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第一章「遠い未来、失った過去」第一節

 ――まだ、仲間がいたのか?

 ――しつこいな。


 あまりやらないミスに、楓はナイフを放った。次々と敵のアンドロイドを倒していく。持っているナイフも普通の物とは違っていた。選抜された者だけが使える対アンドロイド用の特殊なナイフである。


 体の軽さを利用して切り裂いていく。


「ひっ……助けてくれ」

「あなたたちを狩るための対策本部の物に助けを求めるなんて間違っていませんか?」


 死にたくないと逃げ惑うアンドロイドを、追い詰めていく。人間とアンドロイドの見分け方は、表所にある。入隊し学んだからこそ見抜けるのである。


 引き攣った笑顔も人間にはない不自然なものだった。張り付けた笑顔が気持ち悪い。どれだけ、人間らしく振舞っていても、所詮機械人形でしかない。


 作られた命でしかない。


 当初は家庭用ロボットとして普及していった。それを、科学者たちが改良して、戦争兵器として形を変化してさせていく。


 今でも、新しい世界を展開しようとしているアンドロイドと、人間との衝突が止む気配はない。お互いの激戦が続いていた。


 だから、こうして敵として戦っている。戦うしか道はなかった。


「何もしない! 約束するから!」


 アンドロイドの言葉に確信はない。ふとした瞬間に牙を抜く。歯向かってくる。楓はさめた瞳でそれを、見つめていた。


「そのセリフ、聞き飽きました」


 何回も聞いてきた言葉である。アンドロイドを信用するほど、楓は落ちぶれていない。レベルが低い相手でも、受け入れてしまえば、

自爆に巻き込まれる可能性がある。


 今度こそ失敗は許されない。迷わずナイフでアンドロイドの体を一突きした。アンドロイドが崩壊していく。


 あっけなく勝負はついた。


 あと、何体アンドロイドを葬れるのだろうか。

 殺されるのだろうか。


 もしくは、心が完全に崩れてしまうのが先なのだろうか。


 それは、誰にも分からなかった。ナイフを武器箱に片づける。事切れたアンドロイドを見ようともしない。携帯端末を操作していく。軽いノイズが走って蓮の顔が映し出された。


 『家族』とはいえ仕事中は「上司」と「部下」である。割り切ってプライベートを押し出すつもりはない。


 お互い無表情で向き合った。


『お疲れ様です。体調。無事に任務を終了しました。今から、帰還します』

「さすがに早いな。こちらで、処理班を回しておく」


『お願いします』


 事務的な会話をして携帯端末を切る。しまうと首にかけているネックレスを手に取る。中には沢田家全員で撮影した写真が入っていた。撮影された家は血痕がひどく取り壊されたと聞いている。


 持ち物もほとんど残っていない。この写真はある箱の鍵とともに、残された唯一の形見でもあった。楓にとって大切な物だった。


 前触れもなくネックレスが切れる。カランと乾いた音がして、コンクリートに転がった。


 手を伸ばしが遅かった。

 淡い色彩の瞳が揺れる。


 アンドロイドとの戦闘中には決して、見せなかった動揺だった。


 弱気な眼差しだった。


 ――嫌な予感がする。


 胸騒ぎが消えない。

 落ち着かない。

 

 ざわざわと心がざわついている。まるで、何かを警告しているみたいだった。忠告をしているみたいだった。


 心がキリキリと痛む。

 古傷が痛む。


 修復できていない傷口が開いたのだ。

 はっ、はっと荒い呼吸をする。


 膝から崩れ落ちた。


 ――息が。

 ――息を吸えない。


 ――呼吸ができない。


 体の芯から冷えていく。

 掠れた音しか出ない。

 

 そういえば、入隊日に主治医から酸素吸入器を貰っていた。貰っていて正解でもあった。震える手でポケットを探る。酸素吸入器を取り出した。キャップをはずして、口をふさぐ。


 酸素を吹き込んだ。

 

 落ち着くまで道の端に座り込む。ようやく、全身に酸素が回っていく。

 

 過去の記憶とともに、いつか、この思いが消える日が来るのだろうか。

 昇華できる日が来るのだろうか。


 ひんやりとした空気に空を見上げた。吐く息も白い。見上げた空も重く暗いものである。やがて、粉雪が降り始めた。ふわふわと舞って、隊服に染み込んでいく。


 体温で溶けていく。

 真っ白い雪に都は再び凍り付く。どんどん、降る雪の粒は大きくなっていった。


 ――雪なんてなくなればいいのに。

 ――消えてしまえばいいのに。


 ――何もかも消し去ってくれればいいのに。


 忘れるはずがない。

 忘れるなんてできなかった。


 家族を失って初めて迎えた誕生日も雪が降っていた。



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