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第7章 伝説の幕開け(2)

2

 一行は森を抜け、山岳地帯に足を踏み入れた。

 さすがに山も結構高くまで上がってくると、草木の数も減ってくる。

 地面には石や土ばかりになり、草木はところどころに生えている背の低いものばかりになった。

 

 それにしても、あれからやつらに遭遇していない。不気味なほどに静かだ。

 ゼーデが定期交信を行って、仲間と連絡を取り合っている。

 

 このあたりで落ち合う予定という事だったが、最終確認というところだろう。


 この世界、たしかに美しい自然に囲まれているのだが、私たちの世界とは決定的に異なることがあることに私は気付いていた。

 人が住んでいる気配が全くないのだ。

 例えば、人が住んでいれば村や町、家や小屋などの建造物があってもおかしくない。しかし、この世界についてから今までそれらしきものは見ていない。

 街道のような人が行き交っている様子も見当たらないし、田や畑のように作物を育てているような様子もない。

 動物はいるのだが、みな野生のものばかりで、人に飼われているものはいなさそうだ。

 竜族って、いったいどこで暮らしているのだろう?

 そんな、単純な疑問が湧いてくる。


「師匠、竜族って普段はどんな生活を送っているんですか?」

私はこらえきれず、アリアーデに質問してみた。


「え? ちゃんと家に住んでるわよ? ああ、そういえば説明してなかったわね。私たちの家は地表上にはないのよ」

アリアーデはいまさらながらに答えた。

「私たちの家は、地面の下にあるのよ。今私たちが見ているのはこの世界の地表面。地表面には普段、私たちはあまり出てこないのよ。生活のもっぱらの中心は、地下世界だから。見えている世界は私たちの世界の半分ってことね」


「地下?」

私はあまりの驚きに声が上ずってしまった。

「えっと、それは洞窟とかそんな感じのものですか?」


「んー、洞窟というか、地表で隔てられた空間――って感じかな」

と、アリアーデは少し説明しづらそうだ。

「アルにもわかると思うけど、地表面は魔素が濃密でしょ? 私たちの魔素の源はこの地表世界の豊かな自然なのよね。だから、この地表面には建造物などは建てずに自然を最優先にしているってことなのよ。結果として、地表面は開発せずに地下世界を開発してきた。だから私たち竜族の生活基盤は地下世界になってるってことなの」


 なるほど。これほどまでに自然豊かで濃密な魔素の理由はそういう事だったのか。つまり、地表世界には人の手、もとい竜の手が入っていない為、ほぼ原始のまま保たれているという事なのだろう。


「私たちが地表に出てくるのは、長距離を移動する必要があるときぐらいね」

アリアーデはそのように説明した。


「なるほど、さっきからやつらの気配がない理由はそういう事だったのですね。地表には竜族のものたちはほとんどいないから、やつらも警戒していないってことか」

私は納得した。

 地表面に逃げられてしまった竜族を追う手立てはやつらも持ち合わせていないという事なのだろう。

 だから散発的に斥候を放つ程度にしかやつらもいないというわけだ。

 そう思えば初めに出くわしたのはまさしく偶然であったといえるだろう。

 

 だとしたら、地下の世界はいったいどうなっているのか?

 私はそれ以上想像すると少し身震いしたので、そこで考えるのをやめることにした。


「ここで、しばらく待機しよう。仲間がこちらに向かっている」

ゼーデがルシアスにそう告げた。


「わかった、では装備の再確認と、少し食事をとろうか」

そう言って適当なところに腰を下ろした。

 皆もそれぞれ適当なところに腰かけて、携帯ポーチから干し肉などを取り出してかじりだした。

 この干し肉は王都を出る前にフランシスが持たせてくれたものだ。口に入れると始めは固いのだが、しばらくすると柔らかくほぐれて、濃厚な肉の味がしてくる。

 それと、もう一つ。手のひらサイズの小瓶がある。これはメルデ雑貨店からヘラが人数分もってきてくれていたものだ。中にはプルプルしたゼリーが入っていて、ひとくち口に含むだけで、瞬時に乾きが癒される優れものだ。

 こういった携帯食料には戦争によってもたらされた技術が数多くある。そう思えば、戦争というものがもたらす恩恵というのもあるのかもしれないと思いもするが、やはり、私の中にはそう考えたくはない自分がいる。人類は戦争などしなくても技術を発展させるであろうし、また、それほどの発展をせずとも、充分に繁栄をすることも可能だと信じたい。

 まさしく、この世界(竜族の世界)がそうであるように――。


 30分ほど待っただろうか、山並みから先に見える空を見上げながら、来た、とゼーデが言った。

 見ると、2頭の竜がこちらへ向かって飛んできているのが遠目で見えた。


 やがてその2頭は近くまで来ると、地上に降り立った瞬間、人の形に姿を変えた。

 そして、ゼーデの前まですすむと、膝を追ってひざまずいた。


「我が君、ようこそご無事でご帰還なされました。お待ち申し上げておりましたぞ――」

一人がやや感極まって震える声でそう言った。


「リュシエル、そなたも無事で何よりだ。生き残りのものを集結させてくれ。それから、『柱』の確保作戦の打ち合わせをしよう」

ゼーデはそう言って一人の肩をたたく。


 リュシエルと呼ばれたその男は、肩を震わせながら、

「はい、我が君。即刻、残存兵力を集結させましょう。やつらに一泡吹かせてやりましょうぞ……」

そう言ってむせび泣いた。


――――――


 それから30分後。

 竜族の隠れ家へと竜の背中に揺られてやってきた。

 

 初めて空を飛んだ。

 

 必死に背中にすがりついてはいたが、上空から眺めるこの世界は圧巻だった。

 自然豊かな大地と、ところどころ魔素が流れ込む大地の裂け目(クレバス)がより一層その美しさを際立たせていた。

 この世界がまもなく異形の軍勢によって陥落すると思うと悔しさがこみあげてくる。ゼーデの心根はいかばかりだろう。いくら竜族の力が強大とは言え、数で圧倒的に劣る竜族にはもう、この世界を奪還する余力は残っていないのだ。

 『世界の柱』を無事確保できたとしても、人族の世界も対応を急がなければ、同じてつを踏むことになる。

 そうならないように、王都や大聖堂が準備を進めてくれているが、私は何ができるだろうか、と竜の背中に揺られながら想いにふけっていた。


 到着後、時間を追うごとに、1頭、2頭と竜族が集結した。

 こちらの総勢は、人族5人と竜族12人となった。

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