第三章「衝撃の事実、残酷な詞(ことば)」第一節
楓が任務から帰ると本部の一部が静まり返った。たくさんの視線が突き刺さる。何かの探りを入れているみたいな感じだった。
他チームからの反応に違和感しかなかった。今までにない空気である。楓とていくつもの戦場を駆け抜けてきたのだ。
敏感にはなっていた。
――何があった?
会議室全体を見渡した。
すると、蓮と葵と目が合う。
任務以外の二人は比較的穏やかだった。このような強張った表情は珍しい。
「どうかしましたか? 桐原班長、長谷副班長」
楓は問いかける。
おそらく、緊急事態で間違いないだろう。
「お前に見てほしいものがある」
「見てほしいもの?」
スクリーンに一枚の写真が映し出される。大人になった弥生が写っていた。アンドロイド特有の虚ろな眼差しに、首筋にはところどころ赤い花が咲いている。
それでも、間違いない。
姉の弥生だった。
しかも、敵として生きていた。
性処理班として扱われていた。
そんな扱いを受けているなんて、思ってもいなかった。
予想していなかった。
蓮と葵以外の皆は動揺をしていた。情報班が見つけてきた事実だと悟る。
悟ってしまった。
喉がカラカラに乾いている。
喉元が引き攣った。
沢田弥生
十歳の時にアンドロイド育成施設に入所。
現在、最高クラスの幹部に昇進。
森川大和の支配下にある。
アンドロイドとして生きている以上、人間に戻るには難しい部分がある。
楓と弥生は五歳違いの姉弟だった。戦争で楓は生き残って、弥生は生涯を終えた。ずっと、そう思っていた。
――馬鹿な。
――今更になってなぜ?
否定をしてほしくて葵と蓮を見た。
「嘘ですよね? 桐原班長、長谷副所長」
現実だと分かっている。嘘ではないと理解はしていた。気持ちが追いついていかない。待っていたのは最悪の情報だった。
生きているかもしれない。
幸せに暮らしているかもしれない。
どこかで、笑って家庭を作っているかもしれなかった。
淡い祈りは届かなかった。
儚く散っていった。
そんな思いは砕け散った。
「調べてみた結果だ」
「僕が殺したとでも言いたいのですか? 見殺しにしたとでも言いたいのですか?」
「桐原副隊長を責めるつもりはありません」
「聞きたくありません」
「お前の手で弥生さんを『人』に戻せないか? 家族の楓ならできる」
「綺麗事だけで何ができますか? 何が守れますか?」
信じていた。
信じていたのに。
背中を預けられると思っていた。裏切られた気分だった。
突き放された。
「桐原副班長」
「任務に影響がでるのなら、僕をチームから外してください」
「落ち着け」
「中途半端な人間はいない方がいいでしょう?」
楓は渡されていた身分証とナイフを、蓮に押し付けた。武器を持っておかなければ、いつアンドロイドと遭遇するのかが予期できない。
戦いになる可能性もある。
相手は殺戮マシーンであって、こちらは武器がないと何もできない人間である。生きるか死ぬかの瀬戸儀でもあった。
『お前の手で弥生さんを「人」に戻せないか? 家族の楓ならできる』
連の言葉は正しい。
まずは、この場所から逃げ出したかった。何も聞きたくなかった。
話をしたくなかった。
「待て、楓!」
「一人にさせてください」
心から戦争が憎いと思った。
思わずにはいられなかった。
居場所を失ってしまったのである。楓は走り出していた。




