伝説の聖剣は砕けない
「……ねぇ」
「……」
「また全階層が一人の勇者に突破されたって……ホント?」
「そう……みたい……だな」
目の前に迫る深刻な状況に、俺とヒルダは石畳を見つめ現実逃避を計る。
今回はマジ目にヤバい。本当にどうしようもなくマジだ。
「こ、今回は偏った罠の配置はしてないわよ? 私を責めないでね?」
「……分かってるさ。テンプレートに配置したのは知っている。それでも突破されたことがヤバいんだ」
普通ならヒルダを責めたいところなのだが、今回の罠は決して悪い配置ではなかった。
過去の魔王が配置したデータをもとに罠を張ったのだから、決定的な間違いではないはず。
それでも勇者が全階層を突破したということは魔王三千年の英知が突破されたことと等しい。
「私、逃げていいかしら?」
「お前が逃げたらそのツケは国民全員に回ってくるんだぞ。分かってんのか?」
「……そうね。私の後ろには全魔族の命がかかってるんだから、負けるわけにはいかない」
己の両頬をパンッと叩き、ヒルダが気合を入れる。
「グレイ、私の背中は任せたわ」
「了解」
仕事モードに入った俺とヒルダはそれぞれ玉座、玉座裏へと配置につく。
「かかってきなさい。魔王ヒルダの名において正面から打ち砕いてくれるわ」
魔王の間の扉が開かれる。
「よく来たな勇者。ここまで来たことは褒めてやる。……だが、貴様の墓場はこの魔王城だ。大人しく床のシミになるがいい」
「……」
「……少しは反応したらどうだ。無視するのは愚か者のすることだと思うぞ」
ヒルダが言葉を投げかけるも、勇者はかたくなに無視を決め込む。
……いや、本当にその勇者に自我はあるのか?
剣をだらりと下げた勇者は、まるで何かに操られているかのような印象を受けた。
「……イ」
「あ? 聞こえんな」
「魔王ニ答エル言葉ナド無イ。正義ノタメニ滅ビヨ」
「ッ!」
勇者が片言の言葉を放つやいなやヒルダに向かって切りかかる。
その様は明らかに他の勇者と格が違った。
「ハハハッ、不意打ちとは卑怯な! やはり勇者は生来より外道よ!」
ヒルダは獰猛な笑みを浮かべて剣のみねを掴んで受け止める。
……しかし
「熱っ!?」
ヒルダが剣を振り払い自身の手の平を確認する。
ッ……ヒルダが火傷しているだと!?
玉座裏でヒルダの傷を確認した俺は身を見開く。
「貴様……その剣、ただの聖剣ではないな」
ヒルダの装備にはもちろん炎耐性効果もついている。もしヒルダが火傷するとしたら、それはレヴィの炎や俺の技のような強い聖属性の攻撃を受けた時だ。
だが、魔王に触れるだけで傷をつけるほどの聖属性を纏う武器なんて古の遺物ぐらいだ。
明らかに異常なのは俺でもわかる。
一体、どんな聖剣なのだろうか。
ふと気になった俺は裏から双眼鏡で勇者の剣を確認する。
……。
その聖剣に絶句した俺は、とっさに携帯用通信機に手を伸ばす。
「レヴィ、緊急事態だ」
『んあ……? どうしたんだい?』
つないだのはレヴィ。以前の下水路事件からいつでも連絡できるように持たせておいたのがここで役に立った。
『今ミルダが私の膝の上で寝てるからあんまり動けないんだけど。声を大きくしたらミルダが起きちゃうから手短にしてね』
「なぁ、どうなったらそんな状況になるんだ? 膝枕って相当うちとけないとできない奴だよな、いつの間にそんな仲良くなったんだ? ……じゃなくて、それを超えるレベルで緊急事態だ。この場においてはミルダを投げ出して良い。全てはこのお兄様が責任を持つ」
『相棒、いったい何があったんだい?』
平和ボケしているレヴィはまったりした口調で問う。
まぁ、分からなくもない。俺だって今目の前で起こっていなかったら笑い飛ばしている。
「いいか、よく聞けよ?」
『うん』
「……ドローレスクを持った勇者が現れた。もしかしたら俺たちが人間大陸に行ったことがヒルダにバレるかも知れねぇ」
『……分かった。早急に向かう』
真面目トーンになったレヴィが即座に通信を切る。
流石は相棒、こういう時にはとても頼れるな。
……さてと、レヴィが来る前に、俺はやるべきことがある。
拮抗している勇者の視界に入らないように死角へと回りこみ────────
「ヒルダ! しゃがめ!」
「! どうせ助太刀するならもうちょっと早く来ればいいのに……ッ!」
俺の合図でヒルダがしゃがむ、その瞬間剣を振りかぶり
「『セイントヴァーチェ』ぇ!」
「……!」
光の斬撃を勇者が受け止める。
その隙にヒルダと立ち位置を交代、そして
「オラァ!」
「グ……」
