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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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無我に至れり君への焦恋

「レヴィもよく飽きないよなぁ。俺だったらここまでガチにはなれない自信があるぜ」


 何とはなしに来てみたレヴィの家庭菜園にて感嘆する。

 花壇には様々な野菜がみずみずしく実っていた。


 ちなみに、レヴィとは一緒ではない。あいつと来るとなんか照れくさいし、よくわからない自慢を延々をされそうな気がする。

 俺は興味のないことは関わらない主義なのだ。


「でもまぁ、アイツが見るように言ってきた時ぐらいは相棒サービスで行ってやるとするか。レヴィに駄々をこねられて困るのは俺だし」

「……グレイ、レヴィさんが来て丸くなった」

「うわぁ!?」


 後ろから不意に声をかけられとっさに飛びのく。


「こ、コユミかよ……。心臓に悪い……」

「ん」


 コユミが小さく手を振る。

 その足元にはモリガン、芝生をバクバクと食っていた。


「グレイがグレイらしくないことを思ってた」

「や、やめろよ……。俺を茶化すために声をかけたのかよ」

「それもある」

「それもって……」


「も」ってなんだよ「も」って。絶対に俺に何らかの用事があって来たら面白い展開になってたやつだろ。


「そう」

「素直でよろしい。一周まわって清々しさまで感じる。……で、その用事ってなんだよ」

「手伝って欲しいことがある」


 コユミがそう言って手を引く。

 なんだ? 力仕事か?


「違う」


 心を読んだコユミが早々に俺の案を切り捨てる。

 そして、コユミは俺に振り返り、無表情で言った。


真理(心理)の究明」

「……は?」




「今日こそは絶対に心を読む」

「ああ……そういうことね……」


 茂みに隠れ、ガチガチな隠密装備を着込んだコユミにため息をつく。


 その視線の先には


(モグモグ)

「あいつまた一人でご飯食べてるよ……」


 ベンチで一人、軽食を食べるマサク。

 そういえば今日は四天王の仕事で城に来ていたんだったな。完全に失念していた。


「やめとけよ。藪蛇だぜ?」

「やだ」


 俺が忠告するも、コユミはかたくなに首を振る。


 これがどういう状況かというと、マサクはわけあって唯一コユミに心を読まれていない人物なのだ。

 というのも、マサクはコユミにベタ惚れで、しかも本人が重度のアガリ症が故にコユミの姿を見ると失神してしまうのである。

 コユミは一定の距離の範囲内でないと心を読めない。しかし、それを上回る範囲でマサクのアガリ症が発動するので今までマサクは心を読まれていないのだ。


「グレイ、だから茶化すのはやめてって言ってる。マサク様が裏路地生まれの私のことを好きなはずがない」

「お前も頑固だよなぁ……。マサクがお前のことが好きなのは全員知ってるんだよ。信じてないのはお前だけだ」

「そんなわけない。私の前でマサク様の心を読んだかのような発言をしないで」

「コユミにそう反論されると言い返しにくいんだが……」


「絶対に心を読んで、グレイ達のバカげた推測を覆す……!」とコユミは拳を握る。

 普段自分から動くことがないコユミだからその熱意は是非とも応援したいところだが、悲惨な結果しか待っていないからなぁ……。

 俺だって、恋愛が絡む物事はあまり関わらない方がいいのは分かっている。


「そのためにはグレイの協力が必要。今日こそマサク様の心を読んでこの論争に決着をつける」

「はぁ……勝手にしやがれ」


 こうしてコユミによる、成功が誰も得しない、失敗したほうが絶対にいい結果になる作戦が始まった。




 ・作戦その一、俺とマサクが話しているところにコユミがたまたま(を装って)通りかかる作戦。


「よぉ、マサク。お疲れ様。隣いいか」

「ああ、グレイ。いいよ」

「どうも……あ、グミいるか? 甘い物はとった方がいいぞ」

「じゃあ、頂こうかな」


 グミを餌に、自然な流れでマサクの隣に座ることに成功する。

 まだコユミがマサクを狙っていることには気づいていないようだ。


「どうだ、領地の調子は。相変わらず勇者たちに手を焼かされてるだろ」

「ハハハ、まぁね。僕たちの領地は勇者達の進行の防波堤だから。お父さんも老骨に鞭をうって頑張ってるよ」

「そうか。それじゃあ近頃助太刀に行こうかな。そろそろマナポーションを補充したいところだったんだ。そこの勇者を殲滅して略奪しよう」

「毎回思うんだけど、君、勇者のことを命としてとらえていないよね」


 何言ってんだお前。勇者は侵略者だぞ? 侵略者の人権なんて考えていられるか。


 苦笑いをするマサクに白い目を向けながら


(今だコユミ、今からこっそりと近づけ)

(……わかった)


