第7章 伝説の幕開け(6)
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「やった……のか?」
私は、次元門が消え去った空間を見つめながらそう呟いた――。
そして、すぐさま思い至る。さっきの光の繭はどうなった? ケイティは――?
弾かれるように振り返った瞬間、そこにあった光の繭がふっと消失し、ケイティが崩れ落ちる。
私は慌てて駆け寄り、ケイティを受け止めた。これでもう2度目だ。いったいこの現象は何なのであろうか。それにあの時聞こえた声は何者のものだったのか――。
「親分とゼーデがまだ戻らねえ……」
レイノルドが我に返って呟く。
「ええ……、黒騎士が先に出てきたってことは、向こうでなにかあったのかもしれない。でも、今は信じて待つしかないわ――」
アリアーデは、その場にうずくまり、歯噛みした。
「チュリは、大丈夫か?」
私はそばに寄ってきた少女を気遣ったが、
「ああ、なんともないよ、この通り生きてる」
そう少女は答えて、私に寄りかかってきた。
私はチュリの頭に手のひらを当ててくしゃくしゃと髪をなでてやる。
「よく頑張ったな、ありがとうな、チュリ」
そう言ってねぎらった。
「と、ともかくここにいるものは軽傷で済んだようだ、ルシアス殿のことは心配だが、今は待つしかあるまい」
そう言って、部下の兵士に水を持って来いと、ハン・ウー将軍が指示を出す。
ああ、そうさ、あの人がこんなところでくたばる筈がない。きっと戻ってくるさ。私は、そう強く念じ、ケイティを抱えて立ち上がった。
――――――
黒騎士セ・ルスは、もうすでに何もなくなった空間をしばらく、口惜しそうに見つめていたが、やがて、踵を返しその場を立ち去った――。
――――――
黒騎士の脇を駆け抜け、洞窟の出口に向かって疾走した二人、ゼーデとルシアスは、やがて洞窟の出口に到達するやいなや、ゼーデは竜に変異し、その背中にルシアスをのせて空高く飛びたった。
あとは、アリアーデとアルたちに任せよう。ゼーデは、リュシエル率いる陽動部隊に交信を送ると、集結地に向かい疾駆した――。
数分後、集結地に5頭の竜が戻ってきた。リュシエルとその仲間の4頭だった。残念ながら、3頭は力尽きて墜落したらしい。
「皆のもの、ご苦労であった。父ゲルガもその命を絶った。実に無念であるが、この世界はもう奪還不可能だ。しかし、希望はある。『世界の柱』の確保には成功しているはずだ。今もなお、この世界が存在することがその証である。我々竜族はこの先、人族と共存していく道を探ることとする」
ゼーデはそう言って残った5人を見回した。
「さぁ、いこうか。黒騎士が追ってくる前に、この世界から脱出しなければ――」
そう言って詠唱を始める。
数秒後、目の前に次元門が現れた、竜族の戦士らを先に行かせた後、ゼーデとルシアスは今一度この世界を振り返った。
どこまでも続く原始の自然、魔素が豊かなこの大地は失われてしまった。この地に帰還できる日はまたあるのだろうか。その望みはほとんど皆無と言えるであろう。
二人は互いに目を合わせたのち、静かに次元門をくぐった――。
――――――
広場の端に腰を下ろして、一同は変化を待った。
もう何分が過ぎたであろうか――。
このまま、なにも変化がないまま、時が過ぎて行ってしまうのではないか――。
そんなのは許せない。私をこんなことに巻き込んでおいて、このまま会えないなんて、恨み言の一つもまだ言ってないというのに――。
そう思いながら、虚空を見つめる。
ただ何もできず、祈るだけの時間がこんなにも永遠に感じられるものだということを、私は初めて味わっていた。
その時、広場の中央に歪みが生まれた。やがて、そこにはぐるぐると渦を巻く門が現れた。
――来た……のか?
祈るような気持ちでただただ見つめる。
やがて、ひとりふたりと竜族の人たちが門から現れた。そして、5人の竜族が現れたあと、見覚えのある風貌の二人が現れた。
一人は即座に振り返ると、次元門を解除した。間違いなく竜族の長、ゼーデその人だった。
もう一人は、私たちの方を見渡すと、
「おお、その様子だとうまくいったみたいだな、アル、レイノルド、みんな無事か――?」
相変わらずいつもの調子で軽い笑みを浮かべながら、そう言い終わるか終わらないうちに、白ローブの銀髪を振り乱した美女がその男に抱きつき、キスをした――。
それを見て、この作戦の成功を確信した周囲のものたちが、思い思いに拍手や歓声を上げ、彼らの帰還を称える。
少し前に気が付いたケイティと私は互いに目を合わせ、微笑みを交わした――。
第7章 伝説の幕開け 完




