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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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正し過ぎた勇者、間違い過ぎた勇者

「ネビュラ』ァアアアア!!」


 世界を真っ白に変えるかと思うような閃光が戦場に走る。

 その膨大な衝撃により風が吹きすさび、大地が悲鳴を上げた。

 ……。


「……っあぶねえなぁおい! 俺が止めてなきゃ腕がぶっ飛んでるところだぞ!」


 俺は間一髪、アイラが振り下ろした腕を受け止め『セイントネビュラ』の威力を軽減していた。

 しかし、アイラの腕は反動でボロボロになっている。皮膚は爛れ、肉は引き裂かれ、骨は粉々。


 もし一瞬でも遅れていれば、アイラの腕は千切れていたはずだ。これでも十分マシな方である。


「ぐぅう!  は、離せっ!」

「誰が離すかバーカ! 離したら自分の腕とおさらばだぞ!」

「黙れ!  私は……負ける訳にはいかないんだ!」

「負けた方がいいんだよ! この世界にお前の腕を懸けるほどの価値はねぇ!」

「ふざけ──」

「ふざけてるのはテメェだこの大馬鹿野郎がァ!!!」


 俺はアイラの体を背中で支え、腹パンを叩きこんだ。


「ぐふっ!?」

「しばらく気絶して頭冷やしとけ。起きたらこっぴどく説教してやる」


 アイラが俺の背中に体を預け、動かなくなる。

 どうやら無事に気を失ったらしい。静かに寝息をたてていた。


「全く……。これだから正義感をこじらせた勇者は……。レヴィ、そっちは終わったか?」

「とっくの前に終わってるよ。はい、とりあえず水の精霊は水筒の中に閉じ込めておいたから」


 「出せー!!」と叫ぶ摩訶不思議な鉄瓶をバシャバシャと振りながら、レヴィがこちらに歩いてくる。

 無事で何よりだ。レヴィが負けるとは微塵も思っていないが。


「これでようやく一段落ついたな……」

「そうだね」


 俺とレヴィはため息をつき、肩の力を抜く。

 こうして、俺はアイラとの決闘に勝利したのだった。


 ***


「ん……ここは?」

「やっと目覚めたか。丸一日眠りやがって」

「なっ!?」


 帝国の中央にある特別勇者収監独房にてアイラは慌てて飛び起き、窓の外を見る。

 思わず飲まれてしまいそうな暗闇の中にはいくつもの星々と月が輝いていた。


「おかげで俺は徹夜だよ畜生。リゼも何が『勇者アイラに暴れられたらグレイ様以外に止める手段がありませんから』だ。あー家で眠りてー!」

「……殺せ」

「開口一番にそれですかい」


 アイラの言葉を聞いて、俺は口をへの字に曲げた。

 なんとまぁ、勇者のテンプレートを貫いている女だろうか。最近の勇者でもそんな言葉は吐かないぞ。


 アイラは立ちつくし、無事な左手に拳を作る。


「ここは帝国だろう。お前の持っているコップの紋章で分かる。……そして私の腕に巻いてある包帯。つまり私は帝国に情けをかけられたというわけだ。……屈辱だ!」

「心中お察しします……。まぁ、なんだ。俺に言いたいことがあるならいくらでも聞くが?」

「 私は今更命乞いなどしない! 敵に情けをかけられるなら死んだ方がマシだ!」


 そう言ってアイラは俺に向かって毛布を投げつける。

 しかし、宙を舞った毛布は俺とアイラを隔てるガラスにはじかれ、空しく透明な表面を滑った。


「別に情けをかけたわけじゃないんだがな。リゼが生け捕りにしろって言ったから生け捕りにしただけだし」

「同じことだ! ……お前たちは私を殺しに来たんじゃないのか!? どうしてわざわざこんなことをするのだ!」

「殺すつもりなんて最初からなかったさ。……むしろ、俺はお前の境遇を聞いて殺したくなくなった」

「……私に同情しているという事か?」

