表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】転生先でも定時退社できない。――過労死会計士、劉邦のCFO・蕭何になる【完結済/シリーズもの/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第4章:異性王粛清と非情なリストラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/40

第29話:彭越の解体処分――功臣切り捨てが招いた、次なる反乱

 相国府の執務室には、重い沈黙が満ちていた。


 部屋の四隅。


 そして扉の前。


 甲冑姿の兵士たちが、石像のように立っている。


 劉邦から与えられた五百人の近衛兵。


 名目は護衛。


 だが実態は監視だった。


 蕭何が筆を動かすたび、竹簡をめくる音だけが静かに響く。


 前世の記憶が脳裏をよぎった。


 不祥事の責任を一部署へ押しつける。


 経営陣を守るための切り捨て。


 報告書だけが残り、人だけが消えていく。


 あの光景と、何も変わらない。


 今、机の上に置かれている竹簡も同じだった。


 記されているのは、梁王・彭越の処遇。


 彭越。


 楚漢戦争で項羽の補給線を執拗に襲い続けた功臣。


 彼がいなければ、漢の天下はなかった。


 その男が今、謀反の疑いで捕らえられている。


「相国」


 低い声が響いた。


 入ってきたのは曹参ではない。


 呂后の側近、審食其だった。


 背後には兵士が控えている。


「梁王の件ですが、陛下は蜀への流罪をお決めになりました」


 蕭何は静かに顔を上げた。


「それで終わった話ではないのか」


「皇后様はそうはお考えではありません」


 審食其は薄く笑った。


「彭越ほどの人物を生かしておけば、必ず後の火種になります」


「陛下の裁定を覆せば、法の威信が揺らぐ」


「国を守るためなら、その程度は問題ではありません」


 蕭何は眉をひそめた。


「皇后様は何をなさるおつもりだ」


「すでに手は打たれております」


 審食其は淡々と答えた。


「彭越は蜀へ向かう途中、陛下へ助命を願うため長安へ戻って参りました」


 蕭何は目を閉じた。


 そこで先が読めてしまった。


「皇后様が保護されたのか」


「ええ」


 保護ではない。


 再び檻へ入れたのだ。


 逆らう余地はない。


 部屋の外にも中にも監視の目がある。


     ◇


 数日後。


 長楽宮。


 蕭何は劉邦と向かい合っていた。


 劉邦の顔には疲労が滲んでいる。


 反乱鎮圧の負担は大きかった。


「蕭何」


 酒杯を見つめたまま劉邦が言った。


「彭越の奴が泣きついてきた」


「……」


「昔からの仲だ。蜀で静かに暮らすなら、それでいいと思っていた」


 劉邦は苦く笑った。


「だが、お前の法はそうはいかねえんだろ」


 その視線に、蕭何は胸の奥が冷えるのを感じた。


 責任を押しつけようとしている。


 それが分かった。


「陛下」


 蕭何は静かに答えた。


「謀反の罪を認定した以上、処分を曖昧にはできません」


 半分は本音。


 半分は嘘だった。


 本当の決定権は呂后が握っている。


 劉邦もそれを知っている。


 だが誰も口にはしない。


「そうか」


 劉邦は長いため息を吐いた。


「なら任せる」


 その一言で終わった。


 皇帝は立ち上がり、奥へ消えていく。


 その背中を見送りながら、蕭何は思った。


 友を守ることより。


 国家を守ることが優先される。


 それが皇帝という立場なのだ。


     ◇


 相国府へ戻ると、曹参が待っていた。


 顔色は青い。


 手には一巻の竹簡。


「相国」


 声が震えている。


「本当にこれを執行するのですか」


 蕭何は竹簡を受け取った。


 そこに書かれていた内容を見て、息を止めた。


 彭越一族の処刑。


 それだけではない。


 処刑後、遺体を塩漬けにせよ。


 そう記されていた。


「……」


 言葉が出なかった。


 見せしめだった。


 諸侯への警告だった。


 逆らえばこうなる。


 それを天下へ示すための処置。


「皇后様のご意志です」


 曹参が苦しそうに言った。


 蕭何は目を伏せた。


「法に従い執行する」


「正気ですか!」


 曹参が声を荒らげた。


 その瞬間。


 監視の兵たちが一斉に動く。


 剣の柄へ手が伸びた。


 曹参は慌てて口を閉ざす。


 蕭何は震える手で筆を取った。


 署名すれば彭越は死ぬ。


 拒めば自分が消える。


 選択肢など最初から存在しない。


 墨が竹簡へ染み込んだ。


「執行しろ」


 曹参は唇を噛み締めながら竹簡を受け取った。


 そして振り返らず部屋を出ていく。


 一人になった執務室。


 蕭何は机の端を握り締めた。


 韓信。


 そして彭越。


 功臣たちが次々と消えていく。


 自分が整えた九章律は、その刃として使われていた。


「私は何を作ったのだ……」


 呟きは誰にも届かなかった。


     ◇


 数日後。


 彭越とその一族は処刑された。


 そして遺体は塩漬けにされた。


 木箱へ詰められたそれらが、各地へ運ばれていく。


 蕭何は発送記録を帳簿へ書き込んでいた。


 送り先は諸侯たち。


 燕王。


 長沙王。


 そして淮南王・英布。


 箱を開けた時。


 彼らは何を思うのか。


 蕭何は考えたくもなかった。


 その時だった。


 執務室の扉が勢いよく開く。


 密偵が転がり込むように入ってきた。


「相国! 一大事です!」


「どうした」


「淮南王・英布様が動きました!」


 蕭何の手が止まる。


「英布が?」


「はっ!」


 密偵は息を切らせながら続けた。


「長安からの使者が到着する前に、すでに察知したようです!」


「何をだ」


「彭越様の末路をです!」


 蕭何の背筋に冷たいものが走った。


「英布様は『次は俺だ』と叫び、全軍へ動員令を発しました!」


 部屋の空気が凍る。


 英布。


 韓信亡き後、最強と呼ばれる武将。


 その男が反旗を翻した。


「すでに数万の兵が集結しております!」


 密偵の報告が終わる。


 その直後。


 長安の遠くで警鐘が鳴った。


 新たな戦乱の始まりを告げる音だった。


 蕭何は帳簿を見つめた。


 彭越を切り捨てれば安定すると信じた。


 だが結果は逆だった。


 恐怖はさらなる反乱を生んだ。


 背後には監視兵。


 外には英布の軍勢。


 内にも外にも敵がいる。


 蕭何は震える手で次の報告書を開いた。


 その文字が滲んで見えた。


 英布の反乱。


 それは漢王朝最大の危機の始まりだった。


 第29話:了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


「ブックマーク・評価」という施策を打てていない読者様、費用対効果は最高です。ワンクリック・5秒・無料。これ以上のROIはありません。


次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