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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
四章 黒衣の魔紳士
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四章 黒衣の魔紳士(1)

 四章 黒衣の魔紳士


                    1


 彼は目を開いた。

 目に映ったのは夜空。しかし瞬く星は見えず、月明かりさえ別の明るさに(さえぎ)られている。ぱちぱちと何かがはぜる音がしてよりいっそう明るくなってくる。

「う……」

 低く呻いて彼は身を起こした。

 背中の鈍痛を我慢(がまん)して周囲を見まわす。

 周囲の建造物は軒並み破壊されており火の粉をまき散らしている。彼は数分前までの記憶をさかのぼり街の惨状の原因を思い出した。

 確か三機の戦闘ヘリが街に侵入して家々に向かって機銃を撃ちまくったのだ。当然、中にいる者達は物言わぬ肉隗に成り果てたのだろう。

 さらに戦闘ヘリは街の中央に向かって、その両脇に詰まれたロケットを次々と発射した。自分はそれに巻き込まれたのだ。

 立ち上がり、彼はゆっくりと体を動かしてどこにも異常の無いことを確認した。爆風で数メートル吹き飛ばされた割には骨も折れておらず、打撲も背中に鈍痛が湧くぐらいで運が良かったといえよう。

 しかし彼同様吹き飛ばされた者達は四肢を欠いて息絶えているものや、倒れた建造物の下敷きになっている者、炎に焼かれ炭化している者。動く者は一人もいなかった。

 彼はひとまず炎に囲まれる前にこの場所を離れようと、身を低くして走り出した。駆け足でなく地面と足の裏を微かに触れさせて滑るように駆ける「早駆け」で、足音をたてないように注意しながら建物の陰から陰へ移動する。

 どうやらこの国に派遣された者達は自分以外誰も残っていない。そう彼は思った。 

 事を終えた後、先程自分が吹き飛ばされた場所に集合、後にこの国を脱出する手筈であったが、約一日経過しても誰も現れなかった。


 もう、慣れた。唯一人生き残るのはもう慣れた。


 自分達がこの国に派遣されたのは、この内戦を終らせる為だった。

 アメリカ西海岸、ロサンゼルスで発生した【大異変】以降、世界は混迷を極めていた。

 太平洋の島々のいくつかは水没し、海に面した国々では得体の知れない生物が目撃され始め、いくつかの街がその生物達の襲撃を受け壊滅したらしい

 逃げ出した人々は比較的安全である欧州へ集まるが、受け入れる国もそれほど多くなく、結果密入国が後を絶たない。

 結局、先住民と避難民の軋轢(あつれき)が内紛へと繋がり、泥沼の戦争へと雪崩(なだ)れ込む。この国も西アジアと欧州の境に位置するため、避難民が増加していく一方、自分達の生活にも余裕の無い先住民と政府が避難民を敵視する状況となり、結果、圧力に耐えかねた避難民が決起する形となり、内戦へと繋がった。

 彼とその仲間はこの国の「軍事指導者」と避難民の「地下組織(レジスタンス)指導者」を暗殺するべく潜入したのだが、目的達成後、当然の事ながら双方のグループから命を狙われることとなった。

 この国を脱出する際、あまりにも人数が多いと目立つ恐れがあるため一旦ばらばらに行動した後、国外で合流しようと計画を立てていたのだが、どうやら無駄になったようだ。


 彼は十字路まで差し掛かると、ポケットからミラーを取り出し曲がった先に人影が無いかどうか確認する。左に曲がると民間人の親子らしい二人連れに出くわし、右に曲がると小銃を背負った兵士が三人おり、油断無く周囲を見回していた。

 さて、どちらへ向かおうかと首を捻っていると空中から低いヘリコプターの羽根が回転する音が響いてくる。

 この街の建物は高くても五階建てのアパートであり、ヘリのように上空を自由に闊歩(かっぽ)出来る兵器は地上にうごめく獲物の生殺与奪の権利を保有しているといえよう。

 猛禽(もうきん)の目とも言えるレーザーレーダーとそれに連動した自動回避システム、時速二百キロを超えるスピードで襲い来る鋼鉄の悪魔を相手に生き残るのは容易い事ではない。

