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【悲報】転生先でも定時退社できない。――過労死会計士、劉邦のCFO・蕭何になる  作者: 筑紫隼人
第2章:楚漢戦争と限界キャッシュフロー

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第12話:彭城の大敗――CEOがマーケット(項羽)の暴落に巻き込まれ、全財産を溶かす

ドォーン!!


大地そのものが悲鳴を上げるような激突音が、東の地平線で炸裂した。


紀元前二〇五年、春。


それは。


歴史という巨大市場において、史上最大級の「クラッシュ」が始まった瞬間だった。


項羽率いる三万の精鋭騎兵。


それは、恐怖という名の絶対的カリスマで統率された、「超高速の破壊プログラム」そのものだった。


夜明け。


楚軍は彭城へ突入。


泥酔し、統制を完全に失った五十六万の劉邦連合軍へ、全方位からの電撃奇襲を叩き込む。


「敵襲だと!? 項羽は斉にいるはずでは――!」


「指揮系統が死んでる! どこへ逃げればいい!?」


パニックは、一瞬で全軍へ感染した。


もともと利権目当てで集まった諸侯軍。


項羽の暴力を前に、防衛システムを起動する暇すらなかった。


逃げる。


潰れる。


踏み殺される。


五十六万という巨大時価総額は、ただのバブルだった。


項羽という名の最悪のショートセラーによって。


その虚飾資産は、わずか数時間で蒸発した。


谷川を埋め尽くす死体。


泅水の流れは完全に塞がれた。


急成長した超巨大企業・劉邦軍は。


たった半日で、「完全破綻」へ叩き落とされた。


「……来たか」


数百里離れた櫟陽。


本社テントで、蕭何が静かに呟いた。


「歴史上最悪のブラック・サーズデーが」


前線から届く崩壊ログ。


それを見つめる蕭何の瞳は、凍りついていた。


前世。


監査法人のオフィスで見たリーマン・ショック。


巨大金融機関が、一晩で崩壊していったあの夜。


あの絶望が、完全に蘇っていた。


「蕭何様ァ!!」


役員が転がり込んでくる。


「彭城、完全壊滅!」


「諸侯軍は契約解除を宣言! 次々に離反!」


「漢軍主力も全損!」


「そして……劉邦CEOの安否、不明です!!」


役人は、その場で崩れ落ちた。


テント内の空気が凍る。


会社が、一瞬で潰れた。


残ったのは。


莫大な負債と、崩壊した組織の残骸だけ。


だが。


蕭何だけは止まらなかった。


「……動くな」


声が異様に冷たい。


「パニックを起こすな」


その瞬間。


蕭何の脳は、前世の「過労死寸前モード」へ強制移行していた。


「全資産を失ったことは確定した」


「だが――CEOの首さえ残っていれば、民事再生は可能だ」


蕭何が叫ぶ。


「曹参!」


「おう!」


「ベイルアウト部隊を即時発動! 夏侯嬰の快速馬車を走らせろ!」


「何が何でも、劉邦CEOだけを回収する!」


曹参が息を呑む。


「……もし、もう死んでいたら?」


蕭何は、淡々と言った。


「その時は、私が全データを焼却する」


「そして項羽の前へ出て、最後の清算をするだけだ」


だが。


次の瞬間。


蕭何の口元が、わずかに歪んだ。


「……もっとも」


「あの男の“生存力”を甘く見るな」


「劉邦は、この程度で死ぬ男じゃない」


パチリ。


算盤の珠が鳴る。


「本社は戦時超法規モードへ移行」


「関中の門を封鎖」


「逃亡兵を全員差し押さえろ」


「項羽が来る前に、防衛ラインを再構築する」


そして三日後。


深夜。


櫟陽の本社へ、一人の男が転がり込んできた。


泥まみれ。


裸同然。


全財産を失った男。


CEO・劉邦その人だった。


「蕭何ぉぉぉ……!」


床へ崩れ落ちる。


「終わったァ……全部溶けたァ……!」


泣き叫ぶ声。


そこには、かつて咸陽市場を制圧した男の面影はなかった。


「五十六万だぞ!?」


「あれだけあった資産が、一晩でゼロだ!」


「親父も嫁も人質だ!」


「もう終わりだ! 会社解散だぁ!!」


