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容赦無く青春  作者: 宮河 辿
9/28

第9話「イライラするんだよ、お前」

史が久しぶりに1年B組の教室に入ると、一部の男子から視線が一気に集まってきた。自席に近くまで行くと後ろの席に座っている、植草(あたる)もこちらをずっと見ている。史は登校時の勝也の話を思い出しつつも席に着くと、難波や森谷がすぐに近寄ってきた。

「おい史ちゃん寂しかったぜ、植草ちゃんは張り合いがねえからよ、やっぱ史ちゃんじゃなきゃ」

「ちょっとトイレでもいこーぜ、俺ら溜まっちゃってのよ」

難波が史の肩口を引っ張り、椅子から立たせようとすると植草が鼻で笑った「よく言うぜ」「な、なんだこのやろー」たじろぎながらも噛み付いてくる森谷とは目を合わさない。目的は史だ「おい、確かにこんな奴ら相手にするだけ時間の無駄だがよ、こいつらずっと相手にすんのかよ?それこそ本当に時間の無駄だぜ」史は意外な相手から話しかけられ驚いている。「お前が学校に来てくれればさ、こいつら俺に突っかかってこないんだけど、お前また学校来なくなるかも知んねーじゃん?だからさ、そうなったら俺がまた困るんだよ」頭の中に(あたる)の言葉がやっと頭に入ってきた「お前に来たらお前がなんとかすりゃいいだろ。俺には関係ねえよ。」

それを聞いて(あたる)のテンションがガラッと変わったことが史にもわかった。

「見ててイライラすんだよお前」

「?」

「ぎゃははっ喧嘩すんなよお前ら」

空気が読み切れない難波が間に入ると、それはそれは火に油。

「うるせーよ、オメーら見てーに後先考えてねえ頭の悪い奴らには分かんねかもしんねーけど、我慢してやってたんぞ、今は。でもそれも限界あるからその辺よく覚えとけよ。今度はその顔に寸止めじゃなく肘までめり込ますからな」

勢いにすっかり押されている難波たちは、立ち去る(あたる)を止める事も出来ず道を譲った。そして難波たちのイライラは(あたる)が教室を出て行ってから遅れてやって来る、その矛先はやはり史。


「うわーまた派手にやれたな~。好きだねお前も」

体育館裏でシャツを脱いで勝也にアザを見せている史、それはついさっき出来たものからもう治りかけの古いものまで幾種類もある。

新しいアザを作った原因とも言える植草のことについて、史は勝也に八つ当たるように聞いた。「なあ、あいつお前になんて言ったんだよ」

「だから自分で聞けって」

「そんな雰囲気じゃねえんだよ、なんか知らねーけど怒っててよ、俺のこと、みててイライラするって…つーか、あいつ結構喋るんだな意外と…」

「ハハッ…!それ俺も思ったわ」

「そっちじゃなくよ!」

「…しょうがーねなぁ、じゃ教えてやるよ。あいつお前にイライラしてんだとよ」

「だからそれはさっき直接聞いたよ!」

しつこさに少しうんざりしている史の表情を見ると、勝也は急にすこ真面目な顔をして話し始めた。

「おまえよ、あの藤森ってやつに俺のことで”なんであそこまでやったんだ”って詰め寄ったらしいじゃねえか。それ見てあの植草ってやつ”なんでこいつは他人にそこまで肩入れするんだ?”って思ったらしくてよ。俺んとこ来て”友達でもなんでもないんだろお前ら?”って、そう聞いてきたんだよ」

「それは…」

「お前がなんで赤の他人にそこまで肩入れするのか、それとあいつらにヤラレっぱなしでなんで我慢し続けんのか、お前の積極的なのかそうじゃないのか分かんねえ行動見てたらイライラしてきて俺の病室まで来ちまったってよ……でもそれならなんで俺んとこなんだっつー話だよな!松本のことでわかんねえなら松本んとこ行けよって思ったよ。まあそりゃあいつが帰ってから気づいたんだけどよ」

「それは…」

「お前が我慢し続ける理由はお前から散々聞かされたから教えておいてやったよ。でもよ、植草の言ったもう一個の”赤の他人になんでそこまで?”ってやつはおれも正直不思議でよ」

