「刻む時間、希望の鐘」第二節
楓は蓮さん、とギュと服を掴んだ。意思表示がはっきりしていていた。こうしたリアクションが増えてきている。いい傾向であることは確かだった。
「話を聞こうか?」
「皆の墓参りが行きたいです」
小さく呟く。
本当はいっていいものか迷った。
けれど、本音が零れ落ちてしまった。しまっと、と口をふさぐ。
実の家族に会いに行きたいだなんて。
いつまで、こだわっているのだろうか。
どこまで自分勝手なのであろうか。
傲慢なのだろうか。
甘えてはいけない。
――僕は我儘な人間だ。
蓮だって嫌なはずだ。
今の家族は蓮たちなのだから。
「沢田楓」ではなく「桐原楓」なのだから。
家族としての関係を構築している中で、我儘を言ってはいけない。我慢をしなければならない。そうしないと、現状と輪を乱してしまう。
言葉は刃になる時もある。抜けない棘になる。だからこそ、慎重になるべきだった。言葉を選ばなければならなかった。築き上げてきたものが一瞬で壊れてしまう。
砂の塔みたいに崩れてしまう。
中心部から壊れていく怖さ。
恐ろしさ。
その怖さと恐ろしさを楓は知っている。唇を噛みしめた。
蓮はどのような反応を見せるのだろうか。
ドクン、ドクンと心臓が激しくなった。連にも聞こえてしまいそうだった。
――気にしていない?
――気分を悪くしたりしない?
――もし、ダメだと言われたら?
そんな思いがグルグルと回る。上目遣いで蓮を見た。
「いいよ。体が回復したら行っておいで」
青灰色の瞳が見開かれた。
予想外の回答だった。
「いいのでしょうか?」
「楓の実の家族じゃないか。逆に何でダメだと思った?」
「僕の我儘が皆の輪を乱してしまうと思いました。取り返しがつかなくなるのは嫌です」
――だって、取り返しがつかなくなのるは簡単でしょう?
手のひらからすり抜けていくのは簡単だった。だから、他の人は立ち去っていく。支えきれずに脱落していく。脱落をしなかったのは蓮と葵ぐらいだ。
根気よく付き合ってくれた。
「それだけじゃないだろう? 俺は楓が「いい子」を演じていたのを知っていたよ」
――知っていた?
ぶわり、と全身から畔が吹き出す。
――止まって。
――お願いだから止まってよ。
闇の部分を知られてしまった。
暴かれてしまった。
――今度こそ怒られる。
――嫌われる。
覚悟をするしかなかった。
余計なことを考えて弱気になってしまう。強気には出られなかった。仄かな石鹸の香りが鼻をくすぐる。
連に抱きしめられていた。
感情の波が引いていく。
「蓮さん?」
「「楓」は「楓」のままでいてくれ。戦っている時の強さも弱さもひっくるめての「楓」だと思っている。俺たちの前では偽るな。今みたいな素を出してくれ」
「ずるい、蓮さんと葵さんはずるい。僕にいつもほしい言葉をくれる。でも、蓮さん。僕は蓮さんに対して怒っています」
落ち着いた頃に出てきたのは怒りだった。怒りに満ちている。瞳が蓮を射抜く。
「俺に?」
「だって、僕より先にブラッディ・ルージュを取ったのは蓮さん。手紙を読んだのだって蓮さんじゃないですか」
普通、僕をおいていく? いくら、格好をつけても蓮さんは蓮さんだからと吐き捨てる。
皮肉めいた言い回しだった。
嫌がらせでドン、と胸を叩く。
ピクリともしない。
悔しくてもう一度叩いた。
「悪かった。悪かったよ。だから、機嫌を直してくれ」
「僕は――」
あなたたちと一緒にいたい。
ずっと、ずっと家族でいたい。
笑っていたい。
――それぐらい高望みをしてもいいよね?
それは声にはならなかった。
疲れたのか眠くて仕方がない。
瞳がトロンとしてくる。
まだ、話をしていたかった。
物足りない。
それに、蓮はあそこまで言ってくれたのだ。
何かを返さなければいけなかった。
――もっと、言いたいことあるのに。
――蓮さんと葵さんに追いつきたいのに。
どうしたら、二人に追いつけるのだろうか。
追い越せるのだろうか。
そんなことを考えながら眠りにつくのを抗う。ついに、体の力が抜けた。意識が遠ざかっていく。瞼が落ちていった。最後に感じたのは蓮の体温だった。




