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第5章 解放(3)前編

3

 王城での会合から二日後、今日が第一回目の旅の始まりの日だ。


 今回の目的地は、王城から海路で北東へ向かったところにあるデリュリウスの塔である。

 おそらく魔素案件と思われる事案が数日前に王都に報告された。ちょうど、ルシアス一行がエリシア大聖堂でゼーデと会談を行った日だ。

 ガルシア国王からルシアスへその会談の日に話が通っている。以下事件のあらましを述べる。


 デリュリウスの塔はそもそもかなり昔から存在していた遺跡の塔を改修した監視塔であり、海路の監視と防衛拠点として現在、王国の管理下にある。

 改修によって塔内部は再建築が施され、監視部隊が3小隊ほど駐屯して、日夜交代で海路の監視を行っている。

 数日ほど前、夜中の監視を行っていたところ、デリュリウス監視塔から北へ5キリほどにある小島の一つが炎を上げた。その後、その炎はすぐに消えたという。

 一応念のために監視部隊の一つが現地を調査したが、たしかに木々が幾らか焼失しているのが発見された。しかしながら、火の出どころは一切不明であった。元々無人の小島なので被害はないが、不審な事件は報告せよとの厳命を受けていたため、王城へ報告が上がってきたということだった。


「アリアーデ、どう思う?」

ルシアスが意見を求める。


「何とも言えないけど、これまで遭遇したやつらの中に火を使ったり、魔法を使ったりするやつはまだ見ていないから、どうでしょうね」

アリアーデはそう答えておいて、もしかしたら新種のやつらかもしれないわねと加える。


 一行のメンバーは6人になっている。ルシアス、アル、レイノルド、アリアーデ、ゼーデ、そしてケイティだ。

 このうち、戦力となるのはケイティ以外の5人であるが、ゼーデは未だ魔素が充填されていないため、彼の魔法は今回は期待できない。

 竜族は普段は人の形をとっており、戦闘時に大竜ドラゴンの形態に変化へんげする特殊能力を持つ種族であるが、その変化にも魔素が必要となるのだ。

 なので実質はいつものメンバー4人が戦闘要員となる。

 今回の事件にケイティの同行をどうするかという問題はあったが、アリアーデが連れていくと言ってきかないので、同行することになった。


 一行は王都を出て北へ進む。陸路でもデリュリウス監視塔へは行けるのだが、そのためには東にあるオーヴェル要塞の方へ一旦東へ行き、そこから北上するという道のりになるため日数がかかる。それより、王城の北にあるニウス港から船で北東へ海路を進む方が早いのだ。

 

 旅程としては、今日はニルス港まで行って宿をとり、明日朝の定期便でデリュリウス監視塔へ向かうことになる。船で丸1日進めば目的地へ到着するため、到着は明後日の朝となるだろう。

 

 ニルス港は北東に位置する隣国、ベイリス王国との交易港でもあり、入出港する交易船やその乗務員たち、荷揚げされた交易品や一緒にわたってくる行商人などでにぎわいを見せる町だ。

 

「ニルスに行くのは久しぶりだなぁ。なぁ、アル、あの雑貨屋の娘、なんて言ったっけ、彼女元気にしてるかな」

レイノルドがところかまわず女の子の話をするのはいつものことではあるが、今日はその話題は避けてほしかった。なんせ、今回の旅には、女の子がひとり混じっているのだから。


「あらあら、レイ。こんな美人のお姉さんとかわいらしい巫女さんと一緒にいるのに、女の子の話題を出すなんて、どんだけデリカシーがないのかしら」

アリアーデがレイノルドに詰め寄る。


「あ、つ、つい、いつもの調子で……、すいません、あねさん」

レイノルドが舌を巻く。


「あ、そんなに、気になさらないでください。私こそまだ何のお役にも立てないのに旅費まで出してもらって、その、申し訳ありません……」

ケイティがしおらしく謝る。


「ほら、レイが悪いんだぞ? いつもそんな調子でまわりに無頓着だから、ケイティが気を使ってるじゃないか」

私がさらに追い込む。


「お、お前、傷口にさらに塩を塗りやがって、さてはお前、サディストだな?」

レイノルドが私に八つ当たりをする。


「ケイティ、大丈夫よ。この人たちいつもこんなだけど、ものすごく仲間思いだから安心して。それにあなたがただの役立たずなら連れてこないわよ。あなたは3年間も巫女見習として教養を積んできたじゃない? そういうことが私たちの力になることだってあるのよ?」

アリアーデがそういってケイティを諭した。


 さすが、姐さん、年の功とはこういうところに現れるものか。


 それにしても、おととい出会ったあの娘とはまったくもって正反対な性格のように見受けられる。

 ケイティは、常に慎み深く、実直な感じを受ける。いわば、足元まで覆うほど長丈の真っ白でさらさらと風に揺れる絹のローブのようなイメージだ。

 それに対して、あいつ―チュリは、挑戦的で自由奔放、目的のために手段を選ばないような活発さがある。そうだな、例えるなら、動きやすさを重視し、暗闇に潜んで目的を達するため身に着ける、露出度の高い黒革製の軽鎧のような感じだ。


 ん? 露出度はこの際あまりどうでもよいはずだが、思わずそんな想像をしてしまったのは、この2日間の体験が頭にこびりついているからだろうか。


 とりあえず、昨日の朝食後、また会うという約束までさせられたが、いったん引き取らせて、それ以上の進展(?)は何もなかったので、事なきを得たが、なんとも変な奴にからまれてしまったものだ。


 ゼーデは終始黙ったまま黙々と歩を進める。何を考えているのか、どういう性格の人間、じゃなかった、竜なのか、私にはいまだつかめずにいる。

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