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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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魔王大陸建国伝説

「グレイ、ちょっといいかしら?」

「んあ?」


 部屋のドアが開かれ、水色の髪が覗く。


「どうしたカーラ。またシェリルが何かやらかしたのか?」

「いや、シェリルはいまさっき魔王に砕かれて冷蔵庫で再生中なんだけど……。それとは話が別で、少し聞きたいことがあって」


 そう言ってカーラが取り出したのはボロボロの本。

 かなり古い本で、題名には古代魔族文字が使われている。


「これ、あなた読めるかしら? 初めて見た文字だから解読に時間がかかりそうで……」

「ああ、一応はな。魔族の中ではわりかし常識な方だぞ」

「そ、そうなのね……。私も魔族として早く覚えないと……」


 カーラが少し顔を引きつらせてうろたえる。

 まぁ、まだ魔族大陸に来たばっかりのカーラには古代魔族文字は難しいだろう。そうなるのも仕方がない。


 カーラから本を受け取り、パラパラとめくる。


「うーん、どうやら初代魔王の伝説についてのようだな。いわゆる建国伝説だ」

「魔族大陸の建国伝説? なかなか面白そうな話ね。私の生まれた国の建国伝説は私の祖先の魔眼で巨万を得た商人が建てたってものだったけど、魔族大陸もそんな感じなのかしら」

