第4章 邂逅(2)後編
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ここで少し、話を中断することにする。
これまで語られなかった部分について、そろそろ補足する必要があると考えたからだ。
この世界はいくつかの国家に分かれており、そのうちの一つが、シルヴェリア王国である。
先の領土確定戦によって、互いの国境争いは一旦の終結を見た。その後は各国内政に励み、交易をおこない、共存共栄の道を歩み始めている。
なかでも、ガルシア国王の統べるシルヴェリア王国は、産業の飛躍的進化を背景に交易での利潤もあって、王国国土は繁栄の気流に乗っている。
これが、現在の世界情勢だ。
その世界のすべての生命には、「魔素」というものが秘められており、それこそが生命力の根源といえる。あらゆる生命には多少の違いはあれど、すべて「魔素」が含まれており、それが、体外に放出されることで、死を迎える。
これについて知るものは、いまだ一般の人民には存在していない。
というのも、そもそも「魔素」が限られた人間にしか見ることができないものだからである。
その「魔素」について秘匿し、かつ、研究している機関こそが、エリシア大聖堂である。
エリシア大聖堂は、もともとはエリシア神をまつる聖堂として建立されたといわれているが、現在においてそれは、表向き、建前と言うものになっている。
エリシア大聖堂建立の時期は定かではないが、少なくとも前大聖堂大司祭の代からは、王都と連携して「魔素」の研究と、魔法士の育成を行っている。
つまり、先王ガルシア1世のころには、すでにそのような役割を担っていた。
この事実は、王都と大聖堂の一部の者しか知らない、極秘事項である。
現在おいて、この「魔素」という概念について、世界中の人類に周知することは賢明とは言えない。
なぜなら、先ほども言った通り、一部の限られたものにしかそれを確認するすべがないからである。そのようなものを周知して、理解させることは不可能なことなのだ。
どうしたって、見えるものとそうでないものの間に軋轢が生じ、少数のものが迫害を受けるか、あるいは、少数の者が選民思想をもってしまう恐れがある。
いずれにせよ、戦乱冷めやらぬ時期に公表できるような内容ではない。
現王ガルシア2世は、「見えない側」の人間である。先王もそうであった。
だが、彼ら親子は、それぞれの経験や体験、かかわった人々から、「魔素」というものの存在を実感させられており、事実、目にしてきている。
現実として、剣士ルシアス・ヴォルト・ヴィント、大聖堂大司祭アナスタシア・ロスコート、王国参謀イレーナ・ルイセーズ、そして、メイファレシス・ケルティアン、この4人はその「魔法」の力で、王国の危機を救った。
特に最後の一人、メイファレシス・ケルティアンの魔法はまさに奇跡であった。
彼女は大聖堂三大魔法士のひとりである。
彼女が王子ウィリアムの従者になるまでの詳細は今は省くが、その魔法は傷ついた者を治癒し、敵を焼き払い、味方に超常的な身体能力を付し、敵の魔法を防いだ。
かつて、現ガルシア国王の兄、ウィリアム・ヴォン・ガルシアと、ルシアス、メイファレシス、ダジム・テルドール、そして、現王フェルト・ウェア・ガルシアの5人は、当時の国王ガルシア1世の命を受け、ある任務に従事していた。
そうなのだ。「やつら」の駆逐である。
現在王国の陰でうごめいている「やつら」であるが、初めてその姿を現したのは、いまからさかのぼること25年程前のことである。
ある日、王城の地下にある地下水道内で、衛兵一人が消息を絶つという事件が起きた。
ガルシア1世は、王子ウィリアムとその従者たちにことの真相を探るように命じた。ウィリアムと弟フェルトと3人の従者、ルシアス、メイファレシス、ダジムの計5人は地下水道を探索、ルシアスのその目が「やつら」の痕跡を発見した。
「魔巣」である。
彼らは、果敢にもその中へ飛び込み、魔巣の内部の敵と戦闘を繰り広げた。「魔巣」の階層は、実に、5層にも及んだ。
各階層のコアを破壊しても、魔巣の消滅は起こらず、次々と転移を繰り返した。
戦闘は凄惨を極めたが、メイファレシスの回復魔法と支援魔法が功を奏し、果たして、最後のコアを破壊し、魔巣を消滅させた。
王子ウィリアムはことの次第を父王に伝え、自身の従者たちの特別な能力についてもすべて話した。
ガルシア1世は、とくにメイファレシスの能力とエリシア大聖堂の研究のことに深い関心を寄せ、即日、当時の大聖堂大司祭を呼び寄せ、メイファレシスの能力と「魔素」についての報告を聞いた。
その際、大聖堂には、わずかではあるが「魔法」の才があるものが、他に二人いるということも報告を受けている。アナスタシアとイレーナのことである。
国王はその後、王国中に捜索をさせたが、「魔巣」の発見はおろか、「やつら」がどのようにして現れたのか、もしくは、生み出されたのかについて、結局、皆目見当がつかなかった。
そうこうしているうちに、戦端が開かれた。隣国のレトリアリア王国が南から攻めてきたのだ。
先王とウィリアム王子はこの戦で、残念ながら、命を落とすことになる。
そして、その後の顛末は、先に述べたとおりである。
いや、一つ言い忘れていた。
メイファレシス・ケルティアンのことである。
彼女は、先の「魔巣」駆除において、「魔素」の消耗が激しすぎた。一時期その生命が危ぶまれるところまで来ていた。回復には相当の時間がかかり、レトリアリア王国の侵略の際には、ウィリアム王子とともに戦地には立てなかった。
かくして、王子ウィリアムは戦場に散り、メイファレシスは王都から姿を消した。
そしてこの時から、彼女の魔法の影響力に配慮して、その名は伏せられることになった。
領土確定戦後、王国軍司令を打診されたルシアスはこれを拒否、せめて叙勲は受けてもらわねば、示しがつかないというルトの言葉と立場に配慮して、公爵位を受けるも、所領は拒否し王国お抱え剣士となったのは先に述べた。
次いで、ダジム・テルドールに打診するも、ダジムはメイファレシスを追うと言ってこれも辞退した。
* * *
「そう、そう。あの子の魔法力は人間の枠を超えていたわね」
アリアーデが言った。
「私のところに来たのは、王都から失踪した後だったのね」
彼女が、テルトー村に寄ったとき、私の魔素に気づいてしまったの。で、対峙したというわけ。私はただ眠っていたかっただけだから、ほっといてくれれば何もしないわよと言ったの。彼女は、こう言ったわ。だったら、見逃してあげるけど、そのうち私の仲間があなたと出会うことがあったら、彼らを助けてあげてちょうだいね、って。私の方が断然年上だっていうのに、彼女ったら、ほんとにお姉さんぶって。
あの時の彼女の笑顔を見たら、何も言えなくなってしまったわ。
「……で、その後、ルシアスと運命の出会いをすることになるのよ」
そう言って、アリアーデはルシアスに寄りかかろうとする。
私たちは、つかの間の休息を楽しんでいた
レッド・ジュース・ダイニングのエールジョッキがテーブルに8つほど並んでいる。テーブルの中央には、コッコ鳥のロースト、プレーンオムレツ、紫レタスとトマトのサラダ、ランデル肉のシチューなどが並んでいる。
私は話を聞きながら、先ほどからどうしても確認したいことが一つある。
私の名は、アルバート・テルドールだ。
話中に出てきたダジム・テルドールこそ、私の父だ。
「ルシアス、一つ聞きたいのですが……、その、メイファレシスって、もしかして……」
私は、ためらいながらそっと質問してみる。
「あれ? そう言えば言ってなかったか? お前の母親だよ」