勇者の手を思いっきり蹴り上げ、ドローレスクを手放させた。
伝説の聖剣が宙を舞い床に突き刺さる。
『なッ……、あの時の勇「っしゃおらぁ!」
ドローレスクの声をかき消すように叫ぶ。こいつと関係があることがヒルダにバレれば俺が人間大陸に行ったことが知られてしまう。それだけは避けなければならない。
ドローレスクに意識を乗っ取られていた勇者を軽く気絶させて窓から投げ捨てる。またコイツにドローレスクを握られればめんどくさいからな。
「お疲れヒルダ! ナイスタイミングで助かったぜ!」
「はぁ、助けるならもうちょっと早く助けて欲しかったわ。……そういえば、勇者の握っていた聖剣から声がしたような気がしたんだけど……」
「ハハハ! 気のせいじゃないかな!? そんな聖剣が喋るなんてこと無いじゃないか!」
「でも初代の使っていた魔剣は喋ってたわよ。城の宝物庫で」
「うっそマジで?」
まずい! こいつ、剣が喋ることに抵抗がないぞ!
プランA『幻聴でゴリ押す作戦』が早くも失敗した。
「グレイ、なんかあなた様子がおかしいわよ?」
「そ、そりゃあ喋る剣があるなんて言われたら動揺するじゃないか!」
「そう? そんなものかしら……。まぁ、確かめるのが一番早いわ」
興味を持ったヒルダが速足でドローレスクに近づく。
待て待て待て、それは世間が許しても俺が許さねぇ!
「落ち着けよヒルダ、アレはお前の装備の結界を貫通する聖属性を纏った聖剣なんだぜ。不意に触ってケガをしたらどうすんだよ」
「じゃあどうすればいいって言うのよ」
「そのために俺がいるんだろうが。俺は勇者だから聖属性には強いし、もしものことがあってもお前が死ぬよりかはマシだ。だから安心してそこに突っ立っておけ、な?」
「……ふーん。あなたも男としての自覚を持ってきたじゃない。いいわ、そのレディを傷つけない精神に免じて、今回はグレイの言う通りにしてあげる」
ヒルダが何やら感心した笑みを浮かべる。
良かった……! ポンコツ魔王様万歳……!
レディ(笑)が腕を組んで待機姿勢に入ったのを確認し、ドローレスクに近づく。
「おいてめぇ、どういう要件だコラ。罪のない勇者を操ってまで魔王を殺したいか」
『貴様ッ! これはどういう要件────────』
「あーこいつ壊れねぇかなー!」
ドローレスクの声がデカくなりそうだったのでぶっ壊す勢いで思いっきり叩く。
あわよくば壊れてくれ、初代勇者の愛剣だろうが大先輩の遺物だろうが知るか!
『な、何をするッ! 貴様本当に勇者か!』
「うるせぇ! 非人道的行為に手を染める聖剣に言われたくないわ! 静かにしやがれ!」
『うぬぬ……』
「というかお前、モンゴリアンに回収されたはずだっただろ。それはどうしたんだよ」
モンゴリアンがおいそれとドローレスクを手放すわけがない。筋トレ道具としてしっかりと活用しているはずだ。
俺が小さな声で聴くとドローレスクは
『あの日からというもの、我輩は剣として扱われなかった……。魔物を切る環境どころか、『筋肉キレてる! 筋肉キレてる!』と連呼する男どもがいる環境に置かれていた。……だがある日、我輩を盗みに来たやつがいてな。そいつはアストレイルには遠く及ばない愚物だったが、背に腹は代えられぬとそやつに握ることを許し精神を掌握。その足で魔王大陸まで来たというわけだ』
「やっぱ勇者ってクズだわ」
とんでもないことをしでかした勇者に歯噛みする。
お前が変なことを考えなければドローレスクは永遠にモンゴリアンの元で封印されていたというのに。なんてことをしてくれたんだ。
『……が、我輩がここに来たのも無駄ではなかった。貴様という最強の勇者がいたのだからな。さぁ、我輩を握っ──』
「ノーセンキュー!」
ドローレスクがセリフを言い終わる前に剣をバットにしてホームランをかます。
チッ、本当なら人間大陸までぶっ飛ばすつもりだったが、運よく壁に突き刺さったか。
ドローレスクに触れたら手が固定されてしまうのが歯がゆい。もしそれがなければもっとやりようがあるというのに。
『な、何をする!』
「あ? お前を壊そうとしているに決まってるだろ。剣があるから争いは生まれる。それならお前を壊したほうが世界のためだと思うんだ」
『とんでもない暴論だなッ!」
暴力を振るうための道具には言われたくねぇわ。
炭鉱夫のようにカンカンとドローレス叩く。
「くそっ、アホみたいに硬いな」
『フハハハハ! 我輩は至高の聖剣ぞ!? 勇者の力に耐えきれる硬度になっているに決まっているだろう!?』
なんてやつだ。俺の力で折れない剣なんてお前が初めてだ……!