「いや、そんな簡単な話じゃない。この国の建国は、それこそ血塗られた建国だからな」


 この国が生まれたのは魔族が勇者から身を守るために過ぎない。そもそもヒルダも含めた自由奔放な魔族たちの社会が国として成立していること自体奇跡みたいなものだ。


「詳しく聞かせてくれないかしら?」

「いいぞ。だが俺もうろ覚えだから蔵書室でな」





 この国の建国は今から三千年前にさかのぼる。


 世界の勢力はに人間とその他という勢力に二分されていた。

 勿論、人間が最も強い勢力だ。いかんせん数が違う。数は力だ。


 この時代、魔族はまだ人間大陸にいた。だが、人間に大部分を支配された人間大陸で魔族が生き抜くのは難しい。故に人間の住まない辺境に住むことを余儀なくされていた。

 ここで勘のいい人は気づいていると思うが、魔族の特殊能力はこの辺境に適応するため進化した結果だ。

 雪男は極寒に適応するため、イフリートは溶岩地帯に適応するために、吸血鬼は食料が少ないところで、人間を効率的に食料にできるように生まれた種族だ。

 この魔王大陸で生まれた魔族なんて一種類もない。全ての魔族の起源は人間大陸に帰結する。


 さて、ここでようやく魔王の登場だ。正確には魔天族の長である。

 この魔天族、かなり特殊な種族でルーツを天界の大天使に持つ。出身はレヴィと同じだ。


 魔天族の長の性別と名前は分からないので一応()と呼んでおこう。


 彼は生来から誰よりも自由を愛していた。長と言っても名ばかりで、魔天族の村にはほとんどいないくらい自由が大好きだったという。


 ある日、彼は人間に滅ぼされた魔族の村を見た。

 略奪の跡、散乱した品、そして血。


 その時、彼は人間を恐れた。

 人間の急速な支配の拡大で、自身の自由が壊されるのではと恐れた故にだ。


 その日から、魔天族の長は「魔王」となった。

 あらゆる種を束ね(あるいは無理やりねじ伏せたのかもしれない)、その有り余る魔力で人間を駆逐していった。

 魔王とはその時に人間から呼ばれた二つ名である。


 しかし、彼には誤算があった。

 自身が天界にルーツを持つゆえに、自身のした暴虐は全て天界の責任になる。それを彼は考えていなかった。


 神は彼のしたことの償いと人間を助けるために、人間に力を与えた。


 こうして人間から魔王に対抗する存在、「勇者」が現れた。その勇者こそアストレイルである。


 アストレイルと仲間たちにより魔天族は彼を除いて全て殺され、彼自身も生き延びはしたものの深手を負わされた。

 彼の掲げる自由が支配に負けた瞬間だった。


 彼は自分に付き従ってくれた自分の部下たちと共に海を渡った何もない土地、魔王大陸へと渡った。そして、新天地にて自由を遂行しようと決め、自由のための国を建てたのだ。


 だから、魔王大陸には必要最低限の法律しかない。人を殺しちゃダメ、モノを盗んだり壊したりしちゃダメ、誰かを騙しちゃダメ、そのくらいだ。


 そして、彼は魔族の王、同時に自由の門番として勇者を迎え撃つことを誓った。

 それは自分のために死んでいった同胞への弔いなのかもしれない、または自分の自由を守るためだったのかもしれない。

 しかし、ヒルダ達魔王一族はこの初代魔王が誓った宿命を背負って国を守るのだ。




「────的な感じだな。別に魔族が悪ってわけじゃないんだよ」

「へぇ、魔族側からはそんな風に見えるのね。少し意外だわ」

「まぁな。結局、この国は初代魔王が自由を守るための国ってことさ」


 だが魔王がいる以上、勇者は存在意義により魔王を殺す宿命を持つ。アストレイルの死後も魔王を滅ぼさんと数々の勇者が生まれた。

 魔王は勇者を殺す義務はないのだが、自分を殺しにくる危険因子を取り除かないわけにはいかない。

 それが形式化して魔王と勇者の殺し合いが負の連鎖を生んだのだ。

 俺の存在も、その連鎖の一端に過ぎない。


「人間側は魔王が急に襲って来たって感じなんだろうな」

「ええ、そうよ。ある日突如、暴虐非道の魔王が魔族を束ね、人間を滅ぼさんと虐殺の限りを尽くしたってところかしらね。そこに現れたるは天からの祝福されし勇者アストレイル……まぁ、大体そんな感じよ。話し手の見る方向が変われば話も変わる、この話はその典型的な例ね」


「だから正義って難しいのよ」とカーラは書き留めた古代魔族文字を眺める。

 もう解読完了かよ、少し教えただけなのに。


 紙をトントンと整理し、カーラは


「誰かを悪と決めつけないと自分を正当化できない。とっても愚かしいことだけど、そうしないと自己を肯定できない人がこの世の人間の大半なのよねぇ。私も実際、誰かを悪だと決めつけたほうが気が楽だもの。……あなたはどう思う?」


 カーラが俺に意味深な眼差しを向ける。

 おそらく、自身が悪とすべき魔王側に加担している勇者の意見を聞きたいと思ったのだろう。


 いつか、人間大陸のナントカの試練ってやつで俺の影が魔王は悪だって断言していたな。

 あれからもわかる通り、自分がしていることが悪だと心のどこかで思っているのかもしれない。

 ────でも


「正義だの悪だの、勇者だの魔王だの、この世のあらゆる仕組みを二分化できると思うのはもう諦めてるよ。世の中は俺達が思う以上に複雑だ。そんな中で、俺はヒルダの隣にいて、魔族側で、今現在こうしてカーラの前でベラベラと世迷言を吐いている男。それだけのことだ。それさえ分かっていれば十分、難しいことを考えたって無駄だってことぐらいわかってるよ」

「フフッ、いかにもあなたらしい答えね。まぁ、考えることをやめるっていうのも有効な処世術の一つよ。実は全員がそのことについて考えるこのをやめることが出来たら、世界はもっと平和になるかも知れないわね」


 俺の回答に満足したのか、カーラはクスクスと笑った。


 だがまぁ、そういうわけにもいかないんだろう。人間側は。

 今だって魔族は十分な脅威だし、取り除くべき危険因子だ。難しいな、世の中って。


「ありがとう。いい話が聞けたわ」

「おう、俺は基本的に暇だし、カーラも慣れないことがあったらいつでも俺を巻き込んでいいぞ」

「頼もしいわね、勇者さん。あてにしてるわ」


 建国伝説が描かれた本を閉じ、本棚に戻す。


 それにしても初代魔王、一体どんな性格だったのだろうか。

 ヒルダのような人格だったのだろうか。アイツも奔放だし、欲望に忠実だし。

 自由を愛しているといえば自由を愛している。


 きっとヒルダみたいな奴だったら、さぞかし楽しい魔王だったんだろうな────


「グレイ! 私のアイスクリーム食べたぁ!?」


 蔵書室のドアがバンッと開き、憤怒の顔に染まったヒルダが声を張り上げる。


 ……いや、ヒルダみたいなやつが初代魔王だったら絶対すぐに国が崩壊するわ。


 ────次回に続く

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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