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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
三章 死の旋風
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三章 死の旋風(5)

「校舎内ってそんなに酷いの。本当にテロがあったとか」

 志保理(しおり)の問い掛けに、瑠貴(るき)は気だるそうに顔を仰向かせ、ぷかりと白煙の輪を吐き出した。

 手先は不器用なのに、役に立たない事は器用そうだ。

「んー、聞いた話によると職員室や校長室は結構酷いことになってるみたいよ。扉や机も壊れてるみたいだし。うちの方はベットが二つとも入口の戸に激突しているぐらいかね。何か火薬を使ってロケットみたいに打ち出されたみたいで、入口の戸は殆ど割れかけていたから買い換えるしかないだろうね」

 再び、じろりと千秋(ちあき)が横目で冬峰を睨んだ。

 おまえか、こらあ。そんな非難めいた視線に冬峰(ふゆみね)は「僕じゃないよ」と、声に出さず口だけを動かして応えた。

「あと、その扉に血痕が残っててね。どうやら複数の人間が中で暴れたみたいだって警官が話してたよ」

「みたい?」

 千秋は誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。

 確か昨日は男達を校舎に残したまま警察に連絡して、見つからない様にフェランの車で帰宅したのだが。

 警察が確保したのでなければ、彼等はどうやって逃げたのか。それとも……。

 千秋と冬峰は視線を交錯させて、お互いが同様の疑問を抱いていることを確認した。

 千秋の脳裏に昨晩見た翼竜もどきと【黄衣の王】とフェランに呼ばれていた仮面の男が浮かび上がる。

「それに今、校舎の中にいるのは警察じゃないみたいよ。何時の間にか日本の警察じゃなくって、自衛隊みたいな銃を持ったゴツイ奴等がやって来ててね。センセー達も追い出されちゃった。てな訳で本日は休校」

冬峰は校舎内にて忙しく動き回る男達を眺めていたが、その中に今朝方まで共に行動していた茶色の癖毛に古びたコートを羽織った異国の自称ジャーナリストを見つけた。

 何やら一番偉そうな年配の男と話している様子だが、千秋も気付いたらしく憮然(ぶぜん)とした表情でフェランを見つめる。

「敵か、味方か。どっちか判らないわね」

「忙しい、おっさんだ」

 千秋としても、あの正体不明の掴み処の無い男を警戒しなければならない事は分かっているが、何と無くあのひょうひょうとした態度に調子を崩され、どうも対処出来なくなってしまう。

「似てるわね」

 形の良い顎先に手を当てて千秋が洩らした一言に、冬峰は「誰と?」と首を傾げた。

「冬峰と、よ」

「?」

 冬峰は自分自身を指差し、ますます解らないと眉を寄せる。

 千秋はやれやれと溜め息を吐いて、首を左右に振った。

「何時もひょうひょうとして人を煙に撒く所が、本当に瓜二つなんですけど」

 冬峰は目を丸くして千秋の指摘を聞いていたが、不意に「ははっ」と乾いた声で苦笑し顔を伏せる。その表情は陰になって誰にも見えない。

「そうかな、きっと正反対だろう」

「フユ、これからどうする?」

 冬峰の言葉は瑠貴と話し終えた志保理の呼掛けにかき消された。冬峰と千秋が振り返ると、志保理が夏休みを明日に迎えた小学生のように満面の笑みを浮かべ二人を覘き込んだ。

「学校も休みだし、一旦ウチに帰ってから駅前に集まろうよ。せっかくだから御門(みかど)さんも一緒にどうかな?」

「わ、私も?」

 そうそうとうなずく志保理と根神を呆然と見つめた後、どうしよう、と千秋は冬峰に助けを求めるように困惑した表情を向けたが、頼りにならない従弟殿は無責任に「いいんじゃない」と答えた。

 そして、「暫く遊べなくなるかも知れないからね」と付け加える。

「そうね……」

 そうつぶやいた後、千秋は志保理と根神にぺこりと頭を下げた。

「御免なさい。暫く都合が悪くて。でも誘ってくれて嬉しかった。有難う」

「いや、うん。気にしない気にしない。また、次があるんだし。都合が良くなったら声を掛けてね」

「ええ、絶対に」

 志保理は微笑んだ千秋を見つめた後、冬峰を手招きして千秋に聞こえないようそっと耳打ちした。

「フユって、癖毛のショートの眼鏡っ子で巨乳ーっの委員ちょが好みですか?」

(たわ)けかおのれは」

 そう言い捨てて踵を返す冬峰の背に志保理はべーと舌を突き出してから、笑みを浮かべ手を振った。

「いいの?」

 早朝の下校となった冬峰は一緒に本家への道を行く千秋に尋ねた。

 このまま帰宅すれば【K】の問題が片付くまで、千秋の自由は無くなることになる。

「そうね、ただ、何となく約束があるから頑張れそうな気がする。志保理さんって何時も元気で、今日は少し元気をもらった気がする」

「まあ、それが取柄だからな」

 冬峰は憮然として答えた。志保理に何時も振り回されている身としては、もう少し大人しくして欲しい。

 そんな冬峰をどこか優しい目で見つめた千秋は、安心させるように微笑んだ。

「だから私は大丈夫」

 その後、冬峰は千秋のその微笑を時々思い出すことになる。

 普段は鉄面皮ともとれる表情の無い彼女だけに、その笑みはしばらく冬峰の記憶に深く焼きついた。

 しかし、彼女と志保理の約束が果たされることが無いことを、この時の冬峰はまだ知らない。

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