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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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魔王様と青春

「私だって、学生でした」


 魔王様が目の前の有望な子供たちに言う。

 それぞれが目を輝かせ、ヒルダという大先輩を羨望の眼差しを向けていた。


 今、なぜヒルダがこんな真面目なことを言っているのかというと、いわゆる卒業生講演である。

 魔王様は何年かに一回、こうして魔王学園の後輩たちに夢を語り、未来へのモチベーションを上げる行事があるのだ。


 まぁ、一国の王に夢を語られれば、国民は嫌でもその講演に耳を傾けなければならるまい。よくこんなどうでもいい思い出語りを聞けるな、お前ら。


「先生、この行事に意味あるんですか? 俺からしたら退屈この上ないんですけど」

「ったく分かってねぇな。ガキは有名人の言葉を聞くだけで心が洗われたような気持ちになるんだよ。特にヒルダは王様だ。悪ガキどもも少しは聞く耳を持つだろ」


 この行事自体に疑問を持つ俺に、珍しく礼服を着たアゼル先生が腕組みしながら言う。


 俺はこの学校に通っていないから分からないが、生徒とはそんな単純なものなのか。


 来賓席でヒルダの話に欠伸をかましつつ、時が過ぎるのを待つ。


「私はこの学校で多くのことを学びました。友達もたくさんできました。勉強は大変だったけど……、それ以上に学園生活が楽しかったです」

「何言ってんだお前。城に帰るなり俺にカバンぶつけて『ああああ卒業したいィ!! グレイみたいに一日中ゴロゴロしていたいィ!』って叫んでいたじゃねぇか」

「言ってやるなバカ野郎。生徒ども(あいつら)の中でのヒルダは現実の百倍美化されてんだ。夢を語らせていい部分だけを見させとけ」


 俺と先生はギロッとした目で気持ちよく武勇伝を語るヒルダを見る。

 ヒルダの学園生活を知る俺たちにとって、ヒルダが青春テンプレートを語っているのは気にいらないのだ。


「私の思い出はなんと言っても体育祭です。体を動かし、いい汗を流し、友情を育める。まさに青春でした」

「嘘つけ。体育でしか無双できねぇからそんなこと言ってるんだろ。ヒルダのやつ、体育だけは最高ランクだったからな。模擬城防衛線で単身で前線に突っ込んで敵陣の旗もぎ取ってたもんな」

「やめろグレイ。私にもぶっ刺さるからこれ以上何も言うな」


 おっと、そういえば隣にも脳筋がいた。これは失言だった。

 そういえばアゼル先生も似たようなものだったとお義母さんから聞いている。


「私が次世代魔王よ! 死にたい奴からかかってきなさい!」と敵を蹴り散らしていく若かりしヒルダを思い出しつつ、ヒルダの自分語りに意識を戻す。


「もちろん、私が全部が全部順風満帆だったとは言えません。魔王とはいえ、ここにいるみんなのように一人の魔族です。くじけそうなこともありましたし、自分の部屋で泣いたこともありました」

「あーあったあった。アゼル先生の課題プリントを無くした時、泣きながら俺に縋りついてきたもんな。シルフィーナもアニマも助けてくれないって。結局俺が学校に忍び込んでプリントのコピーをとって来たんだが」

「それはたぶん違うな……っておい、さらっと何やってんだコラ。部外者が学園に入るのは不法侵入だぞ」


 あれはヤバかった。なにせヒルダが学園で何かをやらかしたら先生の機嫌が露骨に悪くなる。


 俺達は小さいころは週末にアゼル先生が城に来て毎回半殺しにされていたのだが、ヒルダがやらかした週のしごきだけは本当に悲惨だった。

 今でも先生のかかと落としの傷が痛む。


「だけど、この学園生活は私のかけがえのない糧となってくれています。皆さん、今は苦しいし、不満に思うことはあるでしょうが、それもいい経験です。きっと役に立つ時が来ます。絶対に。だから皆さん、この学園で青春を謳歌して下さい。たった一度しかない学園生活、楽しまなきゃ損ですよ」


 そう締めくくり、魔王様の自慢大会が終了した。

 俺、先生、そして生徒たちは立ち上がりヒルダに拍手を送る。

 イイ話ダナー。ヒルダの実情を知らなければ。


 頃合いを見計らい、アゼル先生が拡声器を手に取る。


「あい、静粛に。なかなかの演説だったぜヒルダ。花丸をくれてやるよ。……んで、だ。今からはお前らお待ちかねの質問タイムだ。魔王サマに質問できる機会なんてそうそうないぞ。私に媚を売っていた奴から優先的に当てていくからな。……なんだよお前ら、その不服そうな目は。私は昔からそういう性格だってことはお前らも知ってんだろ。じゃあいくぞー」


