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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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どうしてお前がいるんだよ

「お兄様……お兄様……」

「んあ……?」


 懐かしき魔族大陸の夢から覚め、俺は目を開ける。


「……どした、キリ」

「しーっ、声を大きくすると城の者に気づかれてしまいます。声を抑えて」


 俺が何気ない調子で言うと、キリが口に人差し指を当てた。どうやら誰にも言わずに俺の部屋へ来ているらしい。

 こいつも悪いことをするようになったものだ、誰のせいだろうか?


 寝癖がたった頭を上げ、背伸びをする。


「で、用ってなんだよ」

「少し……お耳を拝借」


 キョロキョロと辺りを警戒し、キリが俺の脇に座り耳に近づく。


「私たちがこの城を出ることを手伝っていただきたいのです」

「どうしてだ?」

「お兄様、知らないのですか? 今日は最近噂の芸人団が我が国に来る日なのですよ?」

「芸人団? サーカス団みたいなものか?」

「それとは少し違いまして……まぁ、いいです。そのようなものと思ってもらって構いません。とにかく、私とサリアはどうしてもその者達を見たく思うです」

「へぇ」


 脱走するにしてはえらくしょうもない理由だな。そんなもの親に言って……いや、お父様とお母様は頭が固いんだった。どうせ「王族に娯楽など必要ありません」と言われておしまい。


「私たちだけで抜け出そうとしたのですがどう頑張っても抜け出す計画をたてることができず……」

「ふーん。だから俺に頼みに来たって訳か……」


 確かに、普通の人間……ましてや女がこの城を正面から脱出するの難しい。番兵に捕まってお説教タイムになるのがオチだ。


「お願いできますでしょうか!?」

「……」


 正直、面倒臭い。自分でやればいいのにと思ってしまう。

 だが……


「ったく、分かったよ。サリアも連れてこい、窓枠から逃げ出すぞ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 そう言うとキリは満面の笑みを浮かべた。

 こうして俺たち三人による脱出劇が始まることとなったのだ。





 ──── 王都にある広場にはたくさんの人が詰めかけていた。


「ほぉ〜すげぇ人混みだな」


 思わず、そんな感想が出てしまう。

 普段ならこんな人の密集したところなんて近づきたくも無いのだが……。


「わぁ……これが町なのですね……!」

「ちょっとお姉様、はしゃぎ過ぎです。もう少し静かにして下さい」

「だって城の窓から見ていた景色に溶け込んでいるんですよ? いくら私だってはしゃぎますよ」


 ……目の前にいる二人の少女が俺の周りを軽い足取りで駆ける。

 一人は目をキラキラさせながら周りを見渡し、もう一人はそれを嗜めるように注意している。


 なんか……キリの反応が貧乏くさいな。まるで初めてケーキ店に入ったコユミのような反応。

 コユミは裏路地の貧民層出身だから高級なものを目にした時の反応が新鮮なのだ。


「おいお前ら、あんまり騒ぐんじゃねぇよ。俺、一応謹慎中なんだからな?」

「分かっています。だから私たちがバレないようにローブを纏っているんじゃありませんか」

「逆に目立つと思うんだよ、それ。いかにも高そうなローブじゃダメだろ。あとで古着屋にでも行って埃っぽい服でも買っとけ」


 俺はキリを適当にあしらいつつ、二人を連れて街を歩く。

 それにしても……


「何があるんだよ、広場で」

「はぁ?」


 俺の言葉に反応したのはキリではなくサリアの方だった。

 呆れたように、眉間にしわを寄せる。


「あなた、どれだけ情勢に疎いんですか」

「俺から情報を完全にシャットアウトしていたのはお前らだろうが……。まぁいい、ざっくりでいいから教えてくれ」

「本当に何も知らないんですね。いいですか? 今この街では有名な芸人団が来ているの。彼らがする芸はなんというか……劇というか……戦いというか……斬新なエンターテインメントなのです」

「なるほどわからん」

「とにかく、面白いらしいとのことです」


 サリアの説明を聞いてもピンとこない。

 やはり、人間大陸の流行は分からん。とりあえず、その芸人団とやらを見れば分かることなのだが……。


「あっ、お兄様、サリア、見てください!」


 その時、大きな歓声が上がった。

 見ると、そこには珍妙な半裸集団がいた。

 大胆な装飾を身に纏うもの、逆にシンプルにパンツ一丁の者。しかし全員一貫して筋骨隆々。

 自身が誇る肉体美を惜しげもなく観客たちに披露している。


 そして、先頭にいたのは……ピエロ? いや、あれは……マスク?  顔のを覆う覆面をした人物がいて…………すぅっ。


「キリ、サリア。予定を変更して城に帰ろう」

「え!? どうしてです?」

「どうしましたか。 ついにボケが?」


 二人は突然踵を返した俺を見て驚くも、すぐに後を追ってくる。


「ちょっと待ってください、急に帰られたら困ります。もしかして私たちがお兄様の気に障ることを……」

「いいや、違う。ただあの芸人団とやらが生理的に受け付けなかっただけだ。俺の本能がアイツはダメだと言っている」

「そんな理由で帰るのですか!?」

「バカ言え、あんな変態共と一緒にいる方が危険だ! 行くぞ、早くしろ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいお兄様! 一緒に見るんでしょう!? サイン貰いましょうよ!」