誰も声を出せない。


絶望だけが、テントを満たしていた。


その時。


蕭何が無言で歩み寄る。


そして。


冷水を、劉邦の顔面へぶちまけた。


「ぶはっ!?」


「何しやがる!!」


蕭何は冷たく言った。


「頭を冷やしてください、CEO」


「前線が何兆の損失を出そうが」


「本社が倒産処理を承認しない限り、会社は死にません」


劉邦が怒鳴る。


「兵も兵糧も残ってねえんだぞ!」


「どこから調達するってんだ!」


蕭何は、巨大な戸籍スクロールを広げた。


「ここです」


「……私の頭の中に、まだ資産が残っている」


秦帝国の国家データ。


未登録人口。


秘匿労働力。


少年。


老人。


徴兵対象外だった“埋蔵資産”。


「項羽は、破壊は得意だ」


「だが、資産管理を舐めている」


蕭何は滎陽を指差した。


「この膠着期間の間に」


「私は関中全域から、未登録人口を超法規的に徴兵する」


樊噲が絶句する。


「ガキと老人を集めるってのか!?」


「そんな雑兵、項羽に瞬殺されるぞ!」


蕭何は、静かにテントの奥を見た。


そこには。


長剣を磨く韓信がいた。


五十六万が壊滅しても。


韓信だけは、髪一筋乱れていなかった。


彼にとって彭城の敗北は。


「劉邦がガバナンス無視で自滅しただけ」の話だった。


「韓信大将軍」


蕭何が言う。


「私が、ジャンク兵を無限供給する」


「君なら、防衛ラインを維持できますね?」


韓信が笑った。


静かに。


狂気的に。


「私を誰だと思っているのですか」


「素材が粗悪でも関係ない」


「私の陣形アルゴリズムを通せば」


「それは“絶対防壁”になる」


長剣が、鞘へ収まる。


パチン。


「滎陽なら、十年でも守れますよ」


その瞬間。


蕭何が算盤を叩いた。


「よし――!」


「民事再生プラン、承認!」


「これより我が軍は、滎陽防衛戦へ移行する!」


「前線がどれだけ焦げ付こうが!」


「本社が、最後の一滴まで兵と兵糧を送り続ける!!」


彭城クラッシュから、わずか数日。


倒産寸前だった劉邦軍は。


蕭何の超法規ベイルアウトによって、奇跡的に再起動していた。


だが。


その異常事態に、項羽も違和感を覚え始める。


「……なぜだ?」


項羽が眉をひそめる。


「彭城で、奴らは完全に潰したはずだ」


「なぜ、関中の奥から無限に兵が湧く?」


項羽の猛攻。


それを止めるのは。


韓信の数理防御。


そして。


蕭何の限界サプライチェーンだった。


だが――。


この総力戦は、確実に蕭何を蝕んでいた。


心も。


身体も。


限界を超え始めていた。


そして。


その地獄の最中。


櫟陽本社へ、もう一つの爆弾が届く。


「蕭何様……!」


情報役員が震えていた。


「韓信大将軍より……極秘要求書です」


暗号化竹簡。


それを開いた瞬間。


蕭何の瞳が、凍りついた。


『滎陽防衛は維持する』


『だが私は、本隊から独立する』


『独自軍を率い、北方市場を単独制圧する』


『指揮権、予算執行権、完全独立を要求する』


『拒否するなら――』


『私は滎陽防衛システムを停止し、漢軍を項羽へ売却する』


沈黙。


重苦しい沈黙。


曹参が歯を鳴らす。


「……あの野郎」


「会社を乗っ取る気だぞ」


前線には。


最強だが、いつ牙を剥くか分からない怪物。


後方には。


民を限界まで搾り取るサプライチェーン。


過労死会計士・蕭何は。


史上最大の市場崩壊の直後。


今度は、組織内部から発生した最悪の「インサイダー・リスク」に呑み込まれようとしていた。


第12話:了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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また、本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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