名探偵ヒルダ 消えたアイスクリームの謎
その日、大事件(笑)が起きた。
「犯人は絶対にこの中にいるわ」
魔王の間にて、意味ありげにぐるぐると円を書いて回るヒルダ。
なんで虫眼鏡を持っているんだお前は、漫画の見過ぎだ。
そして、容疑者候補として集められたのは俺、ミルダ、レヴィ、カーラ、スケさんの五人。
非常に不憫な人たちだ。
「この五人が今日、厨房の冷蔵庫を開けた人よ。城のコックから言質をとったから間違いないわ」
「まぁ、確かに俺は冷蔵庫を開けたけどよぉ……。その時にはヒルダのアイスクリームはちゃんとあったぜ?」
「そうですよ姉様。大体姉様のアイスクリームをミルダが食べるわけがないじゃないですか。姉様が好きなのはチョコレート味ですが、ミルダが好きなのはフルーツ系です。そもそもの嗜好が違います」
「あーもううっさいうっさいうっさいッ! 犯罪者はみんなそんなことを言うのよ! わかってないわね! ……今からあなた達のアリバイを聞いていくわ。流石に五人のアリバイを聞いたら流石に犯人もわかるでしょう」
眉間にしわを寄せたヒルダは玉座に座りふんぞり返る。
どうやら探偵のつもりらしい。どう考えても知能指数が足りてないぞ脳筋魔王。
「まずはグレイよ。嘘をついたらぶん殴るからね」
「こんな下らねー茶番劇に嘘なんてつかないっての」
はー、メンドくせ。さっさと俺の無実を証明しよう。
俺が冷蔵庫を開けたのは朝の六時だ。
小腹がすいていたのでレヴィの作ったオヤツがないかなーと冷蔵庫を漁っていた。
まぁ、結論から言うと何もなかったのだが。
強いて言えば、ヒルダが買ってきていた期間限定アイス、お化けスイカ味があったのだが、「果汁1%じゃねぇか。しかもアイスクリームじゃなくてラクトアイスだし。やっぱコイツバカだわ、ご丁寧に付箋まで張りやがって」と冷蔵庫の扉を閉めた。
「その冷蔵庫からの帰り、勇者の腕を持った血まみれのソーニャが暗い廊下を歩いていて、ホラーな光景に絶叫したからよく覚えている。嘘だと思うならソーニャに聞いてみるといい。多分俺のアリバイが成立すると思うぞ」
「ねぇ、存在消していい?」
「なんでぇッ!?」
ヒルダがゴミを見るような目で黒球を手の平に浮かべる。
そんなさらっと存在消されてたまるかッ! アホかぁ!
「人が黙ってることをいいことにぼろクソに叩いて。果汁1%で悪かったわね、ラクトアイスで悪かったわね。……まぁいいわ。グレイを殴るのは確定として、次にミルダ。あなたのアリバイは?」
続いてミルダのアリバイ。
「アリバイ……そうですね。ミルダは牛乳を捨てるために冷蔵庫を開けました。姉様、ミルダが牛乳が嫌いなのを知っているくせに『へぇ、最近の流行はフルーツグラノーラなのね。城の朝食もフルーツグラノーラで統一しようかしら』とか言っていたので捨てに行きました。その時にはまだ姉様のアイスはありましたね。午前十時ぐらいでした。証人は丁度その時に庭仕事をしていたコユミがやってくれると思います」
「ちょっとぉ!? 城の牛乳全部捨てたの!?」
「はい。……あっ、安心してください! 全てベヒーモスに飲ませましたから!」
「安心できる要素がないッ!」
「もうフルーツグラノーラの宅配頼んじゃったんだけどぉぉぉぉ!! 明日五箱ぐらいフルグラが来るんだけどぉおおお!!」とヒルダが悶える。
マジかよ、俺のホットミルク用の牛乳まで捨てられたのか。地味に高いやつをわざわざ買ってるんだぞ。
「ミルダ、あなたこれから箱を使い切るまで三食牛乳無しのフルーツグラノーラね」
「ええっ!?」
「自業自得よ。悔い改めなさい。……次はレヴィ。あなたは余計なことをしててないわよね?」
「あ、ああ……」
苦笑いをするレヴィは機嫌の悪いヒルダの視線を受けながら自分のアリバイを話し始める。
