「衝撃の事実、残酷な詞」第三節
「楓君を傷づけたわね?」
「長谷副班長。聞いていたのか?」
「ええ。聞いていました」
付き合いが長い蓮でさえ笑顔が怖かった。
「二人とも言葉が足りませんね、今すぐ追いかけてください」
「しかし――本部を抜けるわけには」
「私たちなら大丈夫です」
部下たちも各自の仕事をしていた。どうすれば、楓たちに負担をかけずに済むか、案を考えている者もいる。作戦を見直している様子も見て取れた。できることをやっている。ここの任せても大丈夫との空気が流れていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
蓮は楓を捜すために本部を出た。不意に歩いていた足をとめた。ここに何かしらの手がかりがある。直感がそう告げていた。ベンチ下に見覚えのある携帯端末が落ちている。
楓の携帯端末だった。
――この公園にいたのは間違いない。
携帯端末を取り出すと、赤い点が点滅しながら、移動をしている。楓がおとりになって、アンドロイドの本部に誘導してくれている。赤い点がある場所で止まった。そこが、アンドロイドの本拠地がある地下施設である。複雑な場所にあって、蓮たちでさえアンドロイドの本拠地を終えていなかった。
思わず溜息をつく。
『綺麗事だけで何ができますか? 何が守れますか?』
楓の静かな怒りを思い出す。普段、感情を露わにしない楓との衝突だった。プライドが高く不器用な弟である。
すれ違ってしまっていた。
まだ、修復ができないほど関係が崩壊したわけではない。
ここから、家族の絆を結び直そうではないか。
戦争が終結すればいくらでも会話をする機会はある。まずは、アンドロイドとの戦争に勝利をする。
それが、先決だった。
連の携帯端末が震える。
『はい』
<まだ、桐原副班長は見つかりませんか?>
『桐原副班長の携帯端末は私が持っている。アンドロイドの本拠地が分かった。今すぐ、そちらに送る』
傍にいる情報部隊が分析を、開始している。仕事も早く自慢の部下でもあった。
<S地区のデパート廃墟の駐車場ですね。まさか、あの子がおとりに?>
『あいつも無理をするよな。私も後ほど合流する。それまで、持ちこたえてくれ』
携帯端末を切った。
太陽の光に反射して輝く物を見つけた。家族写真以外の他にも楓が大切にしている鍵でもあった。
――この箱の鍵であっているよな?
懐から箱を取り出した。
本部の武器庫にひっそりと端に、置かれている物である。ブラッディ・ルージュを見つけたのは本当に偶然だった。引き寄せられるみたいに、その箱を手に取ったのである。
楓が鍵を開けないのは、家族を失った過去を思い出してしまうからだろうか。
鍵を開ける。
錆びついた音がして箱が開く。一枚の手紙が同封されていた。
かなりの達筆な文字だった。
弥生と楓へ
この件、ブラッディ・ルージュを弥生か楓に託す。
戦うための武器を作っておいて、傲慢かもしれない。
自己満足かもしれない。
笑い合える日が来る。
そんな日が来ると信じている。
本来なら、あなたたちの成長を見たかった。
家族としての時間を取りたかった。
けれど、簿記を務める武器職人として、アンドロイドに狙われるだろうと予想はしていた。
自分勝手な親でごめん。
これだけは言わせてほしい。
胸に刻んでほしい。
私たちはいつも楓と弥生の隣にいる。
二人は私たちの宝物よ。
同時に希望の光となって、照らし出す星になってほしい。
いつか、また、会える日が来る時まで。
その手を握りしめる時が来るまで。
どうか、元気で。
沢田孝則・朱音
泣きながら書いたみたいだった。手紙には涙の形跡が残っている。蓮がブラッディ・ルージュを手に取ると長剣へと変化した。
軽く振ってみると意外と軽かった。これなら、パワーよりも、スピードを重視する楓も使いやすいだろう。朱音と孝則の武器職人としてのプライドが垣間見える。
厳しくても愛されていたのだろう。家族としての一つの形があった。
理想的でもあった。
蓮も手本にしたかった。
――安心してください。
――あなたたちの意思は私たちが引き継ぎます
――見たかった平和の道を、この手が作ってみせます。
ふ、と息を吐き出す。
楓に手紙とブラッディ・ルージュを渡したい。箱にブラッディ・ルージュを収める。
――奴らの好きにはさせない。
――思惑通りにはさせない。
――止めてみせる。
――悲しみの連鎖を断ち切ってみせる。
太陽の下で誓った。




