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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
六章 その手を
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六章 その手を(7)

 冬峰(ふゆみね)の背後から鋭い爪が降って来る。

 冬峰の真後ろの石柱から飛びかかって来た四匹目のヤモリ人間だが、わずかに遅れたのは冬峰の足さばきが予想より速かった為であろう。

 冬峰の身体が半回転して背を襲った爪が空を切る。それに続く地を蹴る音。

 コマの(ごと)く、くるりと回転しながら跳躍した冬峰は爪を振るった姿勢で着地したヤモリ人間の頭上を越えて追いすがる一匹目と二匹目の中間に着地した。

 その勢いを殺さずにそのまま肉薄する冬峰に一匹目はたたらを踏み、足を止めて迎撃しようと爪を構える。

 新陰流より派生したタイ(しゃ)流に回転しながら跳躍して手裏剣や斬りつけをかわす技があるが、冬峰がヤモリ人間の背後からの一撃をかわしたのもこの技を知っていたのかもしれない。

 冬峰は刀を左脇に構えた姿勢で一匹目に迫るが、突き出した右足を軸にいきなり身体を反転させて背後の二匹目に向き直った。

 追いすがろうと勢いをつけて突進してくる二匹目との間合いは近く、冬峰は足を踏み出しながら身体を沈めて横なぎに刀を振り払う。

 両脛(りょうずね)を大根のように両断された二匹目が宙にある間に、背を向けた冬峰につられて爪を振るった一匹目の頭部を、脛斬りの勢いのまま刀身が下方から跳ね上がり頭頂へ切り抜ける。

 一匹目と二匹目の地に伏せる音は同時であり、冬峰は逃げる心算(つもり)なのか、その二匹の間を突っ切るように足を速めた。

 しかし、冬峰の足捌(あしさば)きが速いとはいえ、獣の如く跳躍、疾走するヤモリ人間には敵わず数メートルも進まないうちに背後に荒い息遣いが聞こえるまでに接近される。

 そして眼前には石柱が行く手を(はば)んだ。

「ふっ」

 冬峰は短く息を吐き石柱に片足をつけて跳躍する。

 必要なのは追いすがるイモリ人間より高い位置を取る事。それを()る為の疾走。

 四匹目のヤモリ人間が宙を見上げる。

 刀を逆手に構え落下する少年。その切先が鈍い光を放つ。

 狙いすましたかのように切先はヤモリ人間の喉下、アーマープレートが入ったボディアーマーの襟元へ突き刺さり胸骨を割って体内を串刺しにしていった。

 これ以降の敵も何が出てくるか解らず、固い鱗やアーマープレートで刀身を痛める事を出来るだけ回避したかった冬峰はヤモリ人間の関節、喉下を狙い戦術を組み立て、それを実行したのだ。

 冬峰が固いモノを引っ()く音に気がつきそこへ視線を向けると、両脛を切られた二匹目が冬峰に向かって両手、いや、前足というのが正しいのか、鉤爪を地に引っ掛けて近づこうとしていた。

 死ぬまで獲物を追い続ける習性を持っているのか、その動きに迷いは無い。

「……」

 冬峰は無造作に二匹目のヤモリ人間に近づくと、振り上げられた右手の鍵爪を右ひじの内側に刀を突き刺して封じてから、腰の後ろに手をやり大型の折り畳みナイフを抜き取り刃を起こした。

 しゃがみ込みヤモリ人間の背中に馬乗りとなる。

「悪いな」

 言葉とは裏腹に、冬峰が何の感慨(かんがい)も無くヤモリ人間の喉にナイフの刃を当てて一気に引き斬ると、青黒い血潮が前方を地面へ降り注がせながら尻尾をのたうち回らせた。

 噴き出る血潮に間欠泉(かんけつせん)の様な強弱が生じた頃、冬峰はようやくヤモリ人間の上から腰を上げる。

「あと何匹いるのかな」

 まだ数匹分の気配が追いすがって来るのを感じながら、冬峰は石柱群の出口に向かって足を速めた。

 先程は上手くいったが、より多い頭数で取り囲まれた場合、相手するのにそれなりのリスクと時間がかかる。

 ここは無視して出口をめざし、相手をする無駄な体力の消耗を避けるべきと冬峰は判断した。

 この島への三度目の核攻撃、いやそれより春奈がこの島へ到着する方が早いかも知れない。それまでに千秋を連れ戻す。

 冬峰は林立する石柱の合間から覗く、島中央の尖塔に向けて再び疾走を開始した。

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