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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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妹ができた……みたいです

「……」


 …………何も考えることができない。


 食欲もわかない。どれだけむしゃくしゃしようとも、ただただ虚無さだけが残ってしまう。


 今朝、突然いなくなってしまったグレイ。隣で寝ていたはずのレヴィも気づかず、グレイは消えた。


 普通なら、私の隣でギャーギャー騒いでいるのに……。


「魔王、カーラの解析が終わったよ」

「そう……」


 レヴィが玉座に座る私に通達する。

 レヴィの顔もまた、これ以上ないくらい不安に満ちた顔をしていた。


 それなのに、レヴィは淡々と言葉を発する。


「端的に言うと、相棒は何者かにさらわれたらしい」

「……」

「カーラの話だと、犯人はおそらく人間だろうと。どうも転移宝珠という貴重な魔道具が使われたそうだ。割れば所定の位置に瞬時に移動できるらしい」

「そんなことはどうでもいいの。……グレイは、グレイは無事なの?」


 私がレヴィに目を向けると、レヴィはそっと視線を下にそらした。


「分からない。私と相棒のペアリングも一定の距離があると切れてしまうから。カーラも転移した場所までしか割り出せないんだって。その後の足取りは……」

「そう、十分だわ。ありがとう」


 今にも泣き出しそうなレヴィに対し下がるように言う。


 ここで泣かれてしまったら、私も泣きたくなってしまう。ただでさえ考えないようにしているのに。


 少しでもきっかけがあれば、私の中の水風船は爆発してしまうだろう。


「……魔王、これは私の推測なんだけどさ」

「何?」


 去ろうとするレヴィが突然立ち止まる。


「相棒は、きっと帰ってくると思うんだ。相棒は、大事な人は死んでも守り抜く勇者だから。家族とか身内だとか、そういう言葉に相棒は敏感だ」

「……ええ、そうね」

「だから、あんまり考えこまない方がいい。どうか、相棒を信じてくれ」

「言われなくたってそのつもりよ」


 グレイが私のもとを離れるわけがない。


 城のバルコニーで交わした約束をグレイが(たが)うはずがない。


 あのグレイが……家族を大事にしないはずがない。


 そう自分の心に刻み込み、私はため息をつく。


「グレイ……帰ってきなさいよ……」





 うーん、めっちゃ帰りたい。


 ヒルダのアホな言葉が恋しいし、ミルダの「お兄様」の呼び名が恋しいし、レヴィの「相棒────」から始まる泣き言が恋しい。


 自由を愛し、自由を求めてきた俺にとってそれが日常だった。


 朝起きて、二度寝して、城のみんなと雑談して時々勇者を屠って……よほどのことがない限り怒られない自由な生活。それが俺の人生。


 しかし、今の俺はというと、魔王城よりも一回り程小さい城の広間で────


「アルフォンスッ!」


 初めて会った自称母親に抱きつかれ


「おお、ついにこの時が……!」


 感激した自称父親に感激され


「あのお方が……私たちのお兄様なのですか?」


 自称妹の一号に首を傾げられ


「信じられるわけないじゃない! いきなり『この人があなたのお兄様です』だなんて! 私は認めないわ!」


 自称妹の二号に辛辣な言葉を吐かれていた。


 ……何なのこの空間。カオスオブカオスじゃん。


「ああ……,この灰色の髪! 間違いなく私の子供よ!」

「いや、灰色髪は確かに珍しいですけどそれだけで決めつけるのは……」


 優しく髪をかき上げられ、鳥肌が立つ。


 完全に母親の手つきだ! 俺もよくお義母さんにやられたよ!


「なぁ帽子。俺はこの状況をどう切り抜けばいい」

「抱きしめてあげればよろしいのではないでしょうか。なにせ十九年ぶりの親子の再会です」

「涙なしで語れないってやつか。俺も泣きたいよ、うん」


 ハンカチ片手に涙をぬぐう帽子男に心の中で無能のハンコを押す。


 見て分からないのか。なんか……手のやり場に困るんだよ。自称母が身に着けているものが高価すぎて。

 お義母さんはスーパー庶民だったのでドレスは普段使いしていない。どちらかというと「ああんもう暑苦しいィッ!」と公務が終わるや否や投げ捨てるタイプだった。


「わ、わかったから落ち着け。……お母さん」

「ええ、わかったわ……でもアルフォンス。これからは私のことはお母様と呼びなさい。あなたは仮にも王族なのです。礼節はわきまえるように」

「えー、めんどくせ。家族間でどうして気を使わなきゃならないんだよ」

「殿下、そこはどうか王妃様に合わせてください……」


 眉間にしわを寄せる俺を帽子男が必死でなだめる。


 なんか俺、変なこと言ったか?


