「再会、最後の詩」第二節
楓は地下牢で目が覚めた。先ほどからわずかに地面が揺れている。戦闘が始まったのだ。体を少しずつ動かしていく。試しに空手の型をしてみると、スムーズに動いてくれた。
心配しなくても情報部隊が居場所を、検知しているはずである。そのための位置譲歩である。隠し持っていたナイフで縄を切る。
縄は簡単にほどけた。
地下牢の鍵もかかっていない。
拘束をなんてするつもりなかったらしい。ここでも、戦え。戦えと言われているみたいだった。そんな意図が見て取れた。
薄暗い中を慎重に進んでいく。すると、足元に固い感触があった。見上げてみたらバイオ水槽の中で眠っているたくさんの子どもたちだった。結果が出すすでに廃棄しているらしい。
残酷すぎる。
結果が出る前に亡くなったのだろう。生きる意味と現実を奪われたのだ。
夢を壊されてどれだけの恐怖だったのだろうか。
助けてと叫びたかったのだろうか。
きっと、悔しかったはずである。寂しかったはずである。呼吸が乱れていくのが分かる。発作になる前に対処をした。
一呼吸おく。
手をきつく握りしめた。
――それなのに、僕は。
――本当にこのままでいいのか?
――後悔をしないのか?
――亡くなった命を見捨てていいのか?
――部隊の者としての誇りは?
――どん底から這い上がれるのか?
血が滲み出るほど強く――。
この子たちの安らかな眠りについてほしいと、思わずにはいられない。そこを通り抜けると広い広場に出た。踏み入れると大和と弥生の姿がある。
「弥生と違って貧弱そうな奴だな。ああ――顔立ちはよく似ている」
「こんな奴と一緒にしないでください」
「弥生は覚えていなくても、所詮血はつながっているのか」
「私に家族は存在しません。所長がご存じでしょう?」
「研究員たちが家族ではないのか?」
「認めません」
腕を弥生が掴んだ。
ギリギリと力が強くなる。
表情が歪む。
楓から手を離す。
ハッとした表情になった。
慣れ親しんだ気配がした。
そこには、葵と蓮の姿がある。
楓の不穏に二人は薄々気付いていたのだ。異変を察知していた。だからこそ、ブラッディ・ルージュを持って来てくれた。
駆け付けて来てくれた。
――僕は間違っていた。
――帰る場所はあるじゃないか。
――時間がかかっても「ただいま」と言えるじゃないか。
――弱くてもよかった。
――なら、もう少しだけ。
――もう少しだけ生きてみよう。
――目標にしてみよう。
――神様。
『二人の人生が順風満帆であると、保証してください。先に逝ってしまう僕を恨んでくれても、かまいません。精一杯愛してくれてありがとうございました』
――我儘を撤回させてください。
――まだ、小さい思いかもしれません。
――僕なりの生きる意味を見つけた気がします。
指を指されても、笑われても、無様だなと言われても受け止めよう。楓に決定権はある。誰かが覆せるものではなかった。
「使うだろう?」
背中越しにブラッディ・ルージュを受け取った。手に馴染む感触に泣きそうになる。両親の作った武器に触れて、蝕んでいた心の闇から多少、回復できた気がした。ブラッディ・ルージュを優しく撫でる。
どん底から這い上がってこい、楓。待っている――そんなメッセージが込められていた。
「遅くなってすまない」
「怪我はないの?」
「大丈夫です」
「最終決戦だわ」
「二人にお願いがあります」
戦う準備をしていた二人を止めた。
『お前の手で弥生さんを『人』に戻せないか? 家族の楓ならできる』
今なら、蓮の言葉の意味が分かる、理解できる気がした。戦えると確信をしていた。
「ここは僕に任せてもらえないでしょうか?」
「無事に戻ってこい」
「待っているわ」
実姉と衝突をしてしまっても、手が血で染まってしまっても乱世を終わらせるためだった。
戦争のない世界を作るために。
生きるために。
生きていくために。
譲れないものがある。
新しい家族としての時間を、勝ち取りたいと思った。だから、武器を持つ。
生まれてくる次世代の子どものために。
輝く星になるために。
二人を見送ってからブラッディ・ルージュを、一振りする。反応をして瞬時に長剣へと変化していく。
楓は構えると前を向いた。




