終章 「創世記」エピローグ
「一同、ご苦労であった。竜族の方々には胸中お察し申し上げる。しかし、『世界の柱』はこうして、こちらの世界へ確保できた。とりあえずのところ、世界の窮地は脱したと言えるだろう。今はまずこのことを第一としようではないか」
ガルシア国王が勝利の言を宣言した。
周囲から拍手が沸き起こる。ここに参列するものすべてが一同を祝福し、ねぎらいの意を込めて手を打ち合わせていた。
「竜族の王、ゼーデ・イル・ヴォイドアーク公。我が国はこれより竜族の再興に全面的に協力する所存である。公は当王国来賓として、王都シルヴェリアにお迎えいたす。もちろん従者の方々もご一緒に滞在なされよ。もちろんこれは、強制するものではないゆえ、そちらの御都合で自由に出入りしていただいて構わぬ」
ゼーデは、これに対し、首を垂れて返礼した。
「ルシアス・ヴォルト・ヴィント公爵。此度の働き、見事であった。追って、褒賞を付与する」
ルシアスは敬礼で返す。
「従者の者たちにも褒賞を与える。何が欲しいか、考えておけ」
私たち一同も敬礼で返した。
「一時の安寧かもしれぬ。問題の根源は失われてはいない。今後、異形の軍団はそう遠くないうちにこちらの世界へ侵攻を開始するであろう――。だが、我々は決して屈しない。この者たちがつないだ希望の灯を絶やすわけにはいかぬのだ。王国をあげて全力で、来る災厄へ対応する準備を進めるのだ。そして今度こそ、永遠の安寧を勝ち取ろうではないか――――!」
ガルシア王が高らかに宣言すると、周囲の者たちが一斉に沸き立ち、喚声をあげた。
――――――
謁見の間から大広間での宴会場へと移り、皆思い思いに宴を楽しんでいる。
私にはずっと気になっていることがあった。あの時聞こえた声はなにものだったのか? ケイティはあの時のことを覚えていないと言っていたが、本当だろうか? なにか、言えないようなことがあるのではないか?
私があたりを見回すと、ケイティが窓からテラスへ出るのが見えた。私は自然にケイティの方へと足を進めた。
彼女の背中のすぐ後ろまで近づくと、そこから声をかけた。
「ケイティ、大丈夫? 疲れてないか?」
「ああ、アル。大丈夫です。少し夜風にあたりたいと思って――」
「そうか、それならいいんだ。……。え、っと、ケイティはこれからどうするんだい?」
「え? あ、ああ。私は大聖堂に戻ろうと思っています。ことが終わったら、そうしようと決めていましたので。もどって、アナスタシア様に一度お伝えして、その後どうするか、ゆっくり考えてみようと思っています」
「そうか――。戻るんだね――」
「あ、アルはどうするんです? 冒険を続けるつもり……なのでしょうね」
「ああ、あの黒騎士には歯が立たなかった。このままでは、次はないかもしれない。今のままではダメなんだと思う。師匠もルシアスもまだここにいる。今のうちに学ばなきゃいけないことがあると思うんだ。――僕は、この世界を護りたい」
「ふふふ。そうだろうと思っていました。しばらくは、お別れですね。でも、たぶんそんなに遠くないうちにまた会うことになると思います」
「え? それはどういう――?」
「すべては、エリシア神様の加護の元に――。ですよ、アル」
そう言って彼女は空を見上げた。
その空は星が燦燦と輝き、半月の月が美しく揺らめいていた。
――――――
聖暦170年8月下旬
私はソルスの町にいた。『世界の柱』確保作戦から5年の月日が流れている。
ああ、いまは、もうソルスではなく、ソードウェーブという名の街になっている。
ソルスの町を拠点とし、海岸線まで街は拡充されていた。港もでき、街の中央には領主の城砦がそびえている。
私はいつものごとく、冒険者ギルド『木の短剣』の掲示板の前にいた。今日はどんな依頼が来ているだろう。魔巣関連の仕事はないかと物色している。
その時、私の後ろからけたたましくとがめる声がした。
「テルドール卿! また、依頼書を物色なさっているのですか――。あなた様が依頼をとってしまわれると、他の冒険者へ仕事が回りません。いつもそう言っているではありませんか」
振り返ると、金髪を後ろで一つにまとめ、肌は白く透き通るような美女が、目頭を釣り上げて立っていた。
「あ、ああ、メルリア。大丈夫だよ、こんなに盛況じゃないか。私が一つ二つとったところで、冒険者への依頼はなくならないさ」
私は少しばつが悪そうにそう言い訳をする。
「んもう、ルシアスからのお許しがあるからと言って、好き勝手にされては困ります。ちゃんと、冒険者クラスに合わせた依頼をですね――」
「ごめんよ。でも、この依頼主、ちょっと急ぎのようだし、ほら、手遅れになる前に何とかしないとね、じゃあ、この依頼書、もっていくよ!」
そう言って、『木の短剣』を飛び出した。
飛び出したところで私の肩ぐらいの背丈の女性と鉢合わせする。
「アル! いい依頼はあったのか?」
「あ、ああ、チュリ。急ぐぞ、少し前の依頼だから急げばまだ間に合うかもだ――」
私はそう言いながらも、走るのをやめない。
「ちょ、レイノルドには伝えたのかよ――?」
チュリはそう言いながら私の後を追いかけてくる。
「今から行くところさ、どうせ、レッド・ジュース・ダイニングにいるんだろうからさ!」
「ああ……、確かにな、ところで、ウチとはいつ結婚してくれるんだよ?」
「はぁ? そんなことは約束してないって何度も言ってるだろう? それに俺はまだ身をかためようとは思っていないんだからな――」
「じゃあ、ケイティにはいつ会いに行くんだよ?」
「ぐ……、そ、それは、だな、そう、そのうち……だよ――」
「かぁ――――! もうどうだかね、この煮え切らねぇ男はよ。好きあってるんなら、さっさと一緒になっちまえばいいのによ? そうしたらウチもあきらめがつくってもんだ――」
「う、うるさいんだよ、お前は! ほっとけ!」
――――――
あの日、あの夜、天は清々しく澄んで、星は燦燦ときらめき、半月がきれいに揺らめいていた。
天を見上げる、ケイティの横顔はとても美しく、凛としていた。
私は、思わずケイティの肩に手をかけると、こちらに向かせた。
目と目が合い、ほんの数秒見つめ合った二人は、互いにその心を抑えきれなくなっていった。
そうして徐々にその距離が近づいていくと、自然に唇を重ねていた。
私たちの背中からは、優雅な宴の音楽がゆっくりと流れていた――――
完




