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「再会、最後の詩」第五節

「自爆したのね」

 

 炎を赤い色が夜空を染めていった。葵は不謹慎ながらもそれすら美しいと思ってしまう。神秘的だとおもってしまう。待機していた消防隊が一斉に消化を開始する。眺めていると楓が戻ってきていた。

 

 フラフラの体を支える。


「よく帰ってきたわね」

「帰ってくると約束しましたから」


「楓はよくやってくれたわ」


 葵の抱きしめてくれる腕に体を預ける。やはり、精神的にも身体的にも、疲れきっているらしい。肩で息をしている姿は痛々しかった。


 体の回復までそれなりの時間が、必要になると葵は思った。休む間もなく戦い続けてきたのである。

 

  体温は確かにここにあった。

  証明をしていた。

 

  ――お疲れ様。

  ――やっと、休めるわね。

 

 頑張った分甘やかせてあげたかった。誰が何を言おうと楓とは家族である。かけがえのない存在でもある。

 

  心は一つだった。

  楓は応えてくれた。

 

  自らの判断で選んでくれた。

 

 「弥生姉さんと話せました」

 「何か言っていた?」

 

 「僕たちと家族で幸せでした――それが、最後の言葉でした。葵さん」

「なぁに?」


「僕の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」


 顔の汗をタオルで拭う。


 冷たくて気持ちいいのか、楓は息を吐き出した。葵は慣れた様子で手当てをしていく。今までだった、触れることすらできなかった。触れてしまったら消えてしまいそうな危うさがあった。


 その危うさが多少なりとも取り払われている。本来の――生身の「楓」が覗けて人間らしさがあった。


 ――少しは気を許してくれたと思ってもいいのかもしれないわ。


 距離が僅かながら縮まった気がした。壁を乗り越えるために、楓のほうから近づいてきてくれた。無理はさせずに、ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。


 他愛ない話をして。

 話題の動画を見て。


 季節の移り変わりを肌で感じて。

 大地の息吹を取り込んで。


 深呼吸をしてほしい。

 厳しくてもどこか温かい。


 沢田家の教育方針をやっていく予定でもあった。


 焦ることはない。

 時間は無限大にある。


 最大限に利用していこう。


「話せてよかったわね」

「本当は一緒に抜け出すつもりでいました。弥生年枝さんの――意思を大切にしたかった」

「優しすぎるのよ。僕は優しくなんてありません。我儘な人間です」


「我儘を言ってくれた方が私たちは嬉しいわ。頼むからもっと自分を大切にしてほしいの」

「考えたこともなかったです」


「自分を見つめ直すいい機会になると思うわ」

「もし、僕が間違った道に進みそうになった時は止めてくださいね」


「大丈夫。私たちは楓の隣にいるわ」


 弥生から命を託されたのだ。

 任された。


 簡単には死なせない。

 


 道に迷わせるつもりはなかった。


 ――何があっても守ってみせる。

 ――守り抜いてみせる。


 葵は心の中で決心をする。


「僕も二人みたいに強くなれるでしょうか?」

「今は弱くてもいいの。少しずつ強くなっていけばいいのよ」


「その言葉だけで気持ちが楽になりました。疲れました」


 ――私たちと一緒に進みましょう。


 汗で張り付いている髪を払うと、体を抱え直した。




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