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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
三章 死の旋風
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三章 死の旋風(1)

三章 死の旋風


                  1


 暑い、ひもじい、喉が渇いた。


 容赦なく照り付ける太陽の下、白い砂色の建造物だった瓦礫(がれき)しかない街で、彼は屋根の吹き飛ばされた家の影に身を潜めていた。

 日差しは遮られているものの四十度近い気温はどうしようもなく、体内の水分が汗となり消費されていく。舌も乾いており、唾液の出る気配すらなく呼吸し難い。

 彼の左隣にも三人程並んで隠れているが、その者達も彼同様に憔悴しきっているらしく、目の下に隈をつくり荒い息を吐いている。年齢は十五から十八歳程で十二歳の彼が一番幼かった。


 彼等は三日前、彼等の生活するキャンプから目隠しをされた状態で兵員輸送用トラックに載せられ、この崩壊した建物だらけの街で五人組六チームに分けられた。

 彼等を連れてきた白い髪をしたロシア系の軍人は彼等を見回した後、自分の横で偉そうにふんぞり返っているビール樽の様な太っちょの都市迷彩服姿の軍人を指し示し、これからゲームを始めようと朗らかに宣言した。 

 都市迷彩姿の率いる約二十名の軍人に明日の朝、町に分散し隠れているガキ共を殺すよう依頼した。一人殺す毎に殺した軍人の懐には少なくない金額のボーナスが手に入ることになっており、全滅させた折には都市迷彩とその部下に数年間遊んで暮らせるだけの金額が与えられる事になっている。

 また、少年兵側も少年兵の個人番号をプリントしてある左手首を持って帰ればひとつにつき一本、キャンプ場に帰還後レーションが与えられ、軍人の軍服左肩に縫い付けられた部隊章を持って帰れば、一週間、食事の量が増やされる。

 軍人は五日後に終了の合図であるサイレンが鳴り終えるまで生き残ることが、今回の作戦目標だと説明して楽しそうに笑った。


 ゲーム開始一日目は少年兵同士の共食いであった。明日の糧を得る為、少年兵が小銃を撃ち合い、死んだ相手チーム少年兵の左手首を切り落とし奪い合った。


 彼のチームの隊長は十八歳ぐらいの白人の青年であり、去年このキャンプに連れてこられたメンバーの一人であった。

 副隊長は彼同様二年前からキャンプにいたが、本格的な戦闘は始めてらしい。

 副隊長はチームリーダーに、一日目は戦闘を行わず、逃げに徹するように進言した。

 理由は一日目に弾を消費すれば、後々軍人相手に生き残れなくなる。個人に与えられた装備はカラシニコフ小銃のコピーと予備弾倉三本、拳銃一丁、ナイフ一本だけであり、五日間を生き残るのに十分な量ではない。

 この作戦は、どう戦うかでは無く、どう生き残るかを目的としているのだろうと説明した。

 彼の意見に チームリーダーは、そんなことは分かっていると冷たく言い放った。

 副隊長は憤然とその場を去るチームリーダーの後姿を見送ったた後、二度、傍らにいた彼の頭を撫でる様に軽く叩くと笑顔を向けた。

 しかし作戦通りに事が運ばないのが世の常であり、彼等は二日目の早朝、別の少年兵グループと遭遇戦となり、さらに軍隊の介入を受ける。

 軍の保有する軽装甲車の十二・七ミリ機関銃は相手チームと、その背後に回りこんでいた副隊長をまとめて火線に捉えたのだ。頭の右半分を失った副隊長を置き去りに、彼の隊は命からがら逃げ出すしかなく、結局、二日目はずっと廃屋に身を潜めて死と暴力の嵐が過ぎ去るのを待つことしか出来なかった。

