「崩れた平和、傷ついた心」第三節
『ここでニュースをお伝えします。昨日、午後六時頃都内で家族三人が殺される事件がありました。被害者は警察官の沢田孝則さん、妻の朱音さん、娘の弥生さん。また、五歳の楓君は警察に保護されていて、アンドロイドの襲撃を受けたのもだと考えられます』
「もう報道されているのね。不愉快だわ」
被害者が子どもであっても、マスコミは容赦しない。こうして、人の心を傷つけているのに、気付いていない。
これから、楓を家族に迎えようかと、大切な時期に報道されたのだから。
楓を守りたいとの意識からである。怒りのベクトルは大きかった。
「ニュースを見なくても、現状は知っているだろう?」
室内はテレビと洋服ダンスが置かれている。あとは、パソコンと食卓と必要最低限の家具が並べてあるだけだった。でも、蓮は今の暮らしと生活に満足している。
何の不満もなかった。
だから、こうして普通に生活をしている。
「戦争はいつまで続くのかな?」
蓮と話をしていて、葵が敬語でないのは、完全なプライベートだからだった。仕事になれば敬語に切り替わる。
副隊長の顔つきになる。
頭の切り替えの早さは、誰もが目を見張るものがあった。葵とは高校の同級生である。高校一年の夏、部活の弓道部で知り合った。
その後、葵が遠くに引っ越しため、ラインではやり取りはしていたが、アンドロイド対策特殊警察部隊入隊後に、再会を果たした。
運命なのか同じ部隊に配属されたのである。葵の隣は心地よく、素顔をさらけ出せる相手でもあった。それから、お互いが引き寄せられて、付き合い始めたのである。
誰にも取られたくない。
葵にプロポーズをしたのである。
「それを、終わらせるのが俺たちの仕事だろう?」
「そうね」
これ以上、被害者を出さないためだった。大切な人を守るためである。傷ついても勝利をするには戦うしか方法はない。
茨の道を進むしかない。
周囲から冷たい視線を向けられてもよかった。あの小さな命を手放したくなかった。
見捨てたくなかった。蓮はオートバイの鍵とヘルメットを手に取る。
「どこに行くの?」
「あの子のところに行って来る」
あの子とは、保護をした楓である。仕事の隙間に病院へと通っていた。先日、主治医からは危険な水域を抜けたと、報告を受けたばっかりだった。
子ども特有の無邪気な笑い声は聞こえない。出会った時の楓の無機質な瞳は今でも覚えている。戦ったアンドロイドが予想以上に強かった。
時間を取ってしまった。
自分たちがもう少し早く倒しておけば、朱音と孝則、弥生は殺されなかった。楓が傷つかなくてもよかったのである。それが、蓮と葵にとって心残りでもあった。
「心配だし、私も行くわ」
蓮を見て葵も立ち上がった。
「葵は先に行っておいてくれ。楓君に負担をかけるわけにはいかないだろう?」
「分かったわ。その代わり、今度ショッピングに連れて行ってもらうからね」
「それぐらい、お安い御用です――お嬢様」
「蓮」
「ん?」
「楓君のためにも、沢田夫妻のためにも必ず勝とうね」
葵と蓮は拳をぶつけた。