「ねぇグレイ。早くしてくれない?」
「分かってるよ! 今から全力でぶっ壊す!」
ああ、もう! 完全に堪忍袋の尾がキレたぜぇ!
体に支障が出ない範囲で最大火力をぶつけてやるよ!
「『セイント』ォー!」
『無駄だ。我は壊れんよ』
俺の一撃の予備動作を見てもなお、ドローレスクは焦るどころか余裕の口調を見せる。
うるせぇ! やってみねぇと────
『我はただの炎ではない。神の炎で鍛えられた聖剣の中の聖剣だ。そんな貴様一撃など────!」
「……今、神の炎で鍛えられたって言ったか?」
『うむ。確かに言ったが……ハッ!?」
ドローレスクの余裕ががついに壊れた。
ぬかったなアホがぁ!
「はぁ……はぁ…。あ、相棒、来たよ」
「ナイスタイミングだレヴィ! お前こそ今一番必要とされた人材だ!」
主役は遅れてやってくるとはよく言ったもので、レヴィが魔王の間に到着する。
『き、貴様……その神龍に何を命令するつもりだ!』
「何って……お前がおそらく想像したことだよ」
ドローレスク、お前の敗北の原因は三千年前よりも平和になった世界を甘く見たことだ。
神の炎を使えるやつがこの世界にいないと思ったのだろうが……違うな。
いるんだよ! 一人だけ、この世界で唯一神の炎を使える奴がな!
俺はガタガタと震える哀れな聖剣を見てニタリと笑う。
「なぁドローレスク。お前は三千年も聖剣として頑張ったんだ。……俺がジョブチェンジさせて第二の人生を送らせてやるよ!」
『やめろぉおおお!!』
「たのも―! 私の筋トレ道具が魔王大陸に渡ったと聞いたのだが……ぬ?」
「やぁやぁモンゴリアン。待っていたよ」
モンゴリアンが魔王の間の扉をぶち破り現れた。
おおむね予定通りだ
それに対し、俺はにこやかに対応する。
「確かに、モンゴリアンの愛しき筋トレ道具はここに来た。それも勇者を操ってね」
「そうか。それはすまないことをした。……で、私の筋トレ道具はどこにある」
「そう、それだ! 俺が待っていたのはその質問! 実は日頃お世話になっているモンゴリアンに感謝の気持ちを示し、我々はあるプレゼントを贈ることにした! ぜひ受け取ってもらいたい!」
微妙な顔をするレヴィから箱を受け取り、モンゴリアンに渡す。
「開けてみてくれ」
「うむ……おお!」
『殺せ……殺してくれ……』
モンゴリアンの驚嘆と同時に箱の中から怨嗟が漏れる。
そう、ドローレスクは神炎により聖剣から見事なビフォーアフターを遂げ、正式に鉄アレイとしての道を歩み始めたのだ。これも俺のアイデアと匠の技のたまものである。
「素晴らしい、素晴らしいぞ! ほど良い重さだ!」
『ぬおおおおお!!』
モンゴリアンが無邪気にドローレスクを振り回す。
気に入ってくれて何よりだ。
「モンゴリアン、これをぜひ人間大陸に持ち帰って筋肉に磨きをかけてくれ」
「うむ! 心得た! 友の好意は無下にできん。早速鍛えるとするぞ!」
『貴様ぁぁあああ!!』
こうして、魔王に対する危険分子が無力化し、俺の秘密を知るやつが一人消えた。
やっぱり、古い物はリサイクルして必要な人に渡すに限るよね。
みんなも俺のように使い古したものははすぐに捨てずにリサイクルするよう心がけよう。
グレイさんとの約束だよ?
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




