第4章 邂逅(9)後編
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いつも通り、王都の中心から放射状に8方向に伸びる街路のうち、北門へ向かう道を歩いていた。
部屋は前にも言ったが、北門のそばの雑貨屋の2階だ。北門の手前を左折れしたらすぐの場所だ。
レッド・ジュース・ダイニングをでたのが、店が閉まってからだったので、もうすぐ真夜中の23時になるころだろう。
さすがに人通りもなく、夏の終わりの夜中にもなるとすこし肌寒く感じる。
そういや、いつだったか、こんな時間に何かあったような気がするな……なんだったっけ?
あれは、ルシアスの屋敷からの帰りに北西門から商店路地に入ったときだったな……。
「あんちゃん、冒険者だろ? 悪いことは言わないから、有り金全部おいていきな……」
そうそう、そんな感じで後ろから声を……
って、
「またお前か!!」
私は大声でそう叫んで、後ろを振り向く。
「ひっ!」
そいつは、小さく悲鳴を上げて尻もちをついてへたり込んでしまった。
「お前! 追いはぎなんかやめろってそういったよな!? なんでまだやってるんだ!?」
声をあげてそいつを恫喝する。
「い、いや、誤解だ、誤解です! もうやってません!」
そいつは、懸命に首と両手を振っている。
「じゃあ今のは何だ? 俺をまた襲おうとしたのか?」
さらにたたみかけるように声を大きく張り上げた。
「と、とんでもない! あんちゃんには勝てるわけないよ。違うんだ、さっきのは冗談。前と同じように声を掛けたら、ウチのこと思い出すかもって、そう思ったんだよ」
そう言いながら、立ち上がるとおしりをパンパンとはらった。
ふむ、確かにこの間とは様子が違う。ナイフも抜いてないし、フードもかぶってない。というより、前回出会ったときは顔も汚れて黒ずんでいたが、今日は綺麗に化粧をしているのか? 暗くてよくわからないが、前回よりは女の子っぽく見える。
「ウチは、チュリっていうんだ。よろしくな、あんちゃん」
そう言って右手を差し出してくる。
「何の真似だ? 金ならやらんぞ?」
「ちが――う。握手だよ、あ、く、しゅ」
「なんでお前と握手しないといけないんだよ?」
「えー? 感動の再会だぜ? 運命の出会いからの、感動の、さ、い、か、い」
そう言いながらさらに右手を伸ばしてくる。
「いや、いらない、かえる」
「ちょ、ちょ、ずーーっと探してたんだぜ? そんな扱いひどくないか?」
「なんで、俺を探すんだよ? なんか届け物か? お前からもらうものなんてなんもないぞ?」
「だから、ちがうって!」
そう言った次の瞬間だった、
(しまった、油断した!)
そいつは、そういいながら私の胸元へ飛び込んできて、抱きつくなり、唇を重ねてきた。
「――――!?」
私はさすがに驚きのあまり硬直してしまった。
なんだこの感じは? やわらかい? あたたかい? なんか湿ってる? 相手の鼻息が私にかかるし、私の鼻息もかかってる? なんというか……。
腰が砕けた。
私はそのまま相手に押し倒されるように尻もちをついて座り込んでしまった。
何秒経った?
まだ離れない。
さ、さすがに、こ、これは……!
慌てて思いっきり相手を突き飛ばす!
「ぶ! ぶは――――!!」
く、苦しかった――!
そいつは突き飛ばされた勢いで後方に2回転ぐらいしてすっ飛んでいった。
「――ってえ! な、なにすんだよ!」
そいつが叫ぶ。
「な、なにするんだよはこっちのセリフだ――――!」
さらに、私は興奮気味にまくしたてる。
「お、お前、急に何するんだ!? び、びっくりするだろ! それに、苦しいだろうが!」
「乙女のファーストキスをうけておいて、その言い草かよ! もうちょっとありがたく思えよな!」
そいつが負けじと言い返してくる。
「な、なにがファースト……」
キス? だと?
俺は今こいつと「キス」をしたのか……?
急に、顔がほてりだし、心臓がバクバクする、き、きす、キス……。
あー、だめだ俺、体に力が入らないや……。
そのまま、後ろに倒れこんでしまった。
街路の地面がなんだかまだ生暖かかった。




