第7章 伝説の幕開け(5)
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途端、私たちの前方から放射状に衝撃波が奔った――。
「ぐぅ!」
慌てて黒騎士は体の前方で腕をクロスさせ、衝撃に耐える。
『いまだ急げ、早くもっと内側へ、入るのだ!』
なにものかの交信が脳裏に響く。
ルシアスが、叫ぶ!
「全員走れ――――!」
言うや否や、ルシアス以下全員が黒騎士とは逆方向、つまり結界の壁に向かって走った――。
「おのれ、このくたばりぞこないめぇぇぇ」
黒騎士が大声で喚く。
『ヘルフレイム!』
先ほどの声がまた響く。次は私たちの背の方、つまり、黒騎士のいる方から巨大な火柱が立ち上った。
一行が結界の壁に到達した瞬間、ふっと結界が一瞬だけ消え、全員が中に到達した瞬間、再度結界が張られた。
そして、その結界の壁の外には、巨大な1頭の竜の背中があった――。
「ち、父上――!」
「父さま――!」
ゼーデとアリアーデが同時に叫んだ。
『何をしておる! ここへ何のために戻ったのだ! 自らの役割を全うせよ!』
また、あの声が脳裏に響く。
ああ、これはこの竜、ゲルガのものだったか――。
『今一度そなたらの顔を見ることができた、もう何も思い残すことはない――』
ゲルガは最後の力を振り絞って語りかけてきているようだ。
『この世界の奪還は不可能だが、世界の柱だけはこの竜族の誇りにかけて必ず死守するのだ――。さらばだ、我が子らよ、後は頼んだぞ――』
そう言って炎の柱の向こうへ飛び去って行った。
「くっ……。アリアーデ、柱を確保してくれ、その先に見えているだろう! 私はゲートを出す! 急げ!」
ゼーデが叫ぶ。
「わかったわ……」
そう言って少し先に浮遊している、宝珠に駆け寄った。
その時だった。
信じられないことが起きたのだ。
「ぐうううううおおおおおああああああ――――!!」
けたたましい雄たけびが発せられたかと思うと、結界の壁にビシリッと亀裂が入った。
次の瞬間、その壁に竜の首が斬り飛ばされ打ち付けられた。
「ち、父上ぇぇぇぇぇ――!」
間違いない、その竜の首はさっきのゲルガの首だった。
それを確認したかしないか、
バシャ――――――ンッ
と音を立て、結界壁は散り散りに霧散した。
「我が君! 早くゲートを!」
そう言って竜兵のもう一人が突如として変異し黒騎士の前に立ちふさがる。
が、そのものの首も次の瞬間地面の上に落とされた。
「逃がさぬ、逃がさぬぞぉ、柱を渡さんかぁ――ぁあ!」
黒騎士が急速に間合いを詰めてくる。
「次元門!」
ゼーデがようやく、次元門を出現させた。アリアーデはそれを見てチュリに宝珠を託した。
「チュリ! あなたのスピードが一番早いわ、宝珠をお願い、向こうの世界へ――」
アリアーデが叫ぶと、
「オッケーイ! 任せときな!」
チュリはそう叫んだかと思うと、宝珠を抱えて次元門に飛び込んだ――。
「いけいけ! みんな早く!」
ルシアスが叫ぶ!
続いて、ケイティ、レイノルド、私と次元門に飛び込む――。
一瞬、クラっと眩暈がしたあと出てきた先は、オーヴェル要塞の広場だった。
あたりを見回すと、先にくぐったチュリ、ケイティ、レイノルドの姿があるのを確認できた。
宝珠は、まだチュリの腕の中にある。
「ハン・ウー将軍!! チュリの持っている宝珠を頼みます! それから、迎撃態勢を――」
私がそこまで言った時だった、次元門からもう一人の影が現れた、アリアーデだった。
アリアーデは次元門から出てくるなり、門を閉じるべく詠唱を開始した――。
が、間に合わなかった――
次元門から次に現れたのは、黒い甲冑の方だった。
ゼーデとルシアスは――? いや、考えるのは後だ。
私はとっさに右手の剣を振りかざし打ち下ろした――、切り落としてやる! そう思い、力の限りの速度と角度で振り下ろした――。
ガキ――――――ン!
