被験体番号013(pelmanism)
健康最高!
《かなり久しぶりの外だ》
そう言って二ーファさんは外へ出た。
といっても下半身は人間の脚とは異なる形をしてるから歩けはしない。
二ーファさんは糸を上手に使い、壁に張り付きながら移動する。
「...意外と行けそうですね」
『これ痛いしキツイんだよ』
「あれ?声が...」
『あぁ、これが地声。水中で喋っても聞こえないから、あの中じゃマイク使って部屋のスピーカーから音出してた。』
「...あぁ、な、なるほど」
初めて聞く二ーファさんの声は、声と呼ぶには少し悲惨で、ハスキーやロボットなんかとはまた別の、形容しがたい声だった。
『酷い声だろ?』
「え?」
『顔に出てる』
やばい、僕すごく失礼じゃん。
『しかたない、なんせ実験の時に弄られ過ぎたからな。』
二ーファさんはマーメイドの被験体、声帯を弄られるのは当然の事だろう。
『まあ待ってろ、マイクの外用を使う』
そう言って二ーファさんは新しいガスマスクを糸で取る。
そして今着けてるガスマスクを取った時に、一瞬だけ見えた二ーファさんの顔は...
過去にいったいどんな実験が行われていたのかが語らずとも分かる程だった。
裂けた口、機械仕掛けの瞳、変色した頬
顔だけでこれだけ分かるのも珍しいが、もっと言うなら体だって酷い。
あれからずっと二ーファさんを見ていたから分かる。
この人は、本当に苦労したんだと。
「そんなにジロジロ見んなよ変態」
「ふぇっ!あ、すみません...」
声が今まで聞いてた声と同じ聞きやすい声になった。
やっぱり、失礼だったよね...
見せたくない体をジロジロ見られるなんて...
「声出てるぞ」
「うそ!!?」
「ガチ」
あれ?僕想ったこと声に出るタイプだっけ?
「まあ見られる分には構わない。」
「ほ、本当に?」
「あぁ、むしろ...
見られたい?」
あれ?
二ーファさんって変態さん?
「出てるって」
「...ご、ごめんなさい」
「そんなことより、早く外に出ようぜ?これ辛いんだから」
「...は、はい!」
ガチャ...
扉を開けると、いつもと少しだけ違う雰囲気を感じた。
建物が壊れてるのは前からではあったけど、今はその建物に被験体がめり込んでたり、そのまま全壊したりしている。
二ーファさんの部屋だけは相変わらず無事、何で大丈夫なんだろう。
「酷いな、これは。モルが暴れたにしてもやり過ぎじゃないか?」
「...二ーファさんは、モルさんが犯人だと本当に思ってるんですか?」
「たかが3日一緒に居たくらいでそんな信頼関係出来るわけないだろ、ましてやアイツはほとんど部屋に居なかったわけだし。」
「...僕とモルさんが出会ったのは4日前です。」
「たったそんだけの時間でよく信じようと思ったな」
...何も言い返せない。
僕は本当に弱いんだ、何も出来ない、役立たず。
けど、僕はどうしてもモルさんを信じたい。
僕を必要としてくれた人...だから...
「...なんだあれ?被験体?」
そう言った二ーファさんの目線を辿ると、1人の被験体が片っ端から殺戮兵器を薙ぎ倒してるのが見えた。
「...やっぱりモルじゃないか?」
「けど、モルさんにしては、ちょっと小さくないですか?」
「遠目でよくわからない、近寄るぞ」
そう言って、二ーファさんは瓦礫などに糸を伸ばし、蜘蛛のように移動する。
僕もあわてて二ーファさんのあとを追う。
暴れてる被験体にある程度近づくと、姿がはっきり見えるようになってきた。
赤い髪に青い服、良かった、モルさんじゃない。
けど、その被験体の奥に、モルさんが見えた。
被験体が二人、ジッ...っとにらみ合っている。
「...やめて下さい、これ以上の被害は出来れば控えていただきたい」
「だからお前が私の言う事を素直に従っていればこんな事にはならなかったんだ」
二人は何やら会話をしてる。
この区画の被害の原因は赤い被験体の子で間違いないみたいだ。
「貴女の言葉は理解に苦しむ」
「私だって理解出来てない、無理やりそうするように言われただけなんだから。」
「だから理解に苦しむのです、なぜそんな理由のわからない依頼を受けたのですか?」
「いろいろあったんだよ、いいから言う事聞け!」
赤い被験体の子が手に持った何かをモルさんに向けて一振りする。
軌道の残るその一振りは、触れた物全てに影響を与えた。
石は砕け、建物は崩れ、被験体達が悲鳴を上げた。
「モルが原因でもありそうだな、何にせよあの被験体を止めなければいけないようだな。」
「...な、何あれ、たったの一振りであんなに。」
「止まってる暇はないぞ、お前も手伝え、居候」
「え、ええええぇぇ!!!」
いい出汁だ!!