「そうだ」


 俺は椅子に座って足を組み、頬杖をついてアイラを見据えた。

 普段はまったくと言っていいほどに勇者に同情をしない俺だが、この勇者アイラには心底同情する。


「珍しいぜ? ここまで俺の同情を買える奴はそんなにいない。……最高に哀れだよ、アイラ」

「この……ッ!」


 アイラは歯を食い縛り、悔しげに顔を歪める。

 その瞳には涙すら浮かんでいた。


「お前に……お前に私の何がわかるッ! 周りが私を必要としてくれて、私を希望だと呼んでくれる! だから私は戦わなくちゃいけない! それが勇者として生まれてきた者の使命だ! なのにお前は私を哀れだのなんだの勝手に……!」

「……それで、その使命を遂行してお前は何か得るものがあったのか?」

「何を言っているんだ!  真の勇者は見返りを求────」

「アイラ、お前に個人に聞いてるんだよ。勇者としてのお前に聞いてるんじゃねぇ」


 俺はアイラの言葉を遮る。

 俺の目を見たアイラが一瞬だけ怯む。


「意味が分からない! 私は勇者だ!」

「ああそうだな。だが、勇者と同時にお前はただのお人形だ」

「黙れ!」


 アイラが俺の声をかき消すように壁を叩く……が、俺はアイラに構わず独り言のように言葉を続けた。


「お前は世界の希望を背負うように仕向けられてきた哀れな木偶。ある意味立派だよ、お前は。世界のために生き、死ぬ。その精神に疑問を持たず、無償で都合のいいことをしてくれる、気高くて聡明で便利な勇者。……これを人形と言わずしてなんと言う」

「私は人形なんかじゃない!」

「いい加減理解しろよ。勇者アイラという存在は世界の操り人形だ。誰かの道具でしかない」

「黙……れ……! 私は……!」


 アイラが怒りで肩を震わせる。そんなアイラを見て、俺は鼻を鳴らした。

 どうやら、アイラは自分が勇者であるということに相当の誇りを持っているらしい。


 ……くだらない。洗脳されているといってもいい。

 これが、正義……か。


「私は……勇者だ……」

「可哀想だな。周りから勇者勇者ともてはやされた末路が、こんな空っぽな人間を作り出してしまうとは。……勇者であること以外に自分の価値を見出すことができないなんて」

「うるさい……」


 アイラが反抗する。しかし、その声はさっきの威勢を感じさせない、弱々しいものだった。

 もう、立つ気力もないらしい。その場でへたり込む。


「私は……勇者だ……。今までそうして生きてきた。……それ以外に、何も知らない」

「だろうな。そうでないと死に物狂いで俺を殺しにかかる理由がわからない」


 俺は呆れてため息をつく。

 すると、アイラが唇を噛んで俯いた。


「私だって……好きでこんな生き方をしているわけじゃない」

「……」

「でも、誰かがこの役目を背負わないといけない。それがたまたま私だったというだけだ。……正直、辛い。逃げ出したい」


 アイラは悲痛な声で呟く。

 ようやく、彼女の素の部分が出てきたという感じだな。


「でも、私が逃げたら多くの人間が死んでしまうかもしれない。私一人が我慢して皆が幸せになれるなら……私は迷いなくそうする。それの……何が悪いんだ」

「なーんにも。……だが、だからと言ってお前が傷ついていい理由にはならないだろ」

「……え?」


 アイラが目を見開いて俺を見る。


 コイツにはいろいろ思ったことがあるけれど、まず最初に思ったのはこれだ。

 ……こいつ、マジでイカれてんな。


「お前さぁ、『自分がみんなの痛みを肩代わりしてあげてる』って愉悦に浸ってんじゃねぇだろうな?」

「ッ!?」


 俺の言葉にアイラが動揺する。


「別に、それは悪いことじゃねえと思うぜ?  そういう気持ちも必要だと思うし、多分『みんなのために頑張ろう!』とか思ってる奴は全員似たようなことを考えているはずだ。……でも『誰かを庇うこと』と『自傷行為』は違うぞ」

「違う! わ、私は……」

「じゃあさ、あの『セイントネビュラ』はなんなんだよ。アレは本当に必要だったのか? あんな超弩級の必殺技をただの勇者である俺に? ……どう考えても過剰だろ」

「そ、それはその時必死で……」

「アレを使った結果、お前は今右手が千切れかかっている状態だ。普通に捕まるよりも悪化している。……まぎれもない自傷行為だ」


 アイラは再び唇を噛み締め、うつむく。


 わかったか、自分の異常具合が。『セイントネビュラ』の代償は知らなかったとはいえ、発動の段階で腕に激痛が走っていたはずだ。やめれるのならすぐにやめられたはず。

 なのに、このお人形さんはそんな危険な技を躊躇いもなく振り切ろうとした。


 ……イカれていなければ到底できる芸当ではない。


「アイラ、お前は正し過ぎたんだ。それで自分まで傷つくことを良しとしちまったんだよ。……誰も喜びやしないのに」

「違う! 私は勇者として常に誰かの助けになるよう生きてきた! いつも死ぬ気で人々を────」

「死んでできる善行があるか、バカ野郎」

「ッ!?」

「腕がなくなったら子供の頭も撫でられないんだぞ。親と手をつないで歩くこともできないんだぞ。家族も抱きしめられないんだぞ。お前がいつも見ている誰かの『幸せ』のために自分の『幸せ』を手放そうとして……何が幸せを守るだ。バカバカしい。……二度と正義に盲目になるな。分かったか」


 「今日はもう寝ろ。夜風にもあたって頭を冷やせ」と俺は椅子を蹴って立つ。

 そしてそのまま、すすり泣く声を背景音楽に面会室を出た。


 どうも、いつまでも正しくあろうとするアイラを見ているとだんだんムカついてくる。なぜだろうか。


妙に落ち着かない心に深呼吸をする。


「────えらく長い説教だったね、相棒」

「……なんだ、聞いてたのか」


 と、ドアのすぐ近くでレヴィが壁にもたれてニヤニヤしていた。

 物好きなやつだな。俺の話を聞いても面白い事なんて何もないのに。


 短く嘆息して、俺はわずらわしそうに手を振る。


「お前も早く寝ろ。起こしてやらねーぞ」

「いや、相棒と交代で勇者アイラを見張れってリゼに言われたんだ。仮眠はバッチリとってるよ」

「あっそ、じゃあ先に失礼するぜ」


 どこかつまらない気分になり、俺はリゼから与えられた一室へと向かうために暗い廊下を進む。


「相棒」

「…………」

「さっき勇者アイラにしていた話……自分とアイラを重ねていたんでしょ」

「ちげぇよ」


 俺が眉間にしわを寄せているにも関わらず、レヴィはどこか嬉しそうに口を開く。


「相棒は根がいい人だからねー。もしも相棒が魔王たちに拉致されていなかったら、アイラに向けられていた期待は全て相棒に向けられていたことになる。だから勇者アイラという悲しい理想の勇者を生み出したのは間接的に相棒のせいでもある……って考えたんでしょ?」

「どうだかな」

「またまたぁ、『同情する』って言葉に相棒の気持ちの全てが詰まってたよ。……どこか、謝るような言い方だった。『ごめんな』って言ってる感じ。だから、苦しんでいるアイラを見て放っておけなくなった。でしょ?」


 いかにも「私だけは分かってるから」とでも言いたげな顔をしているな。流石の俺でもイラってくるぞ。


 しかし、レヴィはうんうんと頷いてさらに言葉をかける。


「そうだよねー。アイラを見ていると、別の世界線の自分を見ているような心地がする。それが相棒にとって不快なんだ。……後で私がアイラにフォローしてあげるから、悪役を演じるのはもうやめてよ。ね?」

「チッ」


 ……おせっかいな相棒だ。好きにしやがれ。

 心底どうでもいいと大きな舌打ちしつつ、俺は収容所をあとにした。

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