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【悲報】転生先でも定時退社できない。――過労死会計士、劉邦のCFO・蕭何になる  作者: 筑紫隼人
第1章:沛県起業と棚卸し無双

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第5話:中途採用(張良)の罠――「こいつ、競合他社からのスパイでは?」

碭郡を落とした劉邦軍は、休む間もなく、西へ進軍していた。


目指すは、秦の首都・咸陽。


破壊神・項羽が、すべてを焼き払う前に。


天下のデータが集まる国家文書庫を、差し押さえなければならない。


だが。


急激な組織拡大は、バックオフィスを崩壊寸前まで追い込んでいた。


「蕭何様! 前線から兵糧の追加要請です! 馬が足りません!」


「蕭何様! 新しく編入した元秦兵たちが、給与体系に不満を出しています!」


行軍中の馬車。


揺れる竹簡に筆を走らせながら、蕭何は頭を抱えた。


(……ダメだ)


(サプライチェーンが限界だ)


前世でも見てきた。


急成長した会社が、内部体制の未整備で自滅する瞬間を。


今の劉邦軍は、まさにそれだった。


マニュアルなし。


責任分担なし。


トラブルは全部、CFOである蕭何に飛んでくる。


「おい、蕭何。外に面白い奴が来てるぞ」


馬車の帳が乱暴に開いた。


劉邦だった。


その顔は、また厄介事を拾ってきた時の顔だ。


「CEO。現在、全社的な物流再編中です。要件は一行で」


「なんか凄い企画書を持った、美人みてえな兄ちゃんがさ。『面接してくれ』って来てる」


劉邦の後ろから、一人の青年が現れた。


細い髪。


女と見間違うほど整った顔。


だが、その目だけは違った。


底なしの知性。


人を値踏みする、冷たい光。


青年は静かに一礼した。


「初めまして。韓相国の末裔、張良と申します」


そう言って、一枚の布を差し出す。


「秦の防衛線・嶢関。その無血開城計画を持参しました」


蕭何は布を奪うように受け取り、目を走らせた。


そして。


息を呑んだ。


(……完璧だ)


そこには。


嶢関を守る秦将の財務状況。


隠し資産。


賄賂の流れ。


家族構成。


弱み。


すべてが記されていた。


完全なデューデリジェンス。


張良は。


秦将に対し、


「降伏した方が得だ」


という合理的な提案を行い。


戦わずに城を奪う計画を立てていた。


「信じられない……」


蕭何の額を汗が流れる。


「こんな情報網を、個人で構築したのか……?」


「採用だ!」


劉邦が即答した。


「こんな有能な奴、秒で採用だろ!」


豪快に笑いながら、張良の肩を叩く。


「今日からお前は最高戦略責任者だ! 蕭何、雇用契約書作っとけ!」


だが。


蕭何の脳内で。


警報が鳴っていた。


数字を扱う人間の直感。


それが、張良に強烈な違和感を覚えていた。


蕭何は。


布の最下部を指差した。


「……張良殿。この情報を得るには、秦の軍政中枢への接触が必要です」


張良の眉が、わずかに動く。


「滅亡した韓の名族が、単独で入手できる情報量ではない」


空気が変わった。


「さらに言えば」


蕭何は続ける。


「あなたの計画は、我々を最短距離で咸陽へ向かわせる一方……楚軍を秦軍と正面衝突させ、消耗させる構造になっている」


張良は黙っていた。


「つまり、項羽軍の内部事情に詳しすぎる」


蕭何は立ち上がる。


一歩。


張良へ近づいた。


「張良殿」


静かな声。


だが、刃物のように鋭い。


「あなたの本当のクライアントは誰ですか?」


誰も動かない。


劉邦の笑顔が消えた。


樊噲が剣の柄に手を置く。


「……まさか」


蕭何は言った。


「項羽陣営から送り込まれた、産業スパイでは?」


沈黙。


張良は。


ゆっくり笑った。


その瞬間。


空気が変わる。


先ほどまでの美青年ではない。


乱世の裏側を生き抜いてきた、本物の策士の目。


「……さすがですね、蕭何殿」


張良は懐から、黒い竹簡を取り出した。


血がついていた。


「では。こちらが本当の契約書です」


蕭何の背筋が凍る。


張良は続けた。


「これを見ても、私を処刑できますか?」


竹簡を開いた瞬間。


蕭何の心臓が止まりかけた。


そこには。


楚軍最高権力者からの命令が記されていた。


劉邦宛ての。


絶対不可避の、死刑宣告。


「な、何だこれは……?」


劉邦が竹簡を奪い取る。


張良は静かに言った。


「咸陽を狙っているのは、あなた方だけではありません」


「すでに秦内部では、大規模なクーデターが始まっています」


「そして項羽は」


張良の目が細くなる。


「あなた方が咸陽へ近づいた瞬間、首を刎ねるための刺客を、すでに軍内部へ潜り込ませています」


空気が凍る。


馬車の外。


兵たちの足音が、不気味に響いていた。


「……私の採用を拒否すれば」


張良は微笑んだ。


「あなた方は、次の城へ着く前に、身内に殺されますよ」


背後からの暗殺。


内部崩壊。


創業メンバーの中に、敵の刺客がいる。


信じられるのは。


無能だが妙に人を惹きつけるCEOと。


自分の叩く数字だけ。


「……CEO」


蕭何は筆を握り直した。


「採用面接のやり直しです」


漆黒の竹簡を睨みつける。


裏切り。


謀略。


そして監査。


本当の地獄が、ここから始まる。


第5話:了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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