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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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追い返せ! お姫様のさだめ後編

『グレイ、お姫様は見つかった?』

「ああ、だが見失った。アイツ、この城に侵入している勇者を俺たちにぶつけるつもりだ」

『はぁっ!? 冗談でしょ!?』


 念話越しにつんざくヒルダの声。

 もしヒルダが俺の前にいたのならば間違いなく俺の肩を揺さぶっていることだろう。


 露骨にため息をついているヒルダの姿が頭に浮かぶ。


『まったく、厄介なことをしてくれるわね。あのお姫様は」

「違いない……だが、これでリゼの居場所は大体推測できる。毒沼階層か極寒階層だな」

『えぇー……絶対行きたくないんだけどぉ……。……仕方ないわね。じゃあ私は極寒階層に行くわよ。グレイはレヴィと一緒に毒沼階層に行ってちょうだい』

「分かった。そっちも気をつけろよ」


 そう言って俺は念話を切った。


 それにしても、よくもまあこんな面倒なことをしてくれるものだ。

 お陰でこっちはてんてこ舞いだよ。


「レヴィ、行くぞ」

「えっ、もうちょっとだけ勇者たちの供養を……」

「ほーら密林のポチ共ー。美味しい餌だよー」

「ああああああ!!」


 多数の唸り声と茂みのざわめきをバックミュージックに、俺とレヴィは毒沼階層へと向かった。



「うう、相変わらず気味の悪いところだなぁ……」

「足を止めんな。テンポよくいかないと毒沼に落ちるぞ」

「だってぇ……」


 レヴィが急停止し、俺もそれに合わせて足を止める。

 俺たちは現在、毒沼階層の飛び岩にいる。

 毒沼のは毒沼の上で勇者パーティを渋滞させることで進行を抑制させる役目を持つ。

 狭い足場で焦りを生じさせチームワークの崩壊を図り、少しでも油断をすれば足を滑らせてしまうという精神的な罠だ。

 足場の傍らを見れば、そんな罠に引っかかってしまった哀れな勇者パーティーの頭蓋を見ることができる。


 ……結構勇者の骨が溜まってきてるな。ゾンビたちがこの階層の清掃を怠ってる証拠だ。あとで小言を言っておこう。


「でもさ、なんでわざわざ毒沼の上なんかを通るの? 普通に進めばいいじゃん」

「それだと時間がかかりすぎるだろうが」


 そう言い終わると同時にやっと広い足場にたどり着いて一息つく。

 さてと、リゼはどこにいるだろうか────


「「「あっ」」」


 あっさり見つけた。

 どうやらショートカットしてきたことによって先回りしてしまったらしい。

 リゼは俺を見つけるや否やすぐさま逃げようとする。


「おい待てコラぁ!」


 俺とレヴィは逃がさまいと方向転換し全力疾走。

 体力差は歴然、追い付くまでにそう時間はかからない。


 残念だったなゲス姫! お前の逃亡劇もここまでだ!


「チッ! しつこい勇者ですね!」

「テメェのせいでな!」

「相棒、そっち方面にはたしかゾンビたちがいたよね!? 親方たちに協力を仰げばいいんじゃないかな!?」

「よっしゃ! ゾンビたちに言ってリゼを捕まえてもらおう!」


 レヴィのナイス提案を即座に採択。

 俺はゾンビたちがいる方角に向かって叫ぶ。


「おーい!! ゾンビたちー!」

「「「あ゛ーい」」」

「今からそっちに人間の少女が来ると思うが、そいつを捕まえてくれ! くれぐれも殺すなよ!」

「「あいあいさー」」


 俺の言葉を聞いて、大量のゾンビたちがこちらへと向かってくる。

 ……あっ、壁の補修中だったのね。ごめんなさい。


「嘘でしょっ!?」


 リゼは驚きの声を上げ、走る速度を下げる。

 所詮は人間、いくらリゼとてゾンビたちは恐ろしい存在だ。


 はっ、勝ったな……


「こうなったら……エイッ!」

「お……おでの頭が……」

「「……」」


 捕まえようとしたゾンビの頭をリゼが殴ると、ゾンビの頭が床に落ちた。

 ごろりと音をたてて石畳を転がる。


 俺とレヴィは呆然としながらリゼを見る。

 俺達が知る以上に、ゾンビたちが脆かった。


「……これはいい発見をしました!」


 リゼが嫌な笑みを浮かべ、もう一人のゾンビの頭を殴る。

 そのゾンビもまた、頭部を失った。


 こいつ……悪魔か……!?


 ゾンビたちがせっせと同僚の頭を拾い、接着剤で頭部を止めようと格闘する。

 その隙にリゼが糸の隙間を抜けるように包囲網を突破。


「くっ……! レヴィ、行け!あいつらも自分のことは自分でなんとかするだろ!」

「え、あ、うん!」

「おっと手がまた」

「お前ホントやっていいことと悪いことがあるぞ! ゾンビたちにとって体はゾンビたちの生前の記憶が詰まった大切なものなんだぞ!」

「知りませんよ、死者のことなんて」


 俺はリゼを追おうとするが、わちゃわちゃと自身の頭を探すゾンビたちが邪魔で足止めされてしまう。

 クソがっ!! こいつら邪魔だ!! 状況がさらに悪化してるじゃねぇか!


