四章 黒衣の魔紳士(12)
【深き者共】は意識を失った冬峰を見下ろしていたが、小脇に抱えた自称ジャーナリストから、下ろしてくれ、と声が掛けられゆっくりと膝を着く。
「とんでもない少年だな」
「そうだ、ね。僕等の鱗は5・56ミリ口径の小銃弾にも、耐えられるのに。日本刀ってすごいんだ」
「剣術の達人は銃弾すら切り落とすらしい」
「本当、かい」
驚くべきことにフェランは【深き者共】と親しげに会話している。
フェランの軽口に【深き者共】が答える様は一人と一匹の関係が旧知の者である事を示していた。
「しかし、君がいてくれて助かったよ、ホーヴァス。【旧神の印】で【深き者共】は近づけないが、取り囲まれて溺れ死ぬところだった」
「僕は……人間の血が、濃いからね。短時間なら【旧神の印】に触れることも、出来る。僕が彼等に、襲われそうになった時、【旧神の印】を取り出して、逃げることにしてるんだ」
その【深き者共】はあろうことか、【深き者共】が苦手とする【旧神の印】に耐えられることをほのめかした。
「それに、ダゴンやヒュドラの指令にも抗うことが出来る。こうして紛れ込んで調査する事もね」
フェランは複雑な面持ちでその【深き者共】を見上げた。
「その、済まなかった。君から君自身の呪われた血筋を告白されたとき、皆の疑いを晴らすことが出来なくて」
「……もう過ぎた事だよ。そ、れより早くここ、を、離れよう。他の【深き者共】に、見つかると大変なことになる」
ホーヴァスと呼ばれた【深き者共】は冬峰を肩に担ぎあげた。
「この先に僕の着替えを隠したガレージがある。そこで着替えて、これからどうするか決めよう」
「ああ、千秋君を取り戻さないと」
フェランは先に立って歩き出したホーヴァスの背中を追った。
まずガレージで水に浸かったM1ガーランド小銃の手入れをして異常が無いか確かめないと。旧交を温めるのはその作業中にも出来るのだから。