「キリ、サリア。あなた達もお兄様に挨拶しなさい」

「はい、お母様」

「……」


 自称妹一号二号が俺の前に並び立つ。

 顔立ちがよく似ている。双子だろうか。


 まずは比較的大人しそうな妹一号が会釈する。


「お初にお目にかかります、お兄様。私はキリと申します。お兄様の話は以前よりお母様からお聞きしておりました。お会いできてうれしく思います」

「……おう」


 柔らかな物腰で妹一号ことキリが自己紹介。聡明そうな妹だな、コイツ。


 対して、妹二号はというと


「……」

「サリア、言いなさい」

「……認めない」


 頬を膨らませて俺と視線を合わせようとしない。

 キリに肘で小突かれるが、さらにぶすくれるだけだった。


「申し訳ございませんお兄様。サリアはワガママなもので……」

「いいよ、その目には慣れてる。どうせ俺のことを自分の空間を侵略しに来た部外者と思ってるんだろ」

「えっ」


 俺としては笑顔を張り付けたまま話されるよりも、こうして思いっきり反抗して心の内を出してくれる方がありがたい。

 そっちのほうが、「会話している」という実感が湧く。


「サリアって言ったか?」

「……」

「まぁ、なんだ。聞き流してもいいから、俺の言葉を聞いてくれ」


 顔をそむけるサリアに向かって俺は一方的に言う。


「俺を家族だなんて思いたくないなら、そう思わなくていい」

「……?」

「なっ、お兄様!」


 目を見開く双子姉妹。性格は全く違うのに、反応は全く同じだった。


 キリが心配そうに手を伸ばしてくる。


「お兄様、お兄様はそれでよろしいのですか?」

「あのなぁ、妹って言うのは自由にさせておくのが一番なんだよ。兄とか姉とかの干渉なんて最小限でいいんだ。困った時だとか構って欲しいときだけ相手してあげればいい。矯正なんてしなくても妹はしっかり育つ。お前は妹を自分に依存させたいのかって話だ」


 俺だって十五年以上ミルダの兄をしているベテランだ。妹の扱いには一家言ある。


 先に生きてるからってえばるものじゃない。あくまで下の弟妹の支えになるのが兄や姉の務め。

 個人的には「兄だから」や「姉だから」という名目で自分を律して、下を頭ごなしに押さえつけるのは間違っていると思う。


「だが、困ったことがあったら遠慮なく俺に声をかけろ。その時になったら勝手に兄貴を遂行するだけだから」

「……」

「お父様もお母様も、俺のことは構わずに好きに扱ってくれて構わない。邪魔なら邪魔と言って、一緒にいて欲しいなら一緒にいて欲しいと言え。……キリもそんな気を使わなくていいから好きな距離感でいてくれ。俺に気に入られようと愛想笑いしなくていいから。緊張で膝が笑っているのはバレてるぞ」


 三人に思いを伝えたあと、無言を貫くサリアを一瞥し帽子男に


「今日は疲れた。今すぐ休みたいんだが……」

「い、いえ! しっかりと準備しております! ささ、あまり急がれずに────」


 あまり多くは語らずに、俺は帽子男の案内で広間をあとにする。


 家庭の立ち位置なんて無理に決めなくてもいい。そなりの俺の経験則だ。


「あの……ふしつけながら申し上げます。ご家族にあのような態度をとられてもよろしかったのでしょうか?」

「あ?」

「仮にも殿下は王族であらせられます。それがあのような言葉を……」

「……大丈夫だ」

「え?」


 恐る恐る言う帽子男を俺は笑って一蹴する。


 王族王族って言うけどさぁ


「家族って、軽い調子でバカやれる存在じゃん? あれくらいでいいんだよ、あれくらいで」


 俺の知ってる王様(ヒルダ)達は俺の前でバカでいてくれる、ありがたい存在なんだぜ?

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