「動き出す影、揺らめく闇」第三節
「ここで何をしている?」
屋上で寝転んでいると、人が近づいてくる気配がした。この男性――田川冬樹は、アンドロイド研究所の副所長を務めていた。時期、所長候補と騒がれているが、どうなのかは興味もない。
大和が総合判断をしてきめるだろう。戦闘力としては大和、弥生、冬樹の順番だった。そのことが気に食わないのか、弥生と大和と衝突する場合もある。何度か、順位入れ替え戦をしたが二人には勝てなかった。
なぜ、順列の低い冬樹がここまでのし上がって来られたのか。
元々、冬樹は有名大学の薬学部出身だった。薬には詳しいからである。卒業後、大和のスカウトされたのだ。失敗と研究を重ねて、出来上がった薬を投与したところ、弥生に適合したのである。これからは、アンドロイドを大量生産できるはずである。
「二人が手を組んで研究所を支配しようとしていると聞いたが?」
その中で、大和に体を求められたら応じるのみだった。手段として体を差しだしたのである。汚く見られるかもしれない。雇はただ、じぶんの居場所を確保しているだけである。大和と冬樹が好きだとかどうでもよかった。
心の底から冷めきっている。
それに、仮に上司が代わったとしても、やるべきことをやるだけだった。それ以上でもそれ以下でもない。
「その噂を信じているのですか?」
馬鹿らしいと、吐き捨てる。
「実際はどうだろうな?」
――副所長に試されている。
弥生の視線には強さがあった。圧倒的に威圧感があった。その視線だけで人を一人殺せそうである。弥生はそう囁き始められていた。
「合格点だ。さすが所長が選んだ女だけある」
「戯言を言わないでください」
「行動力と判断力も問題はない」
「やめてください。田川副所長に褒めてもらなんて気持ちが悪い」
「それは失礼した」
「思ってもいない謝罪なんていりません
「相変わらず手厳しいな」
弥生の唇を奪う。
反射的に腕をひっかいた。
痛みにうめいている間に、腕の中から抜け出す。パシリと何かを叩く音がした。弥生が冬樹の頬をひっぱたいたのだ。
「男だと誰でもよかったのだろう?」」
「勘違いをしないでください。私の体は私のものです」
「幾度となく所長に抱かれているくせに?」
「少なくともあなたよりも、利用価値はあると判断したのでしょうね」
青灰色の瞳が煌めく。
明らかに挑発されていた。
「本当に家族のことを覚えていないのか?」
「愚問ですね。私が家族を覚えていたどうなのですか? 私は任せられた仕事を実行するだけです」
「その覚悟を見せてもらおう」
「私に覚悟がないとでも言いたそうですね?」
「いや――君がこの戦いに、どれだけ力を注いでいるかは知っている」
「それなら、黙っていてください。私たちの新世界が始まる」
太陽が沈んでいく。
空が夕焼けに染まっていく。
――理想を叶えるために負けるわけにはいかない。
生き残るのは人間か?
それとも、人工的に作られたアンドロイドか?
お互いの運命をかけた戦いが始まろうとしていた。




