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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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イレギュラーは千里を巡る

 魔王の間に、臨時の円卓が置かれる。


 北に私、東にミルダ、南にお母様、西にお父様が座っていた。

 いわゆる、家族会議である。


 議題はもちろん、グレイの奪還。


「いい? あなた達。育児放棄をした()()に、グレイをどうこうする資格はないの。ましてや攫うだなんて……ねぇ?」


 重々しく口を開いたお母様は、まるで噴火寸前の火山の様だった。

 眉間に深い深いしわを寄せ、頭の血を煮えたぎらせる。


「グリモア、城の宝物庫に確か魔素崩壊砲があったでしょう? その解錠キー、私に渡して頂戴」

「そ、それは無理な話……」

「はぁ? あなたはまだ血を流さずにことを済ませようと思っているの?」


 お父様がお母様から距離をとる。


 その手には金色の鍵。私が未熟なゆえに渡されていない魔族の最終兵器、『魔素崩壊砲』の起動装置だ。

 これを人間大陸に向けて撃てば、海の向こうで焦土の直線が引かれることになるだろう。


 そして、魔素崩壊砲から放たれる奔流を薙ぎ払うように放射すれば……


「いいから渡しなさい。人間に母親の恐ろしさを刻み込んでやるの」

「待て待て待て! もし魔装崩壊砲の射程にグレイがいたらどうする! あのグレイとはいえ、ただではすまないぞ!」

「……そうね。ごめんなさい」


 渋々、お父様の言いたいことを理解したお母様が席に着く。

 その顔からは子を思うあまりの焦燥が伺えた。


「お母様、やはりここはお兄様を奪還するための兵を出すのが賢明な判断だと思います。その任をこのミルダに」

「ミルダ、あなたの気持ちもわかるわ。……だけどお母さんはね、これ以上嫌な思いをしたくはないの。あなた達までいなくなったら、私は確実に首を吊るわ」

「お母様……」


 お母様は激情家。冗談に聞こえるような文言も全て本気に聞こえる。

 暴走する前に、長女として止めねば。


 つばを飲み込み、口を開く。


「お父様、お母様。私はあまり人間大陸とはことを構えたくありません。確かにグレイのためなら戦う覚悟はありますが……魔王として、国民が被害を被るリスクは避けたいです」

「だがヒルダ。お前がグレイを取り戻したいのなら、戦争しか……」

「……」


 戦争。勇者と魔王の関係を、種族全体に背負わせる行為。

 そんなのことをするなんて、人間と同じじゃない……。愚か極まりない。


 でも、それ以外の選択肢はない。そう思うしかない。


 ……あーあ、人間と話し合いで解決できればなぁ。


 ふと、そんな言葉が口から洩れ────……ん? 人間と交渉?


「ミルダ、今私なんて言った?」

「え? ……確か人間と話し合いで解決できれば、とか言っていましたね」

「ヒルダ、そんなことできるわけないでしょ。あなたにそんな人脈はないわ。仮にあったとしても、どうやって広い広い人間大陸からグレイを見つけるのよ」

「ゲヘナの言う通りだ。世界からただ一人の勇者を見つけるだなんて砂漠の中で針を見つけるような行い。無謀だ。人間であっても、魔族であってもな」


 ただ一人の勇者……、確かに、グレイは勇者の一人だ。たった一人の勇者に過ぎない。


 だけど、はたしてグレイが人間大陸の中で「ただの一人の勇者」とカウントされるのかしら?

 あの、選ばれし勇者が? ありえない。


 グレイは特別な存在。そこら辺の塵あくた勇者とは格が違う。きっと向こうの大陸でも平常運転で、なにかをやらかしているはずだ。

 そんなの、人間たちが注目しないはずがない。


 もしかしたら……そうか!


