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6/28完結【悲報】転生先でも定時退社できない。――過労死会計士、劉邦のCFO・蕭何になる  作者: 筑紫隼人
第2章:楚漢戦争と限界キャッシュフロー

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第11話:楚漢戦争の火蓋――「前線がどれだけ焦げ付こうが、本社の資金繰りだけは回してみせる」

ゴゴゴゴゴ……。


数万の足音が、秦の旧き大地を激しく揺らしていた。


数百年前。


大秦帝国の統一以前に捨てられた絶壁の廃道――「陳倉の古道」。


崖崩れと原生林に埋もれたその道を。


大将軍・韓信率いる劉邦軍の精鋭が、巨大な毒蛇のように駆け抜けていた。


「急げ」


軍馬の上で、韓信が淡々と言う。


「章邯の防衛網が、我々の奇襲に気づく前に、関中の喉元を完全にロックする」


そこに熱はない。


激情もない。


ただ。


自分の組み上げた数理アルゴリズムが、予定通りに作動していることを確認しているだけだった。


その頃。


数里離れた正面街道では――。


「オラァ! もっと派手に土を盛れ!」


樊噲が鉄器を振り回しながら怒鳴っていた。


「項羽の密偵どもに、俺たちが本気で道路工事してるって思わせるんだよ!」


韓信の戦略。


「明修陳倉、暗渡陳倉」。


正面では愚直な道路修復を演出。


敵の視線を釘付けにする。


その裏で、本隊は廃道から関中へ滑り落ちる。


章邯は、完全に引っかかっていた。


正面防衛を固め切り。


裏口のセキュリティホールを放置した。


戦略としては完璧。


だが。


その「前線勝利」の報告が届くたび。


漢中の本社で算盤を弾く蕭何の胃は、文字通り焼き切れそうになっていた。


「……クソ、韓信め」


竹簡を叩きながら、蕭何が呻く。


「『コストは通常の四・五倍』だと? 甘い。甘すぎる」


「現場の兵糧消耗が、想定カーブを完全に突破している!」


臨時本社。


そこでは、竹簡の山と格闘する蕭何の姿があった。


韓信の戦術は美しい。


だが、兵站視点では最悪だった。


完全な「バックオフィス殺し」のデス・プロジェクト。


「蕭何様!」


役人が飛び込んでくる。


「前線より追加調達要請です! 軍靴三千足! 馬の飼料も予定の二倍で消費しています!」


「……却下したいところだが」


蕭何は奥歯を噛み締めた。


「ここで止めれば、前線が全滅する」


「曹参!」


「いるぞ」


「予備倉庫から新型一輪車を五百台追加投入しろ。山岳輸送専用だ」


「人員は?」


「未登録の若者を緊急徴用。報酬は、関中奪還後の土地で現物支給だ」


曹参が顔をしかめた。


「蕭何。漢中の金庫、もう空になるぞ」


「前線が勝つのが先か」


「本社が兵糧切れで死ぬのが先か」


「完全にチキンレースだ」


蕭何は算盤を弾いた。


「間に合わせる」


その声だけは、異様なほど静かだった。


「前線がどれだけ焦げ付こうが、本社の資金繰りだけは、私が回してみせる」


金がないなら未来の税収を担保にする。


人が足りないなら輸送効率を限界まで削る。


韓信が剣で敵を殺すなら。


蕭何は数字で「倒産」を殺していた。


そして――。


奇跡が起きる。


廃道から現れた韓信軍は、章邯軍を背後から急襲。


防衛網は一瞬で崩壊した。


「章邯、敗走!」


「我が軍、関中を完全奪還!」


その報告が届いた瞬間。


本社は歓声に包まれた。


だが。


蕭何だけは静かに算盤を弾いた。


パチリ。


「……第一段階の資金ショートは回避したか」


「だが、休む暇はない」


「次は、拡大した市場を維持する番だ」


関中奪還。


それは、軍の規模が十倍に膨れ上がったことを意味していた。


急成長ベンチャー。


だが、中身が追いついていない。


蕭何は櫟陽に残り。


戸籍。


税制。


物流。


法令。


すべてを再構築していく。


その結果。


劉邦軍の補給網は、異常な安定性を見せ始めた。


「おいおい……」


前線の劉邦が笑う。


「後ろから無限に兵糧と兵士が湧いてくるぞ」


その瞬間だった。


劉邦は、完全に「勝った」と思い込んだ。


周辺諸侯を次々と吸収。


総兵力、五十六万。


史上最大級の巨大連合。


そして。


項羽不在の本拠地「彭城」を電撃占領した。


だが。


櫟陽で進軍ログを確認していた蕭何だけは、凍りついていた。


「……おかしい」


竹簡を叩く。


「この数字は異常だ」


曹参が首を傾げる。


「何がだ?」


「指揮系統だ」


蕭何の顔から血の気が消えていた。


「各諸侯が、勝手に動いている」


「統制がない」


「これは軍じゃない」


「外見だけ膨らんだ、巨大バブルだ」


「中身が空っぽのクソ株だぞ」


曹参が苦笑する。


「だが、現場は大勝利だ」


「彭城も落ちた」


「今ごろ大宴会だろうさ」


その瞬間。


蕭何が机を叩いた。


「それが一番危険なんだ!」


前世。


急拡大した企業が、統制崩壊で破滅していった光景。


それが完全に重なっていた。


「項羽は、システムで動く男じゃない」


「暴力そのものだ」


「本拠地を奪われて、黙っているわけがない」


蕭何は、即座に警告文を書き始めた。


『至急、防衛ラインを再構築してください』


『現在の五十六万は、統制の壊れた脆弱システムです』


『項羽の電撃戦を受ければ、一瞬で崩壊します』


だが。


その警告が届く前に。


本社テントへ、密偵が転がり込んできた。


全身、血まみれだった。


「蕭何様ァッ!」


「最悪のデス・アラートです!」


「何があった!」


「劉邦CEO、彭城で大祝賀会を強行!」


「全軍、泥酔状態!」


蕭何の顔が歪む。


「あのバカ社長が……!」


だが。


報告は終わらなかった。


密偵は震えながら続ける。


「項羽です!」


「斉にいたはずの項羽が、本隊を置き去りにして――」


「わずか三万の精鋭騎兵だけを率い、超高速で彭城へUターン中!!」


空気が凍った。


曹参が呟く。


「三万で……五十六万に突っ込むのか?」


「違う」


蕭何の声は震えていた。


「項羽の三万は、“完成された破壊プログラム”だ」


「対する我々は、泥酔したジャンクデータに過ぎない」


「ぶつかった瞬間、全部吹き飛ぶ」


密偵が叫ぶ。


「敵先鋒、すでに彭城目前!」


「夜明けと同時に衝突します!」


蕭何は、東の空を見た。


夜明けが近づいていた。


それは。


劉邦軍というベンチャー企業が。


積み上げた全資産を一瞬で溶かす、「史上最大の暴落」の始まりだった。


「本社スタッフ全員に告ぐ!」


蕭何が絶叫する。


「これより我が社は、歴史上最悪の破綻フェーズへ入る!」


「戸籍データを退避!」


「固定資産を地下倉庫へ!」


「そして――」


蕭何は、血走った目で叫んだ。


「前線壊滅時に備え、劉邦CEOを回収する緊急救済チームを編成しろ!!」


東の空から、夜明けの光が差し込む。


それは。


五十六万の命が蒸発する。


史上最悪の「彭城クラッシュ」の幕開けだった。


第11話:了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!


また、本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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