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天門町奇譚 魂欠けの剣士と裏庭の姫君  作者: 飛鳥 瑛滋
二章 学園闘争曲
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二章 学園闘争曲(9)

「仕方ない、一階の窓を割って中に入れ。ただし何が仕掛けてあるか解らんから気を付けろ」

 窓から一階の職員室に侵入した【K】の男達は室内が思った以上に暗く室内灯のスイッチが扉の横にしか無い為、懐中電灯の小さな光を頼りに職員室を横断するしかなかった。

 案の定、引き戸の上部に手榴弾とワイヤーを組み合わせた罠を発見したとき、男達は安堵するとともに、この罠を仕掛けた者への殺意を膨れ上がらせる。

 罠自体は引き戸を開くと、戸に固定されたワイヤーが枠に固定された手榴弾の安全ピンを抜き爆発させる単純な仕掛けであり、ワイヤーを切断するだけで罠の解除は終了した。

「ちっ、あといくつこんな罠があるんだよ」

 毒づきながら廊下へ通じる引き戸を開けた目の隅に、室内同様の罠が引き戸の廊下側の下部にも仕掛けてあるのが目に入った。ピンが既に引き抜かれた状態であり、あと数瞬で爆発するであろう。

「馬鹿な!」

 爆風にまとめて四人が吹き飛ばされる。爆発は小規模であり、どうやら火薬の量を減らしているようで男達を動けなくすることが目的のようだ。

 校舎の外に居る紺背広の携帯電話には、次々と校舎内の惨状が報告されてきた。

 保健室のベットが爆発して飛んできたとか、校長室では鎧武者の置物の中から無数の鉄球が飛んできたとか、用具室では昔のアクション映画のように釘を打ち付けられた板がゴムチューブで引っ張られたて太腿に突き刺さったとか、その度に黒背広の顔色は青くなったり白くなったり目まぐるしく変化しする。

「くそっ、ガキ共一人すら捕らえられんとは。我々も行くぞ」

 外に残った男達四人を引き連れて、紺背広は一階の職員室の窓から校内へと侵入した。

 職員室内は爆風の影響か、爆発した引き戸の傍の机が倒れ、その中に【K】の教団員が二人埋まっていた。また書類や本が散らかっており、明日教師たちが登校すればてんやわんやの騒ぎになるに違いない。

 廊下に出ると更に二人が倒れており、その姿は追い剥ぎにでも遭ったかのように衣服も毟れ、顔も擦傷だらけになっていた。

「役立たずが。おい、むやみに室内に入るなよ。ガラスを割って中を確認しろ。まずフェランを探せ。その次にガキ共だ」

 紺背広は拳銃、その他の男達も特殊警棒やらナイフ等を取り出し歩き出す。

 一階は主に保健室や校長室等の特別教室だが、どの教室も窓ガラスを割らずとも中を覗き込める状態になっており、教団員が数人倒れて呻いていた。

「これ、俺達がやったことになるのか」

 室内の惨状に、まだ若い教団員がふと呟いた。が、それが紺背広のささくれ立った神経を逆撫でしたらしく、彼は振り向いて怒鳴り声を上げる。

「つまらん事を考えるなっ、お前、いつから!」

 他の男達も慌てて振り向く中、ブレザーの学生服を着た少年は、「どうも」と頭を下げた。

「いや、いつ気付くかなって、おっと」

 最後尾にいた先程怒鳴られた若い教団員が特殊警棒を振り下ろしてくるのを、冬峰(ふゆみね)は長脇差の鞘を左手で逆手に握り、(つば)で受け止めた。間髪入れず若い教団員の股間に鞘を差し入れて捻って倒す。

「つっ」

 倒された教団員は仰向けに倒れた自分に向かって、刀の鞘の先端が落ちてくる光景を目にした後、喉に痛みを覚え悶絶した。

「野郎!」

 冬峰に先程倒された若者の後ろにいた男がナイフを突き出すが、冬峰は右足を斜め前に踏み出して身体を傾け、左頬すれすれに刃を交わしながら長脇差を右手で抜き放った。

 銀光が男の右肩に走り切り裂く。更にその抜き放った勢いを殺さず左の回し蹴りをこめかみに叩き込んだ。

 吹き飛ぶ二人目の男には目もくれず、冬峰は三人目に向かった。

 三人目の得物もナイフだが、それを振るう間も無く脇腹にみね打ちを受けて倒れる。

 四人目は警棒を振るおうとしたところへ、右前腕の内側を切られ警棒を取り落とした。更に首筋へみね打ちを叩き込まれる。

「な、何だ、お前は」

 紺背広は一瞬の内に四人の男を戦闘不能にした少年に恐怖を覚え拳銃を向けた。当の本人は「えっと、高学生だけど」とピントのずれた答えを返し平然としている。

 紺背広にはその少年の態度が酷く気味が悪く、忍耐の限界を超えてしまう。

「ふ、ふざけるな!」

 続けざまに放たれる銃弾を、冬峰はスピードスケートの選手のように身を低くして、黒背広との距離を詰めながらかわした。

 拳銃は近距離用の武器だが、動いてる標的にはそうそう当たるモノではない。冬峰の動きはそう物語っている。

 右袈裟(けさ)の一閃に右手人差し指から小指までの四本を切断し、紺背広の脇を通り抜けざま、左足を軸に半回転してさらに両脹脛(りょうふくらはぎ)を一太刀でやや深めに切った。

「うがあ!」

 紺背広が悲鳴を上げてうつ伏せに倒れるのを、冬峰は紺背広の傍らにしゃがみ込み頭髪を掴み引き上げる。

 白刃が首筋に押し当てられ、その冷たい感触に紺背広は硬直し息を呑んだ。

「あんたが偉そうなんだけど、ひょっとして責任者?」

 冬峰の問い掛けに黒背広は刃を動かさないように頷いた。

「誰も死んでないから安心していいよ。校舎内で死なれると大騒ぎになるしね。で、教えて欲しいんだけど、表の厄介そうな二人、あれは人間、それとも妖怪?」

「……妖怪ではない。あいつ等は【深きものども】だ」

「新種の深海魚?、どこかの科学者マッド・サイエンティストが生み出した生物兵器?」

「違うな、奴等は元人間だ。まあ、異種婚により生み出されて忌まわしい血族だよ」

「……忌まわしい血族ねぇ。で、あいつ等を帰らせて欲しいんだけど」

 冬峰は自嘲するように口元を上げた後、まるで「百円貸して」とでも言うような気楽なもの言いで紺背広にお願いする。

 紺背広は冬峰の顔を「馬鹿かお前は」とでも言うような嘲笑を含んだ視線で見返した。

「それは無理だな。あいつ等【深きものども】は【父なるダゴン】と【母なるヒュドラ】、それに【不死の指導者】の命令しか聞かん。我々の指示に従っているのも、【不死の指導者】よりそのように下知されてるからだ」

「そっか、それは残念」と冬峰はつぶやいてから紺背広に突き付けた長脇差を外す。

 紺背広は助かったと安堵して息を吐いたが、冬峰は彼の額を廊下に叩き付けて昏倒させて立ち上がる。

 人間達は後で警察にでも電話して引き取ってもらうとして、問題は表の二人組みをどうやって撃退するかだ。

 このままでも誰かの置いた五芒星のお守りの効果で校内に入って来れずひとまず安全と思われるが、警察の手に負えるような相手とも思えない。

 彼等が人目を忍んで明日の登校時間までに帰ってくれることを期待するしか手は無いのだろうか。

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