「うわぁ、ゾンビたちが次々に……かわいそう……」

「まずいな。このままだとまた見失ってしまう」


 ゾンビたちをかき分けつつリゼを追う。

 しかし、間に合いそうにない。距離は開く一方だ。


「どうやらまたまた私の逃げ切りのようですね」


 そう言ってリゼが階層の出口の一つに手をかけた。


 まずい! これ以上見失ったらいつ見つかるかわからねぇ!


 扉が閉まり、リゼが階層の間に消える。


「ハァ……ハァ……相棒! 早く扉を開けてよ!」

「分かってるよッ! ……ちくしょう! なんかデカいもので蓋をしてやがる!」


 扉が異常に重い。おそらくリゼが何か細工したのだろう。


 扉越しにリゼの楽しそうな声が聞こえる。


「さぁて、しつこい輩もまいたことですし。本格的に城の探索をはじめましょうか……あっ、あそこに都合のよさそうな勇者が。捨て駒として一緒にいておきましょう」

「相棒早く! リゼがまた犠牲者を増やそうとしてる!」

「うるさいなぁ! ぶっ壊したらお義母さんに怒られるんだよッ!」


 後ろから背中を叩いてくるレヴィに怒鳴りつつ、扉の間に手を入れる。

 隙間からは、勇者と交渉するリゼが垣間見えた。


「あのぉ……すみませーん」


 一回り高い声でリゼが可愛らしい少女を演じる。


「すこし助けていただきたいんですけどぉ……」

「……」

「私、いま悪者に追われていまして……聞いてます?」


 リゼが何もしゃべらない勇者の反応に首をかしげる。

 基本的に勇者はバカだから、困っている人がいれば相当のアバズレ以外の女は例外なく助ける。たとえ悪女でもだ。


 しかし、俺の目から見ても、リゼが話しかけている勇者は異常だった。

 どこか虚ろな雰囲気を背中から漂わせている。


 レヴィが俺の後ろから勇者を観察する。


「相棒、あの勇者変だよ」

「分かってるさ。だが勇者は大抵奇人か変人だ。それは理解してるだろ」

「ま、まともな人もいるよ……多分」


 息をのんで、リゼの動向を見守る。


「少しくらいこちらを向いてくれたっていいじゃないですか。ねぇ」

「……」

「……なんか言ったらどうですか」


 ついにしびれを切らしたリゼが勇者の手を引っ張る。


 ────そして、絶句した。


「ひっ」


 パンドラの箱を開けてしまったリゼがか細い悲鳴を上げて尻もちをつく。


 同時に、身の危険を感じた俺は即座に扉を閉めた。


「あ、相棒。あれは────」

「言うな。絶対に言うな。……勇者がモンゴリアンの顔が描かれたボトルでプロテインを飲んでたなんて言うな。筋肉養成ギプスを着込んでいたなんて言うな。足に重りをつけて歩いていたなんて言うな」

「相棒が全部言っちゃってるんだけど」


 ゾンビよりも質の悪い存在に対し汗が吹き出し、身震いを禁じ得ない。


 どう考えても筋トレをしている体型ではなかった勇者が、身の丈に合わない新品の筋トレ道具を所持していた。

 俺は、その異常な勇者と同じ目をしたやつを一回だけ見たことがある。


 頭にその時の光景が浮かび、鳥肌が立った。


「アレだ……絶対にアレだ……」

「相棒、何か知ってるのかい?」

「モンゴリアンが……モンゴリアンフラッシュを使ったんだ」

「モンゴリアンフラッシュって何? いったい何のことなの?」

「モンゴリアンフラッシュはモンゴリアンフラッシュだ。言葉にすることさえはばかられる技だよ」


 おそらく落雷フロアにいた勇者に使ったのだろう。哀れなり勇者、心から同情する。


 俺が抑える扉からガンガンと必死な振動が伝わってくる。


「グレイ様、助けてください! 変態が……変態が私に筋トレを勧めてきますっ……!」

「無理だ。俺でも勝てないし望むなら勝負したくもない。さらばリゼよ、永遠なれ」

「殺さないで下さい! 私を見捨てないで下さい! 何でもしますから!」


 仮面が砕け、キャラクターが崩壊したリゼが泣きながら訴える。

 だが、俺はこの扉を開けることはできない。リゼの次はきっと俺達だ。


「プロテイン……スクワット……ベンチプレス……」

「いやぁああああ! ちゃんと家に帰りますから! もう我が儘は言いませんからぁああ! だから、だからぁあああ!!」


 鉄の板一枚を隔てて聞こえる少女の悲痛な慟哭に、俺はそっと目を伏せるのであった。

 ……すまない、本当に。



 ────そのあとすぐ、リゼはカムリ&モンゴリアンによって無事に保護されたのち帝国に強制送還され、モンゴリアンフラッシュを受けた勇者はモンゴリアンの弟子No.5466番として引き取られることとなった。

 そして、変わり果てた勇者の姿によってヒルダがかつてのトラウマが想起し俺の背に隠れて爪を立てる猫となったのは言うまでもない。

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