「それは…よ」

「”よ”しか増えてねーよ」

「…う、うるせーよ」

たじろぐ史を見て勝也が少し安心したように続ける「昔からよ、俺になんてだれも近寄ろうとしなかった。服だって同じもんばっかり着てるしよ、ボロだし、ちょっと臭うしよ。ましてやおせっかい焼いてくるやつなんていなかった。なあ、なんでだ?」

史は面と向かって真面目な質問をしてくる勝也に驚いた。そしてこんなに正々堂々と自分の事をさらけ出し、自分の事を下げて言うことで質問に答えやすいようにしてくれている勝也を少し年上に感じた。

それまで「それは…」としか言えなかった史も、今感じていることをやっと言葉にしようとする。

「俺も…誰も近寄ってこなかったから…藤森たちのことは周りも見て見ぬ振りだし、だったら一人でいいって。だからお前に関わって行ったのは…うーん…でも、それはやっぱりわかんねえ…」

史は”お前を見てどこか自分と同じだと思ったから”という言葉を飲み込んだ。さすがにそれは恥ずかしく、言葉として輪郭もボヤけていて。そして何より怖かった。

「なんだそりゃ」

勝也は鼻で笑ってはいるが、とりあえず史が自分の事を喋ってくれたことで満足しているようだ。

「まあいいや!でもおれも植草と一緒で”お前が我慢し続けるのが正しいのかどうか”には賛成しかねるぜ。前も言ったけどよ」

「だから、それは…」

「なんか、うまく言えねえけどよ負けてる気がしねえか?環境に」

「は?」

「だからよ、お前みたいにイジメられてる環境とかよ、俺みたいに貧乏なこととかよ」

勝也はここでは父のことについては触れなかった。史は病室で家庭内暴力のことを立ち聞きしてからそのことを知っていたが黙って勝也の話を聞いた。

「どっかの誰かが与えた環境なんだろうけど、そんなもんにいいように負けちまうのはそいつの思った通りになってるってことだと思わねーか?そんなのシャクじゃねえか?おれは前にも言ったけどそんなやつの思ったとおりにはさせねえ。そんなのぶっ壊してやる」

「なんだよ、それ…。神とか運命のこととかの話してんのか?」

「うるせえな!知らねえよ!そんなこと!バカ!…でもお前だって考えたことあんだろ?”なんで自分が、なんで俺ばっかり”って。俺はそんな元から決まってるもんとか、”なんで俺ばっかり”って考えてる自分が嫌いでしょーがねんだ!だから抵抗するんだよ(うまくいえねーけどよ…クソッ!)」

「おまえ、藤森と入学早々喧嘩してたのも、家のこと言われてか?」

「そうだよ、あの野郎俺の格好見てからかうだけならまだしも、見たこともねえのに…”俺の親はきっと…どうだ”とかでけえ声でうるせえからよ」

勝也は少し押し黙ったが続ける。

「二年の突っかかってきてる連中だってこのまま無視じゃ収まんねえぜ」

「…」

「あ、そういえばよ、お前が気にしてた”藤森ってやつがどうしてあそこまで”ってやつな、あいつ龍新會っていう先輩方のご命令でやったらしいぜ。植草のやつが言ってたわ」

(そうか藤森のやつやっぱり単純に上級生にビビってたのか…あいつ俺みてーな単体には目には目をなのに……てかあいつ植草、人に散々イライラしておいて自分だっておせっかい焼いてんじゃねーか)

「おい松本。こんなの報復するほどのことでもねーけど…ヤラレっぱなしは嫌だし、俺は。…だからお前も…あれ?なんの話だっけこれ?」

「なんだそりゃ」

勝也は最後ごまかしたが、史には言いたいことは十分伝わっていた。そして藤森が近藤を襲った理由を聞いて「藤森・難波・森谷」という小さな世界に囚われている自分がバカらしくなった。そしてそんな「他人に操られ報復した人間」に従い続けた自分が同時に情けなくなった。中学に上がり、環境が変わることで人間の勢力図のようなものも大きく変わったことにやっと気がついた。


(今いるその小さな世界から飛び出すためにまずは抵抗から始める)


史は心の中ではっきりとつぶやくことでこれから自分の取るべき行動に照準を合わせ、それを口にも出して提案者に伝えた。

「俺も賛成だよ」

「?…何の話?」


体育館の二階からそんな二人の様子を見ている影がある。

「俺らもう退学リーチかかってるからよ、ここは、また新人の藤森くんに一肌脱いでもらおうや」

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