「……見つけた。グレイを取り戻す方法」

「「「えっ?」」」


 驚く三人の顔を見て、私はにやりと笑う。

 方法は……さながら魔王ね。非道中の非道だわ。


 だけど、私は魔王。家族を奪われて黙っているほど、私は穏やかではない。

 グレイを取り戻すなら、私は修羅にでもなんにでもなってやる。


 ────こうして、私の心は何事にも揺るがぬ魔王となった。




「訳ガワカラナイヨ」

「私は殿下の身体能力に頭を悩ませておりますよ……」


 弓を持った帽子男がため息をつく。もちろん俺に、だ。


「いいですか殿下。狩りでは剣を使いません。弓です、弓で矢を飛ばして動物を仕留めるのです。決して投擲で獲物の頭蓋をかち割るものではないのです」

「過程なんてどうでもいいだろ。どうせ肉を調達する作業だ」

「違います! 狩りはスポーツです! いかに短時間でより大きく、よりたくさんの獲物をしとめるかを競うのです!」

「じゃあ俺超狩りうまくね?」

「確かに結果的には目を張る収穫ですけど……」


 本日五匹目のイノシシの上に座りながら、俺はウサギの処理をする帽子頭を見下ろす。


 ちなみに、俺は弓矢なんて使えない。使おうと思ったことがないと言えば嘘になるが、なんか手に馴染まないのだ。

 やっぱり時代は剣。剣の時代。


 遠距離攻撃なんてそこら辺にある石で十分だ。


 そう足をプラプラさせると、生粋の弓使いである帽子男は


「いいですか? 弓は素晴らしい道具なのです。戦争では主戦力になるほどです……例えば」


 帽子男が矢筒から矢を取り出し弦にかける。


 そして限界まで引き絞り、ぱっと離すと


「すげ、鳥が三羽射抜かれてやんの」


 三つの白い羽の塊が同時に地面へと墜落。きれいに脳天を射抜かれている。


「弓を極めれば片足立ちでもできるそうですよ」

「ふーん」


 帽子男が頭を軽く押さえ、爽やかな顔で鳥を拾う。


 ……なんかイラってきたな。イケメンにしかできないどや顔だったぞ、さっきの。


 俺だってこのくらいできる。根拠はないけど、選ばれし勇者だからできるだろ。


 こぶし大の掴みやすい石を拾って手で転がしつつ、空を飛んでいる鳥の群れに標準を合わせる。


 そして心の中で呪文を詠唱。


 ────一に構えて二で踏み出す。三四で振り上げ五で


「発射ァ!」

「何してるんですっ!?」


 俺の手から放たれた一条の光は黒い点の集合体に穴をあけ、赤い華を空に咲かせた。


「……お、俺でもこれくらいできるんだよ」

「大惨事じゃないですか! 見てくださいこの獲物、頭が吹き飛んでいますよね!?」

「あーうるさいうるさいうるさい!」


 なんか思ったよりも違った。もっと一石二鳥的な、スタイリッシュに仕留めれると思っていた。


 黒目があちこち錯綜する俺に顔を引きつらせながら帽子男が鳥を袋の中に入れる。

 なんかごめんな。いろんな意味で。


「まぁ、最初から弓を使うのは少々無謀だったのかもしれません。ですが、これから練習すればきっと上手になられますよ。なんってったって殿下はずっと城にいらっしゃるのですから」

「……ああ、そうだな」


 帽子男の屈託のない笑顔にあいまいな相槌をうつ。

 ……ずっと、か。ずっとなの……かもしれない。


 このまま、俺はヒルダに事情を隠したまま──────と


『グォオオオアアアア!!』

「「ッ!?」」


 俺と帽子男の上を、巨大な影が過ぎ去った。

 遅れて烈風が俺の髪をたなびかせる。


 身をかがませ、とっさに俺と帽子男を顔を見合わせる。


「帽子、今のは?」

「……東の山に住むドラゴンです。おそらく狩りのためにこの森まで飛んで来たのかと」

「そうか。だが幸い、城の方には向かっていないな」

「そうですね、国に大した被害は出ないものかと……いや、待ってください! あの方角にはキリ様とサリア様が遺跡で修行中で……!」


 帽子男の顔色が急に悪くなった。


 キリとサリア、確か俺の妹……の可能性があるやつらだっけか?


 ……不味いな。ドラゴン相手じゃどんな護衛をつけていたとしても分が悪い。

 一応、最強の魔獣だからな。


「帽子、助けに行くぞ」

「ええっ!?」


 剣に手をかける俺を必死に帽子男が止める。


「殿下、おやめください! 殿下のお命が……!」

「じゃあお前は大切なお姫様を見殺しにしろと?」

「そ、それは……」


 俺の言葉に帽子男が言いよどむ。


「悩むくらいなら行動しやがれ。……知ってるか、魔族のことわざには『困惑に勝る愚行無し』って言葉があるんだぜ? ……分かったら行くぞ。全力で走ればまだ間に合うかもしれない」

「で、殿下! 私も行きますからおいて行かないで下さい!」


 考えるよりも早く、俺達は遺跡に向かって走り出した。


 ……ちなみに「全力で走れば」の言葉は俺基準である。帽子頭がどうなったかは察してくれ。

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