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第7章 伝説の幕開け(1)

1

 次元門ゲートをくぐった先に出た場所は、私の想像しているものとは違っていた。

 竜族の世界、というのだからなんというかもっと、ファンタジックな世界、例えば、切り立った山々が連なっているとか、空はごうごうと風がうねっているとか、勢いの強い濁流が流れ出しているとか、そんなふうに勝手に思っていたのだが、まったくの予想外だった。

 そこは、森の木々が少しだけ開けた広場だった。

 私たちの世界の別の場所に出たのかぐらいにしか思えないほど、私たちの世界と何も変わらないように見えた。

 

 ただ、周囲から流れ出ている魔素量が私たちの世界とは圧倒的に違っている。

 木々からも周囲からも立ちこめ、むせ返るほどの魔素があふれていた。


「なんて魔素量なの……」

ケイティが思わずつぶやく。


「ああ、僕も同じことを考えていた。魔素の濃度が僕たちの世界とはまるで違う」

私もケイティに同意した。


「そーなのか? 俺にゃあ、どこも変わんねーようにしか見えんけどなぁ」

レイノルドだ。


「レイの兄ちゃんは、感覚が鈍いから、よくわかんねーんじゃないか?」

そういってチュリが茶化ちゃかす。


「幸い、近くにやつらの気配はないようだ。ゲートを閉じるぞ」

そう言ってゼーデは次元門ゲートの方へ手をかざすと詠唱を始めた。

 数秒後次元門(ゲート)はその場所から消失した。これで、もう私たちは自力では帰れなくなった。ゼーデとアリアーデ以外、次元門ゲートを生成できないからだ。


「生き残ってる同胞がいるか確認を始める。皆は、しばらく待機していてくれ」

そう言ってゼーデは、少し離れて仲間との交信レパスに集中し始めた。


「それにしても、人族の世界と何も変わらないように思うんですが、本当にここが師匠の世界なんですか?」

私はアリアーデに聞いてみた。


「あら、アル。どんな世界を想像していたのよ? 私たちが竜だからって、生き物が生きる世界って基本的にはどこも同じようなものよ。妖精族の世界もこんな感じで変わらなかったもの」

アリアーデが少しからかうような表情で応える。


「ねえちゃん、妖精族の世界にも行ったことあるんだね」

チュリが割って入る。


「そうね、あそこも人族の世界もここも、同じように草木や花や動物たちがみんな穏やかに暮らしていたわ。おそらく、ほかにも存在する違う世界もそうなんだと思うのよね。だから、壊されないように守らないとね」

そう言ってチュリに向かって微笑んだ。


 やがて、ゼーデが戻ってきてこう告げた。

「いい情報と悪い情報がある。いい情報は、10人ほどの同胞がまだ生き残っていて2組に分かれて隠れているということだ。悪い情報は、やつらはすでに結界のすぐそばまで迫っているとのことだった――」


 ゼーデによると、竜族の生き残りはやつらの侵攻に対して時間稼ぎをずっと続けていたらしい。結界の場所を特定されないようにいくつかのグループに分かれて陽動を行い続けていたとのことだった。そのグループははじめは10個隊ほどあったのだが、いまは2個隊しか残っていないそうだ。各グループに5人ずつで計10名だけが生存しているという。そうして、未だ結界の場所は発見されていないらしいのだが、やつらの版図も徐々に拡大しているため、結界の発見も時間の問題だろうということだった。

 

「まずは、残っている2個隊のうち、連絡が取れた方と合流する。その後、作戦を考えよう。敵方の動向を知らないと作戦が立てられないからな。チャンスは一度きりしかないのだ、失敗は許されない」

ゼーデが最初の目的地を定めた。一同はこれに賛同した。


――――――


 森の中を歩き始めて1時間ぐらいが経過したころ、ゼーデと共に先頭に立っていたアリアーデが右手を挙げて制止した。

「やつらの気配がするわ、大きいのが一つと小さいのが二つね。方角は2時あたりの方ね。これまでに出会ってきた、やつらの下等属たちは魔素の感知ができないものが多数だったわ。おそらく、まだ気づかれてはいないと思う」

どうする? とルシアスに問う。


 やり過ごせたとしても、今後、後方からの接近を常に警戒しなくてはならないかもしれない。後顧の憂いは断っておくのが戦術の基本というものだろう。


「やるしかないだろうな……」

ルシアスはそう言って全員に目で合図した。


 各員は打ち合わせていた通りの陣形をとり、武器をぬいて交戦準備を整えた。


「アリアーデ、目標までの方角、距離をもう一度診てくれ。一気に詰めるぞ」

ルシアスの指令にアリアーデが答える。


「この向きで正面、100メル先よ。間違いないわ、3体いる。他に気配はないわ」

アリアーデが戦況予報を返す。


「よし、行くぞ! 一気に詰める!」

ルシアスの合図とともに全員が一気に駆けた。


 50メルほど走ったところでやつらの姿を視認した。相手はまだ気づいていない。敵は大鬼と小鬼が2体だった。そのまま、走るスピードを落とさず20メルまで詰めたとき、アリアーデが急停止して、魔法を発動する。


「ディレイ!」

たちまち、私たちの前方に光の壁が形成され、放射状に広がってゆく。


「正面に3! 以上よ!」

アリアーデの指示が飛ぶ。


 レイノルドと、ゼーデが先陣を切った。3体のうち2体に不意を突いて攻撃を仕掛ける。敵は3体ともアリアーデのディレイの効果で硬直している。


「どうぅりゃぁぁぁぁぁあ!」

レイノルドがいつもの体当たりを小鬼にくらわす。小鬼は弾け飛んで、ぐしゃりとつぶれた。


「ふんっ!」

と、ゼーデがニホントウを一閃、大鬼の首が胴体からずるりと落ちる。


 もう一匹は? こいつがなかなかに厄介だった。

 異常を察した残りの一体が背を向けて走り始めた、このままだと逃げられる、そう思った瞬間だった――


「アイスバインド!」

ケイティの詠唱だ、たちまち足元から氷のツタが立ち上り、小鬼の体を巻き込む。


「はぁぁっ!」

私は短剣ショートソードを水平に一閃、氷のツルごと小鬼の胴体は真っ二つに分離した。


「「クリア!」」

全員がほぼ同時に叫ぶ。


「オッケー、ほかに気配はないわ。でも、もしかしたら異常に気づくかもしれないから、急いでここを離れるわよ!」

そう言ってアリアーデは、そのまま2時の方角に駆けるよう指示をした。

「走って! 500メル! 急いで!」


 一同は指示の通り走り始めた――。


 初めての遭遇戦は、いつも見ていたやつらだったから案外と楽だったが、この先どんな敵が待ち受けているか、全く見当もつかない。常に魔素感知を最大限に行わねばならないだろう。

 そこはもう、アリアーデの魔力に頼るしかない。ゼーデの魔力は帰りの脱出用に温存しておかなければ、万事休すなのだ。

 私とケイティでは次元門ゲートを召喚することはできないのだから――。


 一行はその後も注意深く目的地へと歩みを進めた――。


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