第5章 解放(5)後編
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最後にゼーデが入ってくるのを確認したルシアスは、いつも通り魔巣の内部通路の先にある扉へと前進を指示する。
扉の直前で先頭のレイノルドが後ろを振り返り、全員の準備完了を確認し、扉をあけ放った。
真っ先にレイノルドが銀色の中盾をかざして突入する。そのあとに左右の二人、ルシアスと私が右と左へ展開、アリアーデの前方に壁を作る。
次いで入ってきたアリアーデが無詠唱で魔法を即時発動した。
「ディレイ!」
アリアーデの周りに展開する3人のすぐ前から放射状に光が広がって、部屋中にいきわたって消えた。
光を浴びたやつらは一瞬発光して、動きが止まる。
後方から入ってきたケイティとゼーデはアリアーデの後ろで控える。
ケイティは部屋の中を見渡しながら、敵の位置の確認につとめた。
「正面2、右2、左1と1!」
アリアーデが敵の数を叫んだ。
「右2、見えた!」ルシアス、
「正面2、オッケー!」レイノルド、
「左、小鬼と別のやつ計2体確認!」私がそれぞれに叫ぶ。
「左の一体が魔素量が多いわ! アル、気を付けて!」
アリアーデの言葉が終わらぬうちに、ルシアスは左の2体へ、レイノルドは正面の2体のうち近い方の1体に突進した。
私の前方には2体、一つは小鬼、もう一つはその後方で身構えており、そいつは木製の杖をかざしている。
私も自分の正面にいる小鬼に突進する。
小鬼は、得物を構えた瞬間には、すでに首と胴体が別になっていた。
後方のもう一体、見た目は小鬼と同様だが少し意匠《身にまとっているもの》が違う。そいつの杖の先が不意に光始めた。
魔法の兆候と感じ取った私は、少し距離をとって身構える。
「――――!」
そいつがいつもの金属をかきむしるような声で雄たけびを上げた。
次の瞬間私の足元が魔素の集中で光りだしたかと思うと、炎の渦が巻き起こりだす。
(来る――!)
そう思い、その場から飛び退った瞬間だった。
私の目の前で、巨大な炎の柱が立ち上った。
「ゴオオオオオオオ――!」
「うお――! あっちい!」
さすがの私も驚いて叫ぶ。
「ディスチャージ!」
私の後方から、男の声がした、ゼーデだ。
目の前の炎が魔素に包まれたかと思うと、跡形もなく消え去った。
その先には、杖を構えたまま硬直している小鬼が見える。
「はあああ――!」
私は再度地面をけって前方へ突進する。
ショートソードを左から右へ水平に薙ぎ払うと、そいつの首が跳ね上がった――。
――――
レイノルドは、盾を構えて1体に突進した、いつも通りの手筈だ。
ゴン!
盾の突進をまともに受けた小鬼の頭がはじけ飛ぶ。
次いで正面左手にいるもう一匹に向き直る。相手はレイノルドへ向かってすでに突撃を開始していた。
すかさず盾を構えて、敵の刺突攻撃をはじくと、右手のショートソードを振り下ろす。
ショートソードの刀身が小鬼の左肩から胸のあたりまで吸い込まれていき、やがて止まった――。
――――
ルシアスは、2体の標的を見て取ると、左右に並ぶ2体の向かって右のほうへと突撃を開始、向かいながら同時に大剣を自身の左から右へと振り払う。
左の個体がかわそうと飛び下がる気配を見せた瞬間、後方から魔法発動の声がする――。
「アイスバインド!」
アリアーデだ。
ルシアスの前方の2体は地面から生えた氷の蔦に足をとられて、その場にくぎ付けにされる。
ルシアスの大剣が左の1体の腰あたりにめり込んで真っ二つに両断し、ついでその軌道のまま、残りの一体の胸の高さをそいつの腕ごと両断した――。
「クリア――!」
「クリア!」
「クリア!」
3人がほぼ同時に発声した――。
――――
部屋内の敵を殲滅したあと、魔巣コアを発見した。
これを破壊すれば魔巣駆除が完了する。
ルシアスがいつものごとくコアに向かって大剣を振りかざしたその時だった――。
「ケイティ! 逃げて――!」
アリアーデの声だ。
私は声にはじかれるようにケイティの方を見た。
彼女の真後ろあたりに魔巣の入り口が開いている――!
いつかの記憶がフィードバックしてくる――!
私は夢中でケイティに向かって飛びついた。
私の手が届くかどうかのところに来た時だった――
――ギィィィィン!
彼女の体が銀色の光に包まれ、魔巣から現れた大鬼の斧を受け止めている――
「ゼーデ!?」
アリアーデが聞いた。
「いや、俺じゃない――!」
ゼーデが答える。
「ぬぅうおおおおぉぉ――!」
ルシアスが大剣を振りかぶると同時に大鬼に向かって振り下ろす――
ズッバアアアアァァァァ――――!
相変わらず豪快だ。
大鬼は真っ二つになって、倒れた。
ケイティはまだ銀色の光に包まれているままだ。
「これは、ケイティがやってるの?」
アリアーデが問いかけるが、彼女は眼を見開いたまま虚空を見つめている。
「ああ、俺もお前もやってないのなら、そう考えるのが妥当だ」
ゼーデが答える。
「レイ! コアを破壊しろ!」
ルシアスが叫ぶ。
「オーライ!」
そう答えたレイノルドが中盾をコアにたたきつけた。
風がうなる音が数秒続くと周囲の風景が森の中へと変わった。
同時に、ケイティを包む銀色の光がふっと消失したかと思うと、彼女は眼を閉じて意識を失ったまま崩れ落ちる。
私は目の前で崩れ落ちるケイティを慌てて受け止めた。




