さらなる知を求めて
ヴォイドの働きで、ムスペルの巨神――スルトに対する理解は進んだ。だが――見えたのは、相手の途方もない力の規模だけだ。
「お兄ちゃんのロイナさんが、こんなふうに動けるようになるなんて……驚きです」
戻ってきたミーアは、青い髪の少女を見つめていた。
「正確には、ロイナ・ヴォイドだよ。ロイナの記録は引き継いでいるけど、ロイナが知らないことも知ってる。あと感情型のスキンを搭載してるね」
細かく訂正するヴォイドを、リリィも興味深そうに観察している。
「見た目はただの人間にしか見えないにゃんけど……これがミッドガルドの技術で作られた人造人間なのかにゃん?」
「人造人間じゃなくて、人工知能のロボだ。まあ、似ていると言えなくもないが」
ヴォイドは胸を張るように答えた。
「向こうでは、すでに一家に一台の時代だよ。お望みとあれば、掃除も洗濯も料理もできる。見返りは――新しい情報!」
「それにしても……あれだけの文献を、この短時間で読破したというのか……で、スルトに対する対策は見えたのかのう?」
読み終えた本の山を見て問いかけるエルマに、俺は首を横に振る。
確かにスルトの理解は進んだ。だが対策方法についてはまだ見当もつかない。
「圧倒的な力を持つことは予想できるが、記録に残っているのは後世の推測ばかりだ。スルトそのものを直接記した記録がない。弱点を探るには、もっと本体を掘り下げた情報が必要だ」
「何せ文明ごと滅びておるからのう。二万年より前のこととなれば、儂も古代遺跡の断片から予想するしかない」
「……それでも、もう少し何かが残っていてもいいと思うんだ」
俺はそう言いながら、皆を見渡す。
「人類は今も絶えていない。つまり、二万年前の災厄を生き延びた者がいたということだ。なら、彼らの痕跡がどこかに残されていても不思議じゃない」
リリィは呆れ顔で短く息を吐いた。
「ご主人様が言いたいことも分かるにゃんけど、何せ二万年前のことにゃんよ。そんな大災害の後できちんと記録を残す余裕はきっとないにゃんし、仮に残したとしても十分に風化する年月にゃん」
そうだとしても、ここで諦めたくはない。
「他に文献はないのか?」
「アースガルドに残っておるものは、ここにあるものですべてじゃな」
エルマは力なくそう答え、俺も肩を落とした。だが、彼女はしばらく思案した後にこう言った。
「あるとすれば――賢人の森じゃな」
賢人の森。
アースガルド、ヴァナヘイム、ニザヴェリル。その三国の均衡点に存在する午人の自治区。
午人の別名は、ケンタウロス。
「そこに行けば、新しい情報が得られるのか?」
「賢人の森の中央にある、原理の大図書館。あそこには世界中のありとあらゆる書物が集まっておる」
「つまり、そこへ行けばこの世界の全てのことがわかるんだね!」
一番反応したのはヴォイドだった。
「ああ。あらゆる知がそこにある」
「だったらもう、行くしかないね!」
俺たちは立ち上がった。だが、エルマが少し浮かない表情をする。
「じゃが、人数は絞った方がよい。午人は騒ぎを嫌うからのう」
エルマが釘を刺す。俺は青い髪の少女――ヴォイドを指差した。
「情報整理のためにこいつは外せない。かといって単独で動かせば、何をしでかすか読めない。ここは俺が同行するしかない」
「何をしでかすか……って、わたしは学習しかしないよ。学習結果が出るだけ」
ヴォイドは軽く返すが、未知の存在を単独で行動させるわけにはいかない。
「面白そうにゃん。行くにゃんよ」
「わわ……世界中の知が集う場所……未知の叡智……ぜひ、この目で確かめてみたいです!」
リリィもミーアも乗り気のようだ。
「だから絞ると言うたじゃろ」
しかしエルマが割って入った。
「大魔王に魔王が二人揃って訪れれば、向こうに余計な警戒をさせることになる。ただでさえ気難しい連中なのじゃ。ことを荒立てて良いことはないぞ。ここは儂が行こう。少しは顔も利くからのう」
残念そうな顔をするリリィとミーアを前に、俺は分担を決めた。
「賢人の森には、ヴォイドと俺、師匠の三人で行く。リリィとミーアは残ってくれ。アースガルドの守りを任せる」
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