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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
三章 死の旋風
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三章 死の旋風(4)

 冬峰(ふゆみね)は酷く無責任な返事をしてから人垣に近付き、その中の頭一つ分以上大きい男子生徒と女子の平均身長より少しばかり低いショートカットの女生徒、それに背が高く腰まで掛かる金髪が特徴的な美少女の一団に近付き片手を上げた。

「よっ」

「おっす。何だ、珍しい組み合わせだな」

 振り返り、根神(ねがみ)は冬峰と千秋(ちあき)の姿を認めて目を丸くした。

 冬峰と千秋はバイト先は一緒であるものの、御門本家と千秋の借りたアパートとは駅を挟んで正反対の方向にあるため一緒に登校するということは今まで無かった。下校時も冬峰は一旦本家に帰ってからバイト先の「ラ・ベルラ」に向かう為、一緒にバイト先へ向かうことも無い。

御門(みかど)さん、おはよーっつ。ホント、二人が一緒に登校するって珍しいね」

 朝から元気の良い志保理(しおり)の勢いに圧倒され、千秋はやや仰け反り気味に片手を上げて愛想笑いを浮かべる。どうやら千秋はこのハイテンションな二年総代が苦手らしい。

「そ、そうかな。従姉弟同士だし、アルバイトも同じだから珍しい組合せではないと思いますが」

「あ、そうか。そうだったよね。でも何で今日は一緒に登校してるの?」

「最近誘拐事件とかで一人暮らしは物騒過ぎるからって、母が帰って来いって。ただ母も仕事の都合上留守が多いから、暫くの間、春奈さんの所に下宿することになったんです」

 千秋は半分本当のことを話した為、志保理も納得したように頷いた。

 うんうん、あそこ賑やかだし、御飯も美味しいしねーと返答に困ることを千秋に同意を求めるように振ってくる。

 いや、お前、ちょっとは遠慮しろ。と根神がたしなめるのに対して、志保理はいいじゃない、幼馴染なんだし、と悪びれずに反論した。

「で、何でガッコに入らないの?」

「入れないのよ」

 冬峰の問い掛けに小夜子(さよこ)は、校門に貼られた黄色い立ち入り禁止と表記されたテープを長く白い指先で指した。

「登校すると、もう警察が入っていてね。校門も閉じられたまま。校舎内は危ないから立ち入り禁止にしているそうなの」

 小夜子はそう言って自分達の学び舎を見上げた。

 つられて冬峰と千秋も校舎を見上げると、そこには東校舎の階段のあるべき壁の部分が倒壊して屋内まで見える状態になっており、一階の各校舎の窓ガラスも殆どが割れている。

「いや、すごいねホント」

 そう、しれっととぼける冬峰をじろりと横目で睨んだ後、千秋は小夜子に校舎の老朽化かな、と尋ねた。

「そうかもしれない、でもそれにしては中の人達は警察には見えないの。雰囲気からすると軍隊かな」

 確かに校舎内やグランドを右往左往する者達は、警察とは異なった印象を生徒に与えていた。

 まず全員がヘルメット着用の上、ゴーグルで顔を隠している。おまけに手には短機関銃らしきものを構え物騒だ。

 何かを調べている男達も防護スーツのようなもので全身を覆っておりただ事ではない事態であることは皆に伝わった。

「まるでテロでも遭った様な騒ぎだな。学校を狙う理由は解らんけど」

 根神は校舎を見て、最近ニュースでよく見かけるテロ現場の映像を思い出して苦笑した。

 世界各地ではテロや暴動は頻発しており、連日一報はテロ関係のニュースを目にしているが、幸い日本はまだテロの対象とはされていなかった。

「どうだろうね」

 自分の行ったことだが、冬峰は何時もより表情を硬くして校舎を見上げる。

 いや、その眼は校舎を見ておらず、何も無い上空を何かを思い出すようにじっと見つめていた。

「世界を震撼させた大異変の後、水没した太平洋の島々に暮らしていた人達の多くが流され、生き残った人達のほとんどが難民と化した。日本は同様に壊滅したアメリカ西海岸に住んでいた比較的裕福な人達を優先的に受け入れ、生活基盤の無い南太平洋からの避難民は受け入れ拒否の態度を取ったとき、確か数件国内で外国人による学校占拠があったんじゃないかな」

「確か慌てた日本政府が、神戸の海上都市の一部を難民保護区域に指定して難民の受け入れを認めたってことだったかな。でも二十年以上前の話でしょ?」

 首を傾げる志保理へ冬峰はどこか暗い色を湛えた瞳で、皮肉めいた笑みを浮かべながら首を振った。

「学校に対するテロは古今東西頻繁に行われているよ。理由のひとつは、子供達の居る場所で彼等に恐怖を与えたくない為、重武装化が難しいこと。もうひとつは人質が非力で反撃される危険性が少ないこと。最後のひとつが人々の注目を集めることが出来て自分達の要求を世の中に伝えることが容易い事」

 冬峰は一息にそこまで説明して周囲を見回した。根神も志保理もいつもと違い多弁な冬峰に戸惑っているようだ。

 その困惑した雰囲気を和らげるように千秋は珍しく冗談めいた口調で「はい、先生」と手を上げる。

「つまり、うちの学校がテロにあってもおかしくないってことでしょうか」

「うーん、どうだろうね。世間様に注目される程、うちって有名だったっけな?」

「……思い当たらないわね」

 小夜子が額に人差し指を当てて考えてから観念したように答えたが、直ぐに志保理と根神が「アンタが言うか」と突っ込みを入れた。

「あら、あんた達楽しそうね。先生は朝からてんてこ舞いよ」

 冬峰達の背後から、二〇代後半のベージュのカッターシャツと紺のタイトスカートの上に白衣を無造作に羽織った若い女性が、ガムテープと何やら大きな文字の印刷された用紙を抱えて声を掛けてきた。

 器用にもしゃべりながらでも咥えた煙草が落ちない。

「るきせんせ、おはよ」

「お早う御座います。来生(きすぎ)先生」

「もーにん」

 白衣を着た女性、来生瑠貴(るき)はぺたぺたと革サンダルの足音を響かせながら校門前に集まった生徒を掻き分け、手に持った用紙を広げて校門に貼り付けた。

 用紙には「本日休校」と黒マジックで殴り書きされている。

 うおお、だの、やった、だの生徒達の歓声が響く中、瑠貴は両肩を二、三度軽く叩いてから冬峰達の前まで歩き、咥えた煙草を携帯用灰皿に落とした。

「全く、朝から警察の聞き込みやら保健室の掃除やら、疲れることばかりだわ」

 やれやれと花壇に腰を下ろし、白衣の内側から新たな煙草を一本取り出して火を点ける。

 この女性は羽織った白衣と保健室という言葉から分かるように、この天門高校の養護教師つまり「保健医」である。

 無造作に長く伸ばした髪に、眠そうな垂れ眼、よれよれの白衣に煙草と一般的な保健医とは正反対の外観及び嗜好をしているが、彼女は三年前から保健室の主であった。

 ただし基本的に不器用なので彼女の治療はとても痛く、あまり生徒の近寄らない今となっては、一年C組のある男子生徒に続く昼寝大王と化している。

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