 よくクビにならねぇなこの教師、えこひいきを公言しやがった。

 この国の未来が危ぶまれる。


「それじゃあ……生徒会長、お前からだ」

「はい」


 いかにも縮尺定規なメガネ女子が席を立つ。


「魔王陛下、魔王陛下はどのような勉学をなされてきたのでしょうか?」

「は、はぁ? というと?」

「私は将来、国のために働こうと思っております。そのためにも、我ら国民のために身をすり減らしてくださる陛下の勉強方法についてご教授願いたいです。魔王様のおっしゃった通り、きっと未来で役に立つと思いまして」

「え、えぇ……」


 少女の無垢でほっこりする質問に魔王陛下は顔を引きつらせる。

 見る目ねぇなこいつ、ヒルダの頭に勉強法なんて高度な技術が入ってると思ってんのか。


「どうなんだ魔王様、勿論あるよなぁ?」

「えっ……」


 追撃にアゼル先生がニンマリと悪魔のような笑みを浮かべる。

 勿論、アゼル先生はヒルダがバカであり、テストでは毎回進級スレスレの点数をとっていたのを熟知している。ほんと何で教師を続けられるんだろうな。


 ヒルダはあまたの純粋な視線を受けながら口を開く。


「よ、余裕をもって、前々から勉強することですかね。私は意識してやったことはありませんが、何事も見切り発車では最良の結果は生み出せません。前々から努力を積み重ね、来るべき日に備えましょう」

「なるほど……つまり陛下は意識せずとも計画的に物事を進めることができたということですね?」

「うっ……」

「素晴らしいです。感動しました。まだまだ私にも見直すべきところがあるようです。ご指摘とご教授、ありがとうございした」


 ヒルダの言葉に拍手が起こる。


 素晴らしいな、自身の経験から学んだことを正直に言ってこの結果だ。

 いやはや、感服するよヒルダ。その反面教師ぶりに。


 ちなみに補足するなら、ヒルダの得意技は一夜漬けである。


「だとよ、お前ら生徒もこの偉大なる魔王サマを見習って計画的に行動しような。な? 返事は?」

『はい』


 生徒に混じってヒルダが小さな声で返事をする。

 先生、完全にヒルダをからかってやがるな。いいぞもっとやれ。


「さてと、じゃあ次のやつな。……んじゃあそこの男子。なるべく有意義な質問をしろよ?」

「分かってますよ、先生」


 今度は最前列にいた男が拡声器を持つ。


「陛下、ご講演から陛下はよき青春を送っていたと聞きましたが……過去に彼氏は何人いましたかッ!」

『おおっ!』


 男子の勇気ある発言で全生徒が沸き立つ。これもヒルダが積み上げてきたフレンドリーな国王像が故の発言だろう。

 確かにヒルダの恋愛事情を聴くことは一般国民にとって非常に有意義だ。思春期野郎にしてはよくやったと褒めてやりたい。

 ……だが、それを聞くには時と場所が悪かった。


「……あぐっ!?」


 鈍い音と共に人が倒れる音がする。


「このマセガキが……! 私への当てつけか? 他人のモテ自慢を聞いてどうすんだよ」


 転がる拡声器からハウリングと同時に出る翼をもがれたキューピッドの怨念。

 世の中には肝が据わったやつがいるんだなぁ。俺だったら怖すぎて恋愛の『れ』の字も言えない。


「ヒルダ、こいつの質問には答えんな。あとでこのクソガキは不敬罪として処してやるから」

「は、はぁ……」


 そう言って、アゼル先生は胸ポケットを触り始める。

 これは今すぐ煙草を吸いたいというサインだ。アゼル先生の癖である。


「チッ、時間を食ったな。魔王サマ、今日はどうもウチのガキどもの酔狂に付き合ってくださりありがとうございました」

「え、ええ? あと二十分ぐらい余裕がありますけど?」

「お前もボロが出ないうちに帰った方がいいだろ。あとの二十分は私が説教タイムに使ってやるよ」

「は、はいぃ」


 ヒルダが頭をぺこりと下げ、そそくさと壇上を降りる。その顔は困惑に満ちていた。


 その後、アゼル先生の怒声と不純異性交遊防止の啓発が響き渡ったのは言うまでもない。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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