「わ、私は今日の相棒のオヤツを作ろうと思って冷蔵庫を開けたんだ。でも、いざ作ろうとした時、冷蔵庫に牛乳がないことに気づいてね。仕方がないから、そのまま冷蔵庫の扉を閉めて、城の前にある食料品店でプリンを買ってきた。証拠にちゃんと領収書もあるよ、ほら」
レヴィがポケットから取り出したプリンの領収書をヒルダが受け取る。
「……確かにアリバイが成立してるわ。購入した時間も書かれてる」
「うん、だから魔王。私は無実だ。悪いことは何もしていな」
「……でも、領収書が魔王城名義になってるわよ。これはどういうこと?」
「えっ、嘘ッ!? ちゃんと私の財布でカード払いしたのに!」
レヴィが自分の財布を急いで取り出し中身を見る。
……おいレヴィ。
「それ、俺の公務用のカードじゃねぇか」
「……」
どこで取り違えたのか、レヴィの財布には黒い特別なカードが。
このカードはあらゆるものの代金が全て魔王城の国庫から引き落とされる特別なカードである。その分取り扱いは非常に注意しなければならないカード。
それを私事に使えば立派な横領だ。
レヴィは公務用カードを俺に渡し、青ざめた顔をうずめて土下座する。
「……相棒に城の備品のお使いを頼まれて返すのを忘れていました。申し訳ございませんでした」
「ついに犯罪を犯しやがったなコイツ……」
「どいつもこいつも本当に余計なことしかしないわね。……レヴィ、あなたはこの事件が終わったらすぐに海に行って勇者たちがのってくる船に火をつけて沈めなさい。直接勇者を殺せとは言わないから。それでチャラにしてあげる」
「それって勇者が確実に死ぬやつじゃ……あっ、はい。すぐに行ってきます。寛大な処置に感謝します」
「一応言うけど、あなた、国民の税金を横領してるからね? 拒否権なんてないわよ。……ったく、これじゃまともな情報が掴めないじゃない。……カーラ、次はあなたよ」
「は、はぁ」
小さく震えるレヴィを引き気味に見つめてカーラが自身のアリバイを奏上する。
「私は魔王陛下がご存じの通り、昼過ぎ頃にシェリルを修復するため冷蔵庫を開きました。場所はそうですね……魔王様のラクトアイスの隣だったと思います。そこにシェリルの核を置きました。はい」
「ラクトアイスってところを強調しないで。私が貧乏臭く見えるから。……で、証人はいるの?」
「いえ、証人は……あっ、シェリルが完全回復したら、きっと陛下のアイスクリームを盗んだ犯人を見ていると思われます。私が証人として推薦するなら、シェリルですね」
「ふーん、あのコキュートスがね。……コキュートスが食べたって言う可能性は?」
「いえ、シェリルは食事を必要としません。アイスクリームを食べる可能性はないかと」
カーラの言葉にヒルダが唸る。
ぶっちゃけ、カーラはさっきまで俺と話していたわけだし犯人とは考えにくい。
「つぎにスケ。あなたは?」
「は、はイ。私がケルベロスのオヤツをとってこようとした時、すでに魔王様のアイスは無くなっておりましタ」
「へぇ、それは何時ぐらい?」
「今から半刻前です。……しかし、今思えば気がかりな点が」
「なによ、言ってみなさい」
ヒルダが怪訝な目を向けた。
もしかしたら、その気になる点が解決の糸口につながるかも知れない。
スケさんはその視線に委縮しながらあごの骨を動かす。
「その……カーラ様の言うことが本当なら、コキュートスの核もアイスと一緒に無くなっておりましタ」
「「ハァっ!?」」
ヒルダと一緒に、カーラも素っ頓狂な声を上げる。
「ちょっと骸骨さん。 私の使い魔がいなくなったのは本当なの!?」
「え、えエ。それらしきものはありませんでシタヨ」
「嘘でしょ……」
カーラが珍しく動揺しうなだれる。なんだかんだ言って、カーラは初めてできた家族であるシェリルを可愛がっているのだ。
溺愛しているペットを失ったようなものである。
