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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
二章 学園闘争曲
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二章 学園闘争曲(16)

 降りてきた千秋(ちあき)は不安そうに荒れ果てた一階校舎を見回していたが、冬峰(ふゆみね)とフェランの姿を視界に納めると足早に駆け寄ってきた。

「冬峰!」

「はいはい」

 鞘に収めた長脇差を肩の高さまで上げて答える冬峰の顔を見て、千秋は自分の両肩を抱いた。

 フェランはその両肩が僅かに震えているのを見て取り何か声を掛けようとしたが、冬峰を見て口を噤んだ。自分の役目ではないと思ったのだろう。

「あの男はどうなったの。ケガは無いの?」

「始末した。ケガは無いよ」

 矢継ぎ早に問い掛ける千秋に、冬峰はその癖のある髪を掻きながらあっさりと答えた。

 冬峰は昇降口に向かって歩き出したが、背後から足音が聞こえないのを不思議に思ったのか、足を止め振り返る。

 千秋は先程から肩を抱きうつむいた姿勢で立ち止まったままだった。

 「ご、ごめん。怖かったから、安心したら、その……気が抜けて。冬峰は、怖くなかったの……」

 冬峰は千秋を暫く眺めていたが、何かを呟いてまた歩き出す。

「おい、君」

 冬峰を呼び止めようとするフェランを千秋は首を振って制した。


 冬峰はこう、呟いたのだ。

 怖いって、何だ、と。


 千秋は何故か、その言葉を昔に聴いた気がした。

 ずっと前、何も無い野原で。傷だらけの少年が同じことを呟いたことを。

 何故か、一階に降りて冬峰の姿を眼にしたとき、その光景が浮かんで悲しかった。

「終わったよ。明日から何時も通りだ」

「うん、うん」

 振り返らずに言葉を掛けて来た冬峰の背中に、千秋は眼鏡を外して目頭を(ぬぐ)いながら頷いた。


 校舎を出ると、あれだけ大騒ぎしたのに町は静まっており人影も見えなかった。連続誘拐事件の外出禁止令が幸いしたのかも知れない。

 千秋が校舎を振り返ると、まるで影絵の荒城の様に月明かりに浮かび上がっていた。赤い赤い月明かりに浮かび上がっていた。

「?」

 その月の一点に影が生じると、それがぐんぐん大きくなりついに月を覆い隠すほどの大きさとなる。

 その影は絨毯の様な大きな翼を持っており、胴体はトカゲのような形状をしていた。例えるなら遥か昔、白亜紀と呼ばれる時代に存在した翼竜「プテラノドン」を彷彿とさせる。

「あれは、まさか」

 フェランが呆然と呟いた。その声は震え額には汗を浮かべている。

 そして冬峰はその翼竜もどきの背に、先程滅ぼした石仮面とよく似た黄土色のコートに仮面を被った者が腰掛けているのを見て取った。

 翼竜は学校の上空を通り抜け何処へと飛び去っていったが、冬峰達三人は夜空を見上げたまま、じっとその場に立ち尽くしていた。

「な、何よあれ。怪獣?」

 千秋の問い掛けに、フェランは沈鬱(ちんうつ)な表情を崩さず押し殺した、やや震えた声で答えた。

「あれは、星間飛行を可能とする生物で、【おおいなるK】と同じ旧支配者のひとつ【邪悪の皇太子】または【名状しがたきもの】と呼ばれる存在の使役する僕のひとつだ」

「そんな……。じゃあ、あの背中に乗っていたのは……」

 千秋は翼竜の背に乗った仮面と目が合ったとき、あまりにも禍々しくて吐き気を覚えた。その仮面は笑みを浮かべていたのだ。


 いずれ、迎えに行くとでも言うかの様に。


「すまない、二人とも。まだ終っていない。あの背中に乗っていたのは石仮面と同じ【不死の指導者】で名を【黄衣の王】。戯曲【黄の印】に出てくる死の使いだよ」

 冬峰は眠そうな茫洋とした表情のまま、じっと翼竜と新たな【不死の指導者】の消えた方角を見つめていた。

 新たな脅威の出現に対し、どんな思いを抱いているのか。その表情から伺うことは千秋には出来なかった。

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