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第5章 解放(1)

1

(――――。……ん、ん~)


 久しぶりの自分のベッドはやはり気持ちがいい。

 私は、ふかふかのベッドの感触に浸りながらまどろんでいる。目が覚めても、まだ少し、もう少しと瞼を閉じたままでしばらくいるのが、いつもの恒例行事だ。


 右に寝返り、左に寝返ろうとした時、なにか温かいものにぶつかる。


(ん……? なんだこれ?)


 私はその温かいものを左手でまさぐってみた。ふにふにしてて温かいものが確かにそこにあった。


「ん……、ふふふ、ひひひ、ハハハハハ!」

そいつが、不意に爆笑しだした。


 な、なんだ? 誰かいる? 


 私はあわてて目を開けた。

 と、そこにはショートカットの女の子が身をよじって爆笑している!?


「な、誰だ、お前! 人のベッドでなにしてる!」

さすがに飛び起きてそいつに向かって叫んだ。


「なにしてるは、こっちのセリフだ! 急に人の体を撫でまわしといて、くすぐったいだろうが!」

そいつが怒鳴り返す。


「あ、え? 今のって、もしかして……」

私は先ほどのふにふにした温かいものの感触が脳内にフィードバックしてくる。


「ったく、朝からどこ触ってんだよ!?」


 そいつは、自分の胸あたりを両手で覆っていた――。


「ご、ごめんなさい! そんなつもりは全くなかったんだ――――って、お前――! なんでここにいるんだよ!?」

私は不意なことに思わず謝ってしまったが、すぐに違和感を覚えて、そいつに詰め寄った。


「なんでって、ついてきたからに決まってるだろ」

そいつが、さも当然のごとく答える。


「いやいやいや、だから、なんでついてきてるんだって聞いてるんでしょ?」


 そいつの話によると、私は路上でへなへなと倒れてしまった後、急に立ち上がったかと思うと、ふらふらと歩き始めたらしい。で、あまりにふらふらで危なっかしいから、一緒にここまでついてきたということだった。私には全く記憶がない……。


「あんちゃんが、なんかふらふらへろへろしてるから悪いんだよ。心配になるの、当然だろ? それに、ウチ、名前名乗ったぜ? いい加減、名前で呼んでくれよな」

そういって頬を膨らませた。


 その仕草が、とてもかわいらしく見えた。

 昨晩は暗くてよくわからなかったが、あらためて見てみると、栗色のショートで、緩やかなウェーブがかかった髪、大きめの目と長いまつげ、顔は丸型で色白、ぷっくりとした唇には、薄く紅を引いているのか? なかなかの美少女である。


 そのまま目を下にやっていくと、彼女の着ているものが見えた。

 布製のシャツは前ボタンがついているタイプで、上から2つぐらいが外れている。太ももがあらわになっていて、その付け根には白い下着が見えた――――。


「って! お、おまえ、なんで下はいてないんだよ!? さ、さっさと着ろ!」


「あ、あんちゃんこそ、ど、どこみてんだよ!? 寝るときは下は脱ぐもんだろ!」

そいつは慌てて毛布を引き寄せて体に巻き付けた。

 

 そうしてこう言った。


「改めて言うけど……、ウチの名前はチュリ、チユリーゼ・カーテル。あんちゃんの名前は?」


 窓から入ってくる朝日を背にした、そいつの弾けるような笑顔は、とてもまぶしく美しかった。

 

――――


 私たち二人はその後すぐに部屋を出た。

 幸い今日はメルデ雑貨店(部屋の下の階の店)は休業日だったので、メルデとヘラはまだベッドの中だろう、ふたりにこいつ――チュリのことを見られたら、おおごとになるところだった。

 見つかる前に急いでここを離れなければ――。


「あんちゃん、名前だよ、な、ま、え」

しつこく聞いてくるチュリに、

「う、うるさい、静かにしろって! もう、わかったから、しばらく黙ってろ、腹減ったから、朝飯でも食べながらゆっくり話を聞いてやるよ」

とりあえずのところ、そう答えておいて、そそくさと北門通の方へ歩き出す。


 それにしても昨晩帰ったときにヘラに遭遇しなかったのは、奇跡と呼べる。

 私にしても、情けないことに、我を忘れてしまっていて、茫然として全く覚えていない。

 このような時に、異性との関係の経験の浅さ―というより皆無だが―が露呈してしまうとは……。

 いや、むしろ、旅の途中でなかったことを安堵するべきだろう。これが、皆の見ている前だったらと思うと寒気がする。


 私は、北門通をそのまま渡って、北東門へ続く路地へと進む。この先、北東門のあたりまで行くと、商人職人たちが出勤前に立ち寄っていく軽食店が立ち並んでいるのだ。

 チュリは、どこいくの? なに食べるの? としつこく聞いてくるが、私はとにかく無言で歩き続けた。


 やがて、北東門通りがやや右曲がりの路地の先に見え始めたころになると、まだ朝が早いとはいえ、ちらほらと人通りが増えてくる。すぐその先にある店が目的地だ。


 北東門通りに出る手前右手にその店はある。スニッカーのブレッド・ファストだ。 

 わたしは、無言のままその店の開き戸を開けて店内に入ると、すぐ左手にあるトレーとトングを一組とって、それをチュリに渡す。


「好きなものをとってこのトレーに乗せろ」

そう言ってチュリを促した。


 トレーとトングの置いてある先には、色や形がとりどりの菓子パンや、サンドイッチ、バーガーなどが棚に所狭しと並べられていた。


「うわあ! すっごいなあ! こんなにたくさんの種類のパンが並んでるのなんて初めて見たよ!」

そう言ってチュリは感嘆の声を上げ、

「ホントにいいのか? どれとってもいいのか?」

そう嬉しそうに聞いてくる。


「ああ、好きなものを好きなだけ取ればいい。ただし、今食べられる分だけだぞ?」

そう言って彼女の背中を押してやった。

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