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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
六章 その手を
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六章 その手を(4)

「さて、ここから正念場。【深き者共】は石の力で近寄れないから、さっさとここを抜けてしまおう」

 ヘリのコンテナから武器と弾薬を下ろし終えたフェランは、ブローニング・BARを構えて歩き出した。

 トレンチコートの下にはトンプソンが袈裟懸(けさが)けに吊られており、コートのポケットは予備弾倉やら手榴弾で膨れ上がっている。

「待った」

 冬峰(ふゆみね)が素早くトレンチコートの裾を踏みつけたので、フェランは仰け反りながら無様な声を漏らす。

「何だ君は? 苦しいだろ」

 冬峰はフェランの抗議を気にした風も無く宙を仰いでいたが、ジャケットのポケットから五芒星の印の石を取り出してフェランに放り投げる。

「お、おい」

「あんたはここで、先に上陸した奴等を保護してくれ」

 フェランは冬峰の言葉に眉を吊り上げる。

「おい、そんな悠長(ゆうちょう)な事はしていられないだろ。千秋(ちあき)君を八時間以内に連れて帰らないと」

「解っている。だからそれまでの間に残った奴等を助け出して何とか船に帰ってくれ」

 冬峰の答えにフェランは押し黙った。冬峰の真意について、すぐに彼は気がついている。

 フェランは仕方がないとでもいう様に大きく息を吐いて頭を掻いた。

「いや、僕は足手まといという事だな。もうここで僕の出来る事は無いんだろ」

「……」

「更にこの島の化け物達の眼を君に引き付けようとしているな。君は馬鹿だ。何もかも背負い込もうとするな。子供は大人に甘えていればいいんだ」

 冬峰はフェランの言葉を聞いてどうしようもないよとでもいう様に笑みを浮かべた。

 そのまま礼をするように顔を伏せて背を向ける。

「じゃあ、頼んだよ」

「帰ってこいよ。二人で必ず帰って来い」

 フェランの言葉を背に冬峰は走り出す。

 ただ独り、少年の異形の者たち相手の死闘がこの瞬間から始まったのだ。


 フェランは石柱群の中に入って見えなくなった冬峰を心配するようにしばらくその方向を眺めていたが、気を取り直すかのように二、三度首を左右に振ってから歩き出した。

 落下したアパッチよりわずかに離れた場所で谷間を覗き込んだり、重なった石柱の影に回り込んだりしながら彷徨(さまよ)っているが、道に迷っているのではなく、先に上陸したソロモン機関の兵士の生き残りを探しているのだ。

 緑黒い泥濘(でいねい)に残された編み上げブーツの靴跡は上陸部隊がここを通りかかった事を示しているが、すで彼等の姿は無く、ひょっとしたら島の中央部に到達したのではないか。そう思い、島の中央部へ目を向ける。

 ふと背後からの物音にフェランは振り返った。

 しかし、それは上陸部隊の兵士ではなく異形の者で、それはフェランも初めて見る(たぐい)のものであった。

 巨大なトカゲかヤモリが人間の様に軍用ヘルメットと防弾着(ボディアーマー)、暗視装置を身につけている。

 そいつがフェランの頭上から背後に落下してきたのだが、フェランは虚を突かれて振り返るのがわずかに遅れてしまった。

 【深き者共】やトウチョトチョ人等、旧支配者の下僕(しもべ)避けとして身につけている五芒星の石が効果を発揮していないのだ。

「何、だ」

 フェランはブローニング・BAR軽機関銃の銃口を突然の乱入者に向けようとするが、相手の飛びかかる速度の方がはるかに速かった。

 ヤモリ人間は鋭い鉤爪を振り上げてフランに肉薄して今まさに振り下ろさんとする時、ふと戸惑ったように身動ぎして動きを鈍らせる。

 それ勝機とするように、ようやくBARの銃口がイモリ人間の胸元へ直線を引いた。

 ヤモリ人間はボディアーマーを着用しているが、BARに装填(そうてん)された貫通力の高い三〇‐六〇弾ならば容易(たやす)く内部のアーマープレートを撃ち抜くことが出来る。

 銃声が木霊(こだま)する。

 BARから放たれた弾丸は黒い石柱の表面に着弾して、跳弾として周囲に飛び散った。

「何……」

 フェランは頭上を見上げる。

 フェランがBARのトリガーを引く直前、ヤモリ人間は背後の石柱に飛び移りBARの火線を回避、そのまま石柱を駆け上がったのだ。

 ヤモリ人間が石柱を蹴ってジグザグに上昇するのをBARの銃口で追うフェランだが、重量が重く全長が一・二メートルと長いBARは石柱群の中では取り回し難く、ヤモリ人間の動きについていけず(むな)しく銃弾を虚空に消費していった。

「くそ、動きが速すぎる」

 弾倉(マガジン)内の二十発を撃ち尽くして歯噛みしたフェランは、背中のM1ガーランドを下ろしてからBARを背負った。

 M1ガーランドはBAR同様三〇‐六〇スプリングフィールド弾を使用するライフルであり重量も四キロとBARより軽いが、射撃システムは半自動(セミ・オート)で引き金を引くごとに一発しか発砲出来ず、装弾数も七発と少ない。

「連射でないと当たらないよな。しかし、なぜ隙が出来た?」

 フェランは絶体絶命の瞬間、ヤモリ人間の動きが鈍ったことが気になった。あれが無ければ自分は確実に命を落としていた。

「まさか、新種の【深き者共】の類か? それで旧神の印が効き難い」

 フェランの表情に影が差した。彼はある噂に思い至ったのだ。

 一部の軍事企業が大異変後の生き残りをかけて旧支配者の傘下に入ったと。

 ひょっとしたら先程のヤモリ人間も軍事企業の研究によって生み出されたのかもしれない。

 フェランは首を振る。

 確証の無い答えを探すより、今は生き残ることが先決だ。

「AKが落ちてないかな」

 確か、ソロモン機関の兵士がAK103自動小銃(アサルトライフル)を装備していたはずだ。あれなら連射で弾幕も張れるし、弾丸の威力が高いい七・六二ミリで複数撃ち込めばボディアーマーも撃ち抜けるだろう。

「とにかく、生き残る為に生き残りを探すか」

 そうしてフェランはM1ガーランドを肩づけしてヘリから離れた。

 心配なのは先程遭遇したヤモリ人間達が、(おとり)として先行した冬峰に襲いかかっていないかだが、これは冬峰の腕と度胸を信じるしかなかった。

 フェランはしばらく石柱群の中を彷徨っていたが、見つけるのは死体ばかりでAKの弾も予備弾倉を含めて撃ち尽くしたものだった。

「そう上手くはいかないか」

 腹の内側を(さら)した死体のかたわらに転がっていたAK103の弾倉を取り外して、弾の残っていない事を確認しながらフェランはごちた。

 おそらく石柱間を自由自在に移動するヤモリ人間に翻弄(ほんろう)されてAKの弾丸を浪費したのだろう。この石柱群は奴等にとって理想的な狩場なのだ。

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