最終章「刻む時間(とき)、希望の鐘」第一節
『蓮か?』
<はい>
蓮は悟の低い声に意識を張り詰めた。携帯端末を握りしめる。携帯端末が軋む音がした。久しぶりの親子対面となる。アンドロイド戦争中も仕事をしていた。
仕事をする姿を見せて悟なりに家族を、援護していたと考えられる。数分間の沈黙が続く。沈黙を破ったのは蓮だった。
<楓ですが回復までまだ時間がかかりそうです>
『そうか。今、話をしても大丈夫か?』
<平気です>
いつもと雰囲気が違う気がする。戸惑いと困惑を隠しきれていない。蓮に素直な気持ちを吐き出そうとしていた。悟から逃げるつもりはなかった。
<私との契約を覚えているか?>
『ええ。覚えています』
不意にその時のやり取りを思い出した。楓を引き取って間もない頃である。
「蓮。忘れるなよ。お前はこの会社の跡取りだ」
「心得ています。代わりに猶予をください」
「猶予だと?」
「一つ目は情勢が落ち着くまで時間をください」
瞳が挑発的は光を宿した。蓮が悟に突きつけた挑戦状でもある。
「二つ目。楓は自由にさせてあげてください。三つ目。この女性との結婚を認めてください」
葵の書類を差し出した。
中には身辺調査が入っている。
葵自身、一般家庭の出身でもあって悪い噂は聞かない。
「もちろん。戦争が終結してからの話になります」
「いいだろう。契約成立だ」
電波が悪いのか携帯端末のノイズで現実に復帰する。過去に囚われる必要なんてない。
<あの契約の話はなしだ>
『弱音を吐くなんてあなたらしくない。契約を自ら破棄するおつもりですか?』
<お前たちにはなにをしてやれなかった。せめてもの罪滅ぼしだ>
『今後、楓とはどう付き合っていくおつもりですか?』
<接するも何もないだろうあ。楓には何もしてやれなくて悪かったと伝えておいてくれ>
『謝罪なら楓の直接言ってください』
<今更、会わせる顔がない>
『楓もそう思っていると思います』
<どうして言い切れる?>
『家族として壊れるところまではいっていないと私は考えています』
<戦場を駆け抜けたお前が言うなら正しいのだろうな>
二人とも不器用なだけなのだと蓮は思う。少しずつ会話をして話せればよかった。
『父親なら楓を認めてあげてください』
<私が楓から逃げていると?>
『今なら家族としての修復です』
家族としての絆が完全に途切れたわけではなかった。新しく築き上げていけばよかった。何度でも結び直せる。ここから、新しい関係が始まっていくのだ。
<楓は私を受け入れてとくれると?>
『ただ。素直になれないだけでしょう』
<そうか。そうだな。葵さんはどうしている?>
『元気に仕事をしています』
<今度連れて来い>
『それは、私と葵の結婚を認めてくれたと受け取っていいのでしょうか?』
<お前の人生だ。好きにしろ。私は仕事に戻る>
ぶつり、と携帯端末が切れる。
――困った親だ。
――でも、前には進めたかな。
携帯端末をしまうと溜息をついた。