なんということか、刃は腕に接触する一歩手前で受け止められ、その反動で剣は弾き飛ばされた――。
アリアーデはまだ詠唱を続けている。
チュリがクナイを構えて飛び上がり、黒騎士に向かって急降下する。
「あ、危ない! チュリ、やめろ――」
私は反動で転がりながら叫んだが、チュリの体はすでに宙にある、今さら落下は止められない――。
黒騎士の腕が上を向いてチュリを迎え撃とうとしたその時だった。
いつか見たあの光が現れた――――。
――――――
十数秒前――――
ゼーデとルシアスは殿を護った、全員が次元門に飛び込んだのを確認したあと、それに続こうと、背を向けたときだった。
後方からすさまじい衝撃波が襲い、二人は次元門の右側へと吹き飛ばされた。
「ぐああっ……」
体中がばらばらになったかと思うほどの衝撃だったが、幸い、ほかに外傷はない。
しかし、体全体が打ちつけられたように軋む。
「ルシアス……、無事か……?」
「ああ、何とか立てるさ」
「あとは、アリアーデに任せよう……。ここを離脱するぞ」
ゼーデはそう言ったかと思うと、小声で魔法を唱えた、
「アクセラレート……」
ぼわんと二人を光が包む。
「走れ!」
ゼーデの合図で、二人が猛然とダッシュする。
加速魔法のおかげで、常人の数倍のスピードで駆け抜ける――。
黒騎士の左右に分かれて脇を走りぬけた二人は、そのまま一直線に洞窟の出口を目指した。
黒騎士はさすがに不意を突かれ、二人を逃してしまった。
が、目的は、その二人ではない。『柱』だ。
次元門の封鎖までにはいましばらく時間がかかる。まだ間に合う、と考えた黒騎士は次元門へ飛び込んだ――。
――――――
――数秒前。
アルが振り下ろした剣は黒騎士を切りつけることはできなかった。
どころか、むしろはじかれて、吹き飛ばされている。
チュリがすかさず、宙に舞った――。
しかし、ケイティは悟ってしまった、このタイミングではチュリは迎撃されてしまうことを――。
時間がゆっくりと流れる。私に何かできることはないか――。考えるより早く、体が動き出していた。
チュリが降下してくる、黒騎士の顔が上を向いてチュリを捉えたのがわかる。
――ダメ!
ケイティは黒騎士とチュリの間に割って入った。
途端に、一同の後方、ハン・ウー将軍のあたりからまばゆい光が差した――。
光は粒子となり、やがて大きなうねりとなって、ある一点に向けて流れ出す。
光の渦は、世界の柱から流れ出て、ケイティの体に集約されていく――。
黒騎士の眼前に巨大な銀色の繭が出現した、その中心にはケイティがいる。
デリュリウス監視塔の先の小島で見たあの光の繭だ。
『なんだこれは――?』
黒騎士がその光の圧力でたたらを踏み体勢を崩す。
チュリが空中から黒騎士の側頸部を目掛けてクナイを振り下ろした――。
ガキイ――!
クナイは甲冑の隙間から黒騎士の首へと突き刺さった。
やったか――、と皆思ったが、チュリの様子がおかしい。
「コイツ――! どうなってんだよ――? 手ごたえがない!」
チュリが叫んだかと思うと、黒騎士の右手がその小さな体を弾き飛ばした。
「がっ!」
チュリは黒騎士から数メル吹き飛ばされ、レイノルドがかろうじて受け止めた。
『汝、我を欲するものよ――、我は汝を拒絶する――』
「うあああああぁぁぁぁぁ――――!」
なにものかわからない声とケイティの叫びが同時にこだました――。
繭が突然増大したかと思うと、パァ――っと砕け散る!
すさまじい圧力がケイティを中心に放射状に放たれ、周りの人間を吹き飛ばす。
「ぐぅ――」
と、その場にかろうじて踏みとどまった私は、再度黒騎士に向かって突進した――。
ケイティの後方から、彼女の脇をすり抜けて、黒騎士に向かって猛然と体当たりをくらわす――。
先ほどの圧力をまともに受けてよろけていた黒騎士に、私の体当たりがまともに炸裂した――!
「おおおおおらああぁぁぁぁぁ――――!」
私は黒騎士にぶつかった後、さらに押し込む――。
体当たりをまともに受けた黒騎士は、次元門の中へと消えていった――。
「クローズド――!!」
アリアーデがそのタイミングを見逃さず、次元門を消失させた……。