 アイコンタクトでコユミに合図を送る。


 俺のサインにコクリと頷いたコユミはそろりそろりと近づく。

 このままいけば後ろからマサクの心を盗み見ることができるだろう。


「そういえばさ、お前なんでここで飯食っていたんだ?」

「なんで?」

「いや、一人で飯食うのはなぁーって思ってさ。コユミあたりを誘えばよかったのに」

「なっ……バッ……! そんな女の子と二人でご飯を食べるなんて僕には……」


 マサクが顔を赤くさせて慌てる。

 ウブだねぇ、少年。見ている側としてはご飯がおいしく進みそうだ。

 思春期特有のベタな反応にほっこりする。


 ……さてと、コユミ。話は促してやった。多分マサクの頭はコユミのことでいっぱいだろう。

 今心を読めばマサクがコユミを好きなのは明白だ。


 コユミが静かに歩いて来て、マサクの背後に────と


「あーそっちそっち、そっちに鏡を運んでー」

「レヴィさん、もうちょっと右に……」

「こっちはもう限界だよぉ!」


 なんとまぁすごい偶然。俺の後ろでひびの入った大鏡を運んでいるヒルダ、ミルダ、レヴィが。


 そして、位置的に自身の背後を確認してしまったマサクは目を見開き


「はふんッ!」

「マサーク!?」


 尊みにより無事に失神。その顔は幸せそうであった。


 作戦を台無しにされたコユミは恨みを込めた目でジッとヒルダ達を見る。


「ヒルダちゃん……!」

「…………みんな、急いで鏡を置いて逃げましょう。片付けはあとよ」

「「了解」」


 コユミの瞳が紫色に輝いた。




 ・作戦その二、城のかどでばったり作戦。


「まぁ……なんだ。災難だったな」

「し、心臓に悪い……」


 マサクが動悸が激しい胸を押さえながら医務室を出る。

 残念ながら、その突き当りの角には三人の粛正を終えたコユミが虎視眈々と待っているのだが。


「まったく……コユミちゃんがあんなところにいるなんて……。なんでグレイは教えてくれなかったんだ」

「面白そうだったからつい……」

「勘弁してよ……」


 マサクが呆れながら天を仰ぐ。


 だがマサク、お前にはまだ受難が待っているのだ。あと三十秒後にお前の恋心はコユミにバレることになる。


 コユミの存在に気づかぬよう、できるだけ意識をこちらに向けるように誘う。


「大体、君は僕をからかい過ぎだ!」

「だから悪かったって。いつかは気を付けるようになるよ」

「いつかじゃダメなんだよッ! まったく……」


 そう嘆いて、俺とマサクはコユミが待つ角へとさしかかる。


 そして、マサクが曲がろうと体を横に────


「アフンッ!?」

「なッ!?」


 向ける前に、マサクは気絶した。


 バカな! なぜだ!? この一瞬の間に何が起こった!?


 困惑した俺はその場でマサクが気を失う前に見ていたであろう視線を追う。


 ……嘘だろコイツ。


「どうした?」

「……コユミ、俺はこいつを相当舐めていたらしい」


 コユミに問われ、真実を告げる。

 まったく、こいつのアガリ症には感服さえ覚えるよ。


「こいつ……お前の影でお前の存在を判断しやがった……」


 角から伸びるコユミの影を見ながら、俺は唖然とする。

 なんだよ、影で判断するって。確かにコユミの影は服装が故に特徴的だけどさ……。

 その洞察力をもっと戦闘面で生かしてくれ。


 二度目の敗北に、コユミが頬を膨らませる。


「不覚……!」

「ああ、不覚だな。なんでこんな奴がウチの四天王を名乗れているんだろ」


 四天王最弱って言われても擁護できない。シルフィーナは意外と正しかったのかもしれないな。


「グレイ、なにか枕の代わりになるようなものを持ってきて」

「あ、ああ」


 コユミの言葉にうなずき、タオルをとりに洗濯室へ向かう。


 確かにこのまま廊下で倒れられていたら道の邪魔だ。せめて端で眠っていて欲しい。


「……なんで俺、こんなことやってるんだろ」


 洗濯機を開けて自身の立場をぼやきつつ、洗いたてのタオルを手に取る。

 枕にするには申し分のないくらいふわふわのタオルだ。臨時の代用になるだろう。


 そのまま俺は、コユミとマサクの元へタオルを届け…………おいコユミ、俺がいない間に何があった。


「……何やってんの?」

「マサク様が目を開けたと思ったら、急に出血した」


 そこには、いつの間にか血まみれになったコユミと鼻から血を垂れ流したマサクがいた。


 コユミは無表情のまま、訳が分からないと首をかしげる。


「なんで?」


 ……お前さぁ。本当にやっていいことと悪いことがあるぞ。


 この状況に呆れた俺はバカなことをしたコユミに向かって、なぜマサクが鼻血を出したかを答える。


「……そりゃあそうなるだろ」

「?」

「あのなぁ……健全な男子相手に()()とかすんなよ。男子はそれだけで勘違いしちまう生き物なんだ」


 正座をするコユミの足の上にはマサクの頭。光景が非常に不健全だ。


 おそらく、俺がタオルをとりに行くまでの間、膝枕をしてマサクの体勢を楽にしようとしたのだろう。

 対して、気を取り戻したマサクは目を開ければ好きな人に膝枕されているというラッキーシチュエーション。自分の頭をなでるコユミに息をする間もなく興奮して楽に死ねたというわけだ。


 ……あほくさ。もういっそ付き合えばいいのに。


「コユミ。タオルはもっと必要か?」

「……ん」


 結局俺は洗濯室を二往復することになり、ふわふわのタオルは深紅に染まった。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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