされているように均一に広がっていた。
通りの両脇には、木でできた素朴な家が並んでいる。
「ここが……賢人の森」
自然の中に、街が埋め込まれていた。
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