 街では散発的に銃声が鳴り響いており、時折砲弾の宙を翔る音、おそらく迫撃砲弾の飛翔音が聞こえたが、夕方には一転して静寂が訪れる。

 どうやら他の少年兵チームは隠れたか、軍人達に全滅させられたかも知れない。

 そして三日目、彼らの隠れた廃屋の立ち並ぶ通りに軍人達が通りかかった。

 彼等は少年兵の隠れていそうな建物の入口から手榴弾を屋内へ投げ込み、自動小銃を持った兵士が突入する行動を繰り返していた。

 じきに自分達の隠れている廃屋へ踏み込んで来る。

 彼は小さい手鏡を取り出し入口から外の様子を窺った。

 同じ通りの四軒向こうに、軽装甲車と六人の兵士が見えた。二人が手榴弾を屋内へ放り込み突入、続けて二人が援護するように突入。その間残り二人の兵隊は軽装甲車の左斜め後ろと右前につき、軽装甲車の弱点である接近戦に対してガードを固めている。隙を衝いて攻撃することは出来そうに無い。

 後五分も経たないうちに彼等は突入してくる。それまでに逃げる手段を考えないと、そう思い隊長を振り返ると、そこには小銃の銃口を彼に向けた隊長がいた。

 隊長は低い声で外に出ろと言った。

 お前が囮になれと、他の少年兵二人も彼に銃口を向ける。


 いつもそうだ。彼は組まされたチームでは最年少であることが多く、其れ故、彼は戦力外としてチームから外され囮役を務めさせられる。


 彼は外を窺い、軍人達が二軒手前まで迫っていることを確認すると、右腰に吊り下げたバッグからカラシニコフ小銃用の弾倉を一本取り出し、重さを確かめるように二、三度手の上で軽く放り上げた。

 兵士が二人、警戒しつつ彼のチームの潜んだ廃屋に近付いてくる。

 彼は左脇に吊り下げたナイフホルスターから刃渡り二〇センチ程度のナイフを抜き出し、歯で刃を咥えた。彼にとってカラシニコフ小銃よりこのナイフの方が頼りになる武器であった。

 靴底が砂を噛む音が近付いてくる。三、二、一、彼は路上に落ちた影を見て距離を測りながら、発見される直前まで軍人を引きつけてから飛び出す。

 彼は体のバネをきかせ、前に倒れこむようにして右手のカラシニコフ小銃の弾倉(マガジン)を、軍人達の背後に控えた軽装甲車の頭上に放り投げた。

 軽装甲車の両脇にいた兵士がすばやく地面に伏せる。どうやら手榴弾が投げられたと勘違いしたらしい。

  彼に向け軽装甲車の十二・七ミリ機関銃と兵士達のイスラエル製自動小銃(アサルトライフル)ガリルSARの銃口が動く。

 しかし彼の動きは素早く、軽装甲車の頭上へを乱射しながら、彼は咥えたナイフを左手に移して一番手前にいた兵士の左脇に身体ごとぶつかった。

 ぶつかりながら兵士のボディアーマーの隙間、右脇腹を二度、下から(すく)い上げるように突き刺していた。

 ナイフを用いた戦闘では、ボディーアーマーや小銃の弾倉等の装備が邪魔となる正面や背面を狙わずに、首筋、腋の下、脇腹、肘と膝の裏、内腿を狙う。これらの部分は可動部である為、防具の隙間であることが多く、また急所でもある。

 彼の背後でひと際大きな銃声が鳴り響き、軽装甲車の機関銃手とその両隣で地面に伏せていた兵士等三人が、悲鳴を上げてよろめく。

 AKの銃弾を浴びた弾倉が爆発し、周囲に手榴弾の破片が飛び散る様に弾丸を撒き散らしたのだ。致命傷では無いにしても、暫くの間行動不能だろう。

 もう一人、前衛を勤めていた兵士はナイフで刺された兵士の左後ろで警戒にあたっていたが、飛び出した少年兵が彼の戦友に獲り付き、何度もナイフを突き立てるのを見てガリルの銃口を少年兵に向ける。

 しかし兵士に密着している為、少年兵の小さな身体は完全に大人の身体に隠れた状態となった。

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