 彼は手近なアパートらしき建物のドアに手を掛けた。幸い鍵は掛かっておらず半分ほど開いたドアから身体を滑り込ませる。屋内は静まり返っており、玄関脇の階段に埃が積もっていることから暫く前から無人であることがうかがえた。

 ドアをわずかに開けて隙間から外をうかがうと、ヘリコプターは迷うことなく真直ぐこちらへ向かってきた。

 生き残りを求めて街の上空を旋回していたのか? ただ、地下組織がヘリコプターなんて手間の掛かるものを保有しているとは考えにくく、政府側の追跡だと判断して間違いない。

 首都近辺ではなく、国境沿いの静かな町に戦闘ヘリが現れるのはどういうことなのか、ましてや避難民ではなくこの国の民間人を巻き込んで攻撃を仕掛けてくるのはどういうことなのか。

 そこまで考えどうするべきか思案したとき、戦闘ヘリの機首下部に取り付けられた棒の先端がチキチキと回転し、真直ぐ彼の方を向いた。

 どうやら自分がヘリの存在に気づくより早く、相手は自分を見つけていたのか。それとも手あたり次第、ここの住人もろとも全て葬り去る命令でも受けているのか。

 温度感知識別(サーモ)センサーでも積んでいるのか、ドアから跳び離れた彼の元いた位置に銃弾が飛び込む。ドアと壁がまとめて千切れ飛び、廊下に次々と大穴が開く。

 三〇ミリ砲弾の弾痕は彼を追い駆けるように移動し、彼は階段を上り二階、三階へと移動した。

 階段を上り切りベットと簡素なテーブルのみの寝室らしき部屋へ逃げ込んだが、銃弾は容赦なく彼を追いつめる。

 壁の破片と引き裂かれた布地と羽毛が宙を舞う中、彼は三階の窓から飛び降りた。着地しざま前方に転がり落下の衝撃を緩和する。

 ヘリは空中停止の状態でアパートを銃撃していたが、彼が起き上がると同時に駆け出したのを追って機体を廻らせる。

 彼は先程の十字路へ差し掛かりどの方向へ逃げるべきか迷ったが、兵士達のいた左側へ曲がることにした。

 理由は彼等は民間人を盾にしても平気で撃ってくる事と、兵士達とヘリの挟み撃ちにあうかもしれないが彼らの武器を奪って何とかヘリに対抗するつもりなのだ。

 そう決心し兵士達に向かって疾走する彼だったが、兵士達は彼に銃口を向けるのではなく、一人はへりに向かって自動小銃の銃口を向け、残り二人は彼と同じように背を向けてヘリから逃げ出している。どうやらレジスタンスの兵士だったらしい。

 兵士が小銃を発砲すると共に、彼の背後で三〇ミリ砲弾が地面をえぐる音を立てて近づいて来る。彼は自分でも驚く程のタイミングで横っ飛びに地面を蹴った。すぐ脇を弾丸が通り抜ける感触に怖気(おぞけ)を震いながら地面を転がる。

 小銃をヘリに向けていた兵士は、弾丸が通り抜けるのと同時に大きく仰け反り小銃を取り落とす。いや正確に言うと、弾丸が右手を直撃し手首ごと小銃を落としたというべきか。

 その後は弾丸による解体が始まった。三〇ミリ砲弾を受けた肉体は衝撃で宙を跳び、更に空中で首がもげ、腹部の貫通銃創から内臓が噴出し胴体が二つに分かれる。

 単なる肉隗と化した兵士を尻目に、彼は直ぐに立ち上がり疾走を再開した。兵士から武器を奪い取るつもりだったが、兵士もろとも壊されてしまった為、彼はまた丸腰のまま逃げなくてはならなかった。

 彼は細い路地へ入りしばらく走ってから別の路地へ入り、ジグザグに進みながらヘリからの狙いが定まらない様に逃げ続ける。

 そんな彼の努力をあざ笑うかのように、彼の進む方向へ機関砲の銃撃が浴びせられさらなる逃亡を(うなが)してきた。

 捕食者と獲物の一方的ないたちごっこがしばらく続いていたが、彼は彼を追う戦闘ヘリとは別のローター音を聴きつけて頭上を見上げると、上空に黒点が二つ浮かび、それはまたたく間に大きくなり二機の戦闘ヘリとなって彼の前方に空中停止(ホバリング)する。

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