表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

「動き出す影、揺らめく闇」第二節

 それから、十日の日にちが流れた。


「目覚めろ、弥生」


 弥生がバイオ水槽の中で、再び目を覚ました。楓と同じ青灰色の瞳がゆるり、とアンドロイド研究所所長の森川大和を見る。研究員たちが弥生をバイオ水槽から出す。


 最後の仕上げでもあった。


「マスター」

「私のことは大和と呼べ」


「かしこまりました。大和」


 弥生は膝まずく。


 その姿は洗礼されていた。かつての活発な少女の面影は、そこにはなかった。


「家族を覚えているか?」

「いいえ、全く。それがどうしましたか?」


 弥生の癖のない髪をさらり、とすく。


 話は十年後へと戻っていく。


「おい……サンプルが不足しているぞ」

「用意をしていますが足りません」


 交わされる研究員たちと、毎日繰り返される実験の日々が続いていた。人間からアンドロイドへと変えていく実験は、止まらず進められている。


 実験で次々と亡くなっていく、子どもたちの姿があった。実験に使われている子どもたちは、家にも学校にも居場所がない物が選ばれていた。


 誰にも愛されない子たちである。弥生もそういった認識でいた。


「手ごたえがあるものだと思っていた。人間の命なんて脆いものね」

「弥生」


 いつの間にか、大和が隣に立っていた。一見、穏やかそうに見える。使えない者は切り捨てていく性格だった。


 周囲にも恐れられていた。


 それが、弥生から見た大和の評価だった。


「大和自ら研究を見に来るとは珍しいですね。どうかしましたか? 実験の計画に変更でも?」


 アンドロイド研究所設立は、大和の悲願だと聞いていた。説明すら全部聞いていない。弥生も聞き流していた。いちいち、聞いてなどいられない。


「実験自体に変更はない。弥生。お前が来て十年になるよな?」

「そうなりますね」


「私と一緒に戦うつもりはないか?」

「私が?」


「自信がないのか?」

「自信はあります」

 

 そのために、厳しい訓練にも耐えてきた。耐え抜いてきた。戦いたい。戦って勝ちたい。アンドロイドとして生み出された者の本能だった。選抜として選ばれるのは名誉でもあった。人間を滅ぼし、アンドロイドが日本を支配する。


 破滅するのは人間だ。

 アンドロイドではない。


「お願いします」

「その貪欲さが弥生らしいな」


 弥生も貪欲さの自覚はあった。湧き上がってくる要求を抑えられない。


 ――ふふ。

 ――人間たちの歪む顔が早く見たい。


 ――木っ端みじんにしてあげる。

 ――力でねじ伏せてあげるわ。


 ――私たちが正しいのだと教えてあげる。


 妖艶な笑みを浮かべる。


 誘うために甘い蜜を滴らせていた。密で相手を誘って、一突きで逝かせる。まさに、「悪女」と呼ぶにふさわしかった。


「それは、大和も同じでしょう?」

「私とお前は同類だな」


 「悪女」の部分を含めて大和に一人前のアンドロイドとして、認められた。普通に会話をしているが、二人の間に絆はない。必要最低限の会話をするだけだった。


 それだけで、十分である。


 弥生の方は失敗すれば、いつ殺さるのか分からない。殺伐とした中で勝ち残ってきた。勝ち抜いてきた。お互いを探りながら、研究と実験を重ねてきたのである。


「私は負けません」


 弥生には確信があった。


「その言葉を信じているからな」

「大和から信じるとの言葉が出てくるとは思っていませんでした」


「頼んだぞ」

「ええ。お任せください」


 大和が出て行くのを横目で見ながら、放置していた資料に目を通す。


 桐原楓

 大手有名企業――桐原コーポレーションの養子となる。

 現在はアンドロイド対策部隊・桐原藩の第二副隊長を務める。


 資料には楓の名前が載っている。部隊の弱点も手に入れたかったが、警察のセキュリティも厳しい。簡単に詳しい情報は手に入らなかった。

 

 部隊にもそれなりにパソコンに、特化した人間が在籍をしているのだろう。だが、邪魔になるなら殺すだけだった。邪魔者はこの手で、消し去るのみである。


 ――生きていられると思わないで。


 瞳を細める。


 持っていたワイングラスを握りしめた。紅い液体が滴り落ちていく。床に落ちていく液体は『血』を連想させた。


 暗さを引き立たせる。


「勝つのは我々アンドロイドだわ。人間ごときに負けるわけがない」


 呟いた言葉は部屋に広がっていく。復讐の幕が上がろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