カーラはキャラを崩壊させて膝から崩れ落ちた。
「シェリルが……シェリルが……」
「か、カーラ。落ち着きなさい。あなたの使い魔なんだから、すぐに召喚できるでしょう?」
「……シェリルは保有する魔力が大きいので召喚には莫大な魔力が必要です。私の魔力では焼け石に水かと……」
マジかよ、コキュートスが弱体化されたとはいえ野に放たれてしまったってことじゃねぇか。
シェリルが事件を起こせば俺達の耳に入るだろうが、それでも多少の被害が出ることは確定。
被害が出てからでは遅いのだ。
「なんでアイスを捜索するはずがこんなに次から次へと厄介ごとが舞い込むのよ……! 私はただ期間限定アイスを食べたいだけなのにィ!」
堪忍袋の緒が切れたヒルダがついに幼児退行に走り、魔王の間がカオス状態になる。
ま、待て。落ち着け、俺。こういう時こそ俺のクールで灰色の脳みその出番じゃないか。まだ慌てるような時じゃない。
分裂しそうな空気に飲み込まれないように気合を入れ、その場をまとめようと声を張り上げる。
「落ち着けお前ら! こういう時こそ冷静になれ!」
「「「「「……」」」」」
「なんとかなるって、な!? アイスだろうがコキュートスだろうが何とかなる! まずはシェリルを見つけて、シェリルからアイスの行方を聞けばいい! 勇者の仕業だったらぶち殺せばいいし、魔族だったら厳重注意! それをすればいいだけ!」
慌てていたら何も始まらない。少なくとも俺たちのすべきことは決まっているはずだ。
「俺がシェリルを何とかするから、お前らは落ち着くまでそこでジッと────!」
「呼んだか、勘違いクソ勇者」
「していればぁ……いぃ……」
聞き覚えのある声が聞こえ、ギギギと振り返る。
「ご主人様が呼んだのが聞こえたのでな。わざわざ入りたくもないこの部屋に来てやったわ。あーあー、むせかえるような気色悪い空気に反吐が────」
「シェリルッ!」
「ムギュっ!」
恥ずかしさで悶える俺を尻目に、カーラがシェリルに飛びつく。
お、おお……よかったな。見つかって……。俺の心の傷は深くなったがな。
何を柄にもなく熱くなっていたんだ俺は、バカバカしい……ぐふっ。
「心配させないでッ! あなたがいなくなった時の私の気持ちも考えてッ!」
「わ、我は修復したその足でご主人様のところに向かったのだがな……。そんなに泣くな。口がふさがってそこの勇者共の悪口を言いにくいではないか」
シェリルが息苦しそうにカーラの腕から逃れる。
そして、赤い顔を覆いしゃがみこむ俺を鼻で笑ったあと
「んで、何の用だご主人様。つまらん用事だったらさっさと退散したいのだが」
「え、ええ……ねぇシェリル。冷蔵庫で、魔王陛下のアイスがあなたの核の隣にあったはずなんだけど、どこに行ったか知らないかしら?」
「ぬ? 氷菓子か? ……あー」
シェリルはカーラの言葉にうっとおしそうな顔をして背中を向ける。
「そういえば、我が体を形成する時にたまたま隣の氷菓子が巻き込まれてしまってな。いかんせん童女の体では背にある氷菓子がとれん。すまんが早くとってく────」
「見つけたぁ!」
「ふぬあっ!」
「シェリルー!?」
ヒルダがシェリルの背に埋め込まれたアイスクリームを掴み、シェリルの体に穴をあけ粉々にする。
「あったあった。一件落着ね。あー美味し。流石コキュートスの中にあっただけってキンキンに冷えてるわ」
わなわなと震える手でシェリルの核を拾い上げるカーラとアイスをおいしそうにくわえるヒルダ。
こうして、消えたアイスクリーム事件は無事に解決のハンコを押されることになった。
……事件の解決がどれだけ酷かろうが俺は知らん。解決は解決だ。事件がいつもきれいに解決できると思うなよ。
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