「うるせぇ! 離せ! とにかくアイツだけは────!」

「あ、こっち見た」

「えっ」


 サリアの声で振り返る。

 ………………オワタ。


 覆面の男とバッチリ視線が合う。


「おお! グレイ君じゃないか! 魔族大陸にいるはずの君がどうしてここに!?」

「い、いやああああ!!!」

「まさか……『マッスル・フェスティバル』の興行を見に来てくれたのか! フハハハハ! 最初からそう言ってくれていれば特等席をいくらでも用意したぞ! わが愛すべき弟子たち、我が友人が遊びに来てくれたぞ! 丁重にもてなしてくれ!」

「「「マッスール!!!」」」

「待ってください、離してください、プロテインを薦めないでくださいモンゴリァアアアン!!!」


 どういう因果か、たまったまこの国に来ていたモンゴリアンによって俺は筋肉ダルマ共に囲まれた。

 助けてヒルダぁあああ!! 俺だけじゃ手に負えないッ……うわっ、筋肉くさっ! 概念から異臭が香ってくるっ!


「お兄様、もしかしてもしかするとですけど……モンゴリアン様とお知り合いなのですか!?」

「様をつけるほど大層な人物じゃねぇよ、こいつは!」

「やっぱりお兄様とモンゴリアン様はお知り合いなのですね! すごいです!」


 テンションが爆上がりしたキリが手を叩いて飛び跳ねる。


 どうしてそうなるんだ!? どうしたらモンゴリアンに魅力を感じることができるんだ!? 

 この哀れなお兄様にも教えてくれよ!


「あなた……どういう交友関係しているんですか……」

「サリア、人生は自分でも訳が分からないことが起こるんだ。こんな異世界転移してきた変態と交友関係をもったり、生まれてすぐに宿敵と共同生活を送ることになったりするからな。覚悟しておけよ」

「私には一生縁のない覚悟ですね」


 サリアが白い目をしながら言う。

 俺も白い眼ができる立場でありたかったよ。


「ところで、そちらのお嬢さん方は? 見たところご令嬢のようだが……」

「えっと……俺の妹かもしれない奴らで、こっちのハイテンションな方はキリ、この呆然としているほうがサリアだ」

「ぬ? 君に妹なんていたのか?」

「まぁ、不確定要素だけどな。俺自身もよく分からねぇ」

「……なにやら並々ならぬ問題を抱えているようだな」


 これまでの俺の事情を知っているモンゴリアンが俺の陰りを察する。

 モンゴリアンに気づかれるなんて、よほど顔に疲れが出ていたらしい。少しは気丈に振る舞わないとな。


「……興行が終わったらでいい。少し話をしよう」

「いや、いいって。俺の問題だし。なんとか決着をつけるよ」

「君一人では無理だろう。それに、君はまだ若い。悩みを解決するのに人を頼ってもいいのではないか? 私は君の力になりたいのだ」

「……」


 モンゴリアンから真剣なまなざしが注がれる。その瞳からは確かな友情を感じた。

 ……そういえばコイツ、筋肉狂いなことを除けば意外と常識人なんだよな。


「……わかった」


 結局、俺は素直にモンゴリアンの申し出を受け入れることにした。

 いつもだったら「やだね。お前に相談すると全てを筋肉で解決してきそうだもん」と突っぱねるところだが、そう言えないほど俺はこの問題に参っていた。

 俺は……どうすればいいのだろうか。


 本当に家族かもしれない者と暮らすのか、偽物だとは分かり切っているけれど家族として認めてくれている者と暮らすのか。

 ……だからといって、このまま何もせずに過ごしていていいはずがない。


 俺の人生だ、決着をつけねば。


「興行を見終わったら私に声をかけてくれ。時間を作ろう」


 モンゴリアンがそう言って俺に背を向ける。

 物理的に頼もしい背中が日にあたる。


「お兄様……?」

「いや、何でもねぇよ。それよりもモンゴリアンの興行、楽しもうぜ?」


 筋肉にも頼りたいほど弱った心を押し殺し、俺は心配そうなキリとサリアに微笑